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遠い記憶  作者: 椿 雅香
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小野寺博士の里


 そんな坂本も、情報収集には、真面目に働いた。もっとも、私が思うように動けないのだから、あいつに頑張ってもらうしかないのだが。


 そうして、一日の終わりに、その日、調べたことを報告してくれた。



「斉藤、ここって、あれだ。例の小野寺博士が作った集落だったんだ」

「小野寺博士って?」

「聞いたことないか?

 昔、このまま行くと、地球温暖化が進んで人類が滅びるって、大騒ぎした学者のじいさんがいたんだ。で、石油、ガス、電気なんかの大資本が袋だたきにしたんだ。そのじいさん、仲間とどっかの廃村に入植したって噂だったんだけど、ここだったんだなあ。

 お袋が若い頃、雑誌か何かで読んだらしい。俺が小さい頃、そんなところが日本のどこかにあるんだって、話してくれたんだ。できたら、そこへ行きたいもんだって言って、俺も子供心にそう思ったもんだ。

 その雑誌によりゃ、博士は、風力や小水力発電で電気も作るし、海水淡水化装置を使って、どんな水不足も乗り切ることができるって話だったんだ。

 夢物語だって思ってたけど、実在したんだな。ここじゃ、風力や小水力発電で電気を作ってる。お前が作ってた、あの例の電線に風力発電装置が付いた、あの部品がそれだ。それに、時々、陽一さんや慎二さんが、崖っぷちの洞穴に出掛けて、機械のメンテに行ってるだろ?絶対、海水淡水化装置があるんだ」


 

 信じられないことだった。



 数日後、坂本は、もっとすごい話を拾って来た。


「斉藤、とんでもない話だ」

「どうした?」

 この頃の坂本は、オオカミ少年だ。坂本の『とんでもない話』には、慣れっこだ。

「さっき聞いたんだ。ここの究極の目的は、地球温暖化をくい止めることだそうだ。それで、ここの中心人物の凛博士――小野寺博士の孫で舜先生の嫁さんだそうだ――が二酸化炭素を酸素と炭素に分解して、その際に出るエネルギーを電気に変える研究をしてるって話だ」

「そんな大それた研究、こんなちんけな集落でできるのか?」



 目を剥いた。



「ネットで、同じ研究をしている連中と連絡取り合ってるらしい。助手として、片山律子や依子の父親と、凛博士と舜先生の子供が手伝ってるって話だ」




 私は、少しずつ回復し、ギプスの足で、農作業を手伝うようになった。


 坂本が言うように、ここには、食べ物が何でもあった。田圃には、稲が豊かに育ち、稲の間を合鴨が悠然と泳いでいた。畑は、夏野菜の品評会だ。しかも、その大きさが普通の二倍から四倍はあるのだ。その作物を収穫したり、土を耕したり、苗を植えたりするのが、私達の仕事だ。


 どの野菜も、通常の大きさじゃないのだ。収穫するのも、運ぶもの一仕事だ。足が不自由だとは言え、私は男だ。力仕事で、頼りにされた。

 作業の休憩時間に山道麻美が、農場を案内してくれた。広い農場をウロウロするのだ。麻美が、電動バイク――驚いたことにホバークラフトになっていて、でこぼこ道でもスムーズに走行できた――を用意して来て、後ろに乗せてくれた。


「こっちから向こうが、田圃。あっちが、畑。畑の向こうの大きな建物が、豚小屋と牛小屋。小さいのが、鶏小屋になってるの。そこの崖から海に出るようになってて、水野のおじさんが漁に出るの」

「水野のおじさんって水野慎二さんのこと?」

「ええ、そうよ。亡くなったおじさんのお父さんが漁師だったの。だから、おじさんも漁業担当になったってわけ。今朝の朝ご飯のアジの干物も、おじさんが捕って来たアジで作ったものなの」

 アジの干物を自分達で作るのだ。そういえば、牛乳や卵だって、自給自足だ。とんでもない集団だった。

「でも、斉藤くんにお願いするのは、もっぱら、農場での作業になるだろうから、この先は、行かない方がいいわ。時々、猟をするから危ないの」

「猟って?」

「ライフル使って、鳥やウサギや鹿なんかを獲るの」

「そんなことできる人間がいるんですか?」

「ええ、一番上手なのは、舜先生親子、あの親子、指導に当たった山道のおじいちゃん――去年亡くなったんだけど射撃の名手だったの――より上手になってしまって、息子の陽一おじさんと健二おじさんが、冗談半分で、すねてたもの」


 食べ物を手に入れるため、ここまでするのだ。廃村に残された食べ物を探すという自分達の甘さに溜息が出た。あのまま続けていたら、それこそ、のたれ死にしてただろう。



ここに出てくる小野寺博士のことは、別の話で書きました。そのうち、アップするつもりです。

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