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虹色の雨  作者: 冬紀 咲
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プロローグ

よくある話だが、聞いたことがある。

大切な人は失ってから気付く、と。


「なによこれ!」

叫ぶような母の声と共に目覚めた。朝かと思ったがカーテンから刺す光はまだ白い。

今は何時なのだろう。一体何があったのだろう。いろいろな疑問を抱えながら自室から出た。

窓から漏れるほんのりとした月の光を頼りに暗い廊下を進み、騒がしい場所へ向かう。リビングの扉を取手をつかみ、開けようとしたのだが、それより前にドアが開いた。

なんだ、このドアって自動だったのか。そう思ったもつかの間、すごい勢いでドアと衝突した。


「いった……」

よく考えてみれば数年間住んでいるこの家のリビングのドアが自動だったことに気がつかないはずがなかった。けれど、そんな事を考えてしまったのは、つい数分前に起きて脳が覚醒していなかったためだろう。

額が痛む。誰だよと毒づきながら、額を抑え、目の前のそいつの顔を睨む。


「ごめん__ってなんだ兄さんか」


「おい、拓也。一言余計だよ」


「そんなことよりこっちきて」


小さい頃は俺よりも背が低くて可愛かったのに。


俺より、数センチ高い拓也の後ろ姿を追いかけてリビングへ入った。




入った先で見たのは想像を絶するものだった。




『現在、原因不明の虹色をした雨が日本各地で降っており、だんだんと勢いを増していきます』


『速報が入りました! 虹色の雨に触れた人達は亡くなってしまうそうです__』



「くそっ、なんだよ、これは!」


父__千秋 永登__が声を上げた。

その隣で母の千秋 里見は涙を流している。


しかし、彼らに反して、弟の拓也は全く興味がなさそうに携帯をさわっている。



俺はというと、


「嘘だろ……?」


テレビに流れている映像に釘付けになっていた。


こんなに突飛な話を信じる方が馬鹿だと思ってはいるが、内心、本当だったらどうしようという思いが駆け巡る。


当たり前と言ったら当たり前なのだが、日本には俺の大切な人達がいる。その人達が、皆死んでしまうと考えると、気が気ではなかった。



次の瞬間、俺は絶望したのだ。


『またもや速報が入りました! 雨雪町、という町を中心的にこの雨は降り注いでいるそうです!』


そして、俺はこんな突飛な話に確信を持つことになる。


テレビの人達が混乱し始めるのを前に、何があったんだ、と映像が映る画面に目を光らせた。

テレビからアナウンスが入ったのと、画面が動画へと変わったのは丁度同じ時だった。



『たった今、無名の人から、虹色の雨で亡くなった方の映像が送られて来ました』


もう既に、周りに何人かが倒れているその光景は、見るに耐えなかった。


そして映像はある人を中心に映った。

当初は普通だったのだが、急に声をあげ、倒れてしまった。

仲間らしき人は 「なんで! 当たったのはほんの少しだっただろ? なんでお前がこんな目に」と涙ながらに声をあげていた。

そこでやっと気が付いたのだが、どうやらこの動画は早送りされているようだった。


再度、画面が切り替わり、ニュース番組に戻った。



アナウンサーが口を開いた直後、誰かが声を荒げた。


『虹色の雨がこのビルに入って来た! 全員、窓をちゃんと閉めろ! もう下の階は埋まってるぞ』


否、先程のはまだまだ絶望の一部に過ぎなかったのかもしれない。


テレビの人が、我先に、と走り、周りの人なんて気にも留めない光景は、あの映像と同じくらい地獄のように思えた。



もうどうしようもなかった。雪が降るように涙が流れた。俺は、日本には住んでいない。父の仕事の都合で、フランスのパリに滞在中だ。


俺には、故郷__雨雪町__にいる、友達を救えもしないし、守れもしない。黙って指を咥えて、時間が経って雨が消えてから日本に行き、あいつらの生死を確認するしか無いのだろう。



ふと、何かを思い出した。

しかし、思い出したそれは、俺を悲しませる材料の一部でしかなかった。

また俺は、止まっていた涙が頬から溢れ出した。今回の涙は、先程のとは違って、水道から流れる水のように落ちてきた。



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