巨大な野菜
翌朝、小坂香織が、朝食を運んで来た。近頃、見たことのない典型的な和食だ。
食事の後で、簡単に熱を計って脈をとる。痛みの有無を確認し、痛み止めをくれた。そのてきぱきとした様が、あまりにも慣れた様子なので、思わず訊いた。
「君は、看護師助手だって言ってたけど、慣れてるみたいだね。俺みたいなヤツがしょっちゅう怪我するのか?」
「ううん。余所の人は珍しいの。たまに戦闘があって、ここの住人が怪我することがあるから……」
「戦闘って?」
「ここには、食べ物があるでしょ?だから、ここを征服して、食べ物にありつこうって、バカが出て来るの」
「それで、戦闘になるのか?」
「ええ、たいてい、簡単に撃退するんだけど、時々、怪我人が出ることがあって……ここも、結構大変なのよ」
絶句した。
私達も食べ物を探した。でも、襲撃してまで奪おうとするか?あり得ない。
昨日、山道陽一が、あのトラップはここを暴徒から護るためのものだと言っていた。何とはなしに聞き流したが、ここは、日常的に暴徒の襲撃にさらされていたのだ。この食料難では、ここでさえ安全ではないのだ。
しばらくして、香織が、内職のような手仕事を持って来た。
「どうせ、退屈してるでしょ?仕事、手伝ってくれない?」
と、あっけらかんと笑う。
「何をするんだ?」
「このコードの印がついているところに、こっちの風力発電装置をこうやってつけるの」
「こんなもの、何に使うんだ?」
「ノーコメント。ここにいる以上、余計なことに首を突っ込まないで黙って働くこと。ここでは、食事が保障されるわ。でも、あなたが食べた食料だって、私達が必死で働いて作ったものなのよ。ちゃんと働いてもらわないと。
昨日、おじさん達から話があったでしょ?」
道理だった。この食料難に、食べ物と治療の提供を受けているのだ。頼まれた仕事をするのが筋と言うものだろう。
「坂本くんは、農作業を手伝ってくれてるわ」
香織が、作業しながら笑った。
昼ご飯が終わると、彼女は、別の作業をするからと、何かあったらナースコールするよう言って、病室を出て行った。
夕方、坂本が顔を覗かせた。一日の農作業が終わったのだという。
坂本は、慣れない仕事にくたくたになりながらも、興奮の面もちでまくし立てた。
「斉藤、信じられねえ。ここのトマトは、普通の倍の大きさなんだ。トマトだけじぇねえ。キュウリだって、ナスだって、とんでもねえ大きさなんだ」
「どうやって、そんなものができるんだろう?」
「何でも、ここで発明した植物を倍の大きさにする薬を収穫前に散布するんだそうだ。そうすると、最後に全細胞が細胞分裂して大きな作物ができるらしい。あの暴動が頻発した魔の十年の時、ここの進入路を知っていた連中全員をここへ受け入れるためには、どうしても、食料を倍以上にしなくちゃならなかったらしい。
で、考えたあげくに、そんな薬を発明したらしい」
「でも、どうして、世界中に、その薬を公表しないんだろう?」
「ここの住人に、女が増えたせいだと。
実際、生まれるのは圧倒的に女ばっからしいんだ。で、その薬の影響じゃないかって検証中らしい」
「その間に、餓死者が出る」
「でも、人類が女ばっかになったら、それこそ、滅びるって言うんだ」
とんでもない隠れ里だった。
「坂本。情報収集を頼む。ここが隠れ里だってことは分かった。俺達に好意的だってことも分かった。トマトやナスやキュウリが普通じゃない大きさだってことも分かった。後は、ここが俺達に好意的なのは、どうしてかってことを調べて欲しい。じゃないと、親切だったのは、俺達をクリスマスまで太らせて、食べるためだったってことになりかねない」
「……食べる?」
坂本の目が、点になった。
「こんがりローストした丸々と太った男が二匹。付け合わせが、巨大なトマトやキュウリのサラダってわけだ」
言いながら、不味そうなメニューだと思った。
「考えすぎだ。あいつ等に悪意はない。第一、それじゃあ、お前の足を治す意味がないじゃないか」
「……確かに。でも……気になるんだ」
「分かった。調べてみる」
私は、怪我で動けないのだ。いくら危なっかしくても、坂本の諜報活動に期待するしかないじゃないか。
坂本くんの諜報活動って信頼できるものなんでしょうか?疑問です。