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大二病棟へようこそ!  作者: 兼坂 真白
つまらない小説の主人公は大体思弁的かつ表層的な物言いしかしない
4/6

このくだらない大学生活に衝撃を!③

 よりによって5限目は校舎の一番奥の号館で講義だから、帰るのが面倒だ。この一番奥の校舎15棟(通称チベット)は、巨大なこの大学の最果てに位置するちょっと古めの号館である。この大学はもともと木が多く茂っているのだが、特にこの号館はもはやジャングルと言わんばかりの森林地帯の一角にあるため、外が薄暗くなると少々不気味だ。


 これまた退屈な授業を聞きながら、思考だけが頭を遊離して勝手に考え始める。


 大学生というのは、よくわからない生き物だ。

 世間的には、大学生というのは「モラトリアム(猶予)期間」という括りに相当するらしい。社会人になる前の、つかの間の休息ってわけだ。だから大学生っていうのは、馬鹿みたいに酒を飲んで、馬鹿みたいに騒いで、馬鹿みたいにつるんで遊んで、馬鹿みたいに恋愛し、そしてそれがあたかも正統派であるかのようだ。さっきだって、由紀奈の側が「正統派大学生」で、おれのほうは「失敗した大学生」の分類になるのだろう。


 かつて(といっても去年だが)大学に入学したときは、俺だって何かが変わるような予感がしたもんだ。もう中二病も高二病も卒業していた俺はさすがに急に宇宙人と未来人と超能力者が来て女の子と二人だけで閉鎖空間にランデブーなんて期待はしていなかったが(本当だ)、自分の力で手が届く範囲がぐーんと広まっていくような、そしてその先に世界の、そして自分にとっての何かが見つかると思っていたんだ。


 でも実際はそんなことなかった。

 大学生の頭の中は(おれが知り合った限りでは)恋愛、バイト、サークルで隅から隅まで埋め尽され、「授業きりてえー」が大学一年生の流行語となった。教授たちはかつて自分たちが没頭した全共闘の時代の話に花を咲かせるが、バブル崩壊後に生まれ華やかな日本社会はまるでおとぎ話のようにしか思っていない俺たち「ゆとり世代」にとっては、そんな話新石器時代の青銅の話とさして変わらない。授業では後ろの席の人間は授業時間中もやたらめったら話してるし、なんならこの間は講義中に鍋焼きうどんを食っているやつもいた。日本有数の私立大が聞いて呆れる。


 こんな状況の中で、どうやって大学生活を楽しめと言うのだろう。

 どうやって、このつまらない、くだらない、生産性のないこの素晴らしき世界を謳歌すればいいというのだろう。

 どうやって。

 俺は自分と折り合いをつければいいと、いうのだろう。



 そんなことを考えていたら、5限目も終わり。

 夕暮れで暗くなり始めた教室を、他の学生がいなくなるのを見計らって出る。外はもう日が落ち始め、空は天才画家の書いた作品「青空」に助手が夕焼け色のペンキをぶちまけたかのようにへたくそに塗りつぶされていた。


 つまらない世界、くだらない世界、退屈な世界。

 そんなモノクロの世界を、俺は大人になってどう振り返るのだろう。

 大人になって。きっとこのまま、特に何も起きないまま、このモノクロの世界は映写機を回し続け、人間を社会に送り出していくんだろう。つかの間の猶予を与えてから。


 空を仰いで。

 思わずつぶやく。


「やってらんねーなーあ」





「では、私と来ますか?」

澄んだ、凛と響く声が、風に乗って聞こえた。


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