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遠い記憶  作者: 椿 雅香
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再会

いよいよです。斉藤とユイが再会します。どっちもおじさんとおばさんになってるんですけど…。

ⅩⅡ 再会


 バラバラと大きな音と爆風が聞こえた。

 ヘリコプターか?桃源郷にヘリコプターなんて、あり得ない。

 リビングで待機してた人々が、わらわらと走り出る。すすり泣きが聞こえる。心配そうに見つめる。

 慌てて表へ出ると、ヘリコプターから、少年が病人を抱いて下りるのが見えた。空港から、ヘリコプターをチャーターして急行したのだ。


 少年を一目見て、空だと直感した。


 空は、ユイを抱いていた。心配そうな舜先生が寄り添っている。


「香織ちゃん、病室の用意は?」

 舜先生が尋ねた。

「できてます」

 いつの間に現れたのだろう。香織が、看護師の見本のような声で言った。貫禄のある立派な看護師になっている。

「じゃあ、斉藤くん、こっちだ」

 舜先生が、空に向かって言うと、空も、何事もないような顔で答える。

「はい」


 一瞬、会話の意味が分からなかった。

 しばらくして、ユイを中心にして、二人が芝居をしていることに気が付いた。


 どやどやと、一同が病室へ向かうと、陽一だろう、鋭い目をした老人が、ヘリコプターの操縦士に、飲み物を渡しながら何かささやくのが見えた。

 あの飲み物には、例の薬が入っていて、機械のデータの方は、何らかの方法で消すのだろう。


 病室のベッドにユイを横たえ、舜先生が診察し、香織が点滴をぶら下げた。

「空の……授業参観……一緒に…」

 熱にうなされたユイがつぶやく。

「ああ。三人して手繋いで、一緒に行こう。だから、早く良くなって」

 空が言った。

「さいとう……さん……空…大きく…なったでしょ?斉藤…さんに…似て…るでしょ?」

「ああ、よく似てる。俺にそっくりだ」

 空が答えた。

 

 十六、七歳だろうか。空は、桃源郷に迷い込んだ頃の私によく似た容姿をしていた。


 ユイが空の手を握る。空が、舜先生が凛博士にしていたように、そっとくるむようにユイを抱いた。

 最後の朝、私が抱いた形だ。

 私は、最後になるまで、ああやって抱いてやらなかった。ユイは、心の底でどんなに望んでいただろう。空はそれを知っているから、私の代わりにああやって抱いているのだ。


 思わず、前へ進み出て、声を掛けた。

「空、代わって欲しい」

 

 突然現れた私を見て、居合わせた一同が、どよめいた。ユイを迎えるどさくさで、私の来訪を知らされていなかったのだ。


 舜先生と空それに凛博士も、目を見張った。想定外なのだ。

 

 若菜が小さな声で告げた。

「さっき、解毒剤飲ませたの」

 

 舜先生が頷いて、私達家族以外は、病室を出るよう促した。

 空は、唖然として、口が利けない。

「空、大きくなったな。ユイを、ありがとう」

 そう言うと、いつもユイがしていたように、ベッドの側にドクターの椅子を引き寄せた。

「ユイ、無茶したんだって?」

 ユイの手を握って問いかけた。

「?」

「俺が……誰だか、分かるか?」


 熱で朦朧としていて、目の焦点が合わない。

「お前、変わらないな。相変わらず、ネコ相手に実験したり、計測したりしてるんじゃないか?」

 ゆっくり、私の方を見る。

「あんまりバカバカしいことしてると、空に相手にされなくなるぞ」

「さいとう…さん?どうして?ボク……迎えに……行かな…かったのに」

 涙が流れた。

「さいとうさん……結婚…してた…から……諦めた…」

「罰があたった。お前を忘れて結婚した罰だ。二人とも死んだ」

「……可哀想」

「お前が、もっと、可哀想だ」

「ボク……空が…いる……斉藤…さん……そっくり…みんな……言う……寂しく……ない」

「空……男だったんだ」

「……うん」

「お前の仮説の通りだったな。舜先生も、凛博士も、喜んだだろう?」

「うん」

「そういえば……ターニングポイントに前後して八百屋やスーパーに大きな野菜が売られるようになったな。あの薬のせいじゃないって、確認できたからか」

「…そう」

「お前、空の授業参観、北極行ってて、行ってやらなかったんだって?」

「中学……行った」

「バカ、中学のは、おもしろくないんだ。幼稚園や小学校じゃないと、日曜参観もないだろ?」

「それで……日曜日…じゃ…なかったんだ」

「ったく、気楽なヤツだ」

「ここ……どうして……来れた…の?」

「自分で来た。ここんとこ、何となく、ここへ来たかったんだ。ズッと夢で見ていた」

「?」

「細い山道を歩いてて、絶壁で右に曲がる。杉林や広葉樹の森を抜けて、田圃や畑がある。その向こうに、集落があって、古い大きな民家があるんだ。夢の中で、俺は誰かと手を繋いでいた。その手は冷たくて、さっきまで泣いてたんだろうな、濡れているんだ」


 静かに涙を流すユイをそっと抱きしめた。


「あの薬の影響下でも、こんなことがあるんだな」

 背後で、舜先生がポツリと言うのが、聞こえた。

 消毒薬の臭いに混じって、かすかにクチナシの香りがした。




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