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「では貴女には使命を与えます」
おい、そんなの聞いてないぞ
「だってそんなにチート能力をつけたのにタダっていうわけにはいかないですよ」
は?だったら減らしていいから!
「無理です。一回つけてしまったものは一生外れません」
バッカじゃないの!あんた神様なんでしょ!
「ええ、そうですとも」
そもそも私がこんなことになってるはあんたが間違えて私を殺したからで…
「いいえ、それは違います。貴女は貴女の国でいう邪神の手違いで殺されたのです」
同じ神様なんだから一緒でしょ、連帯責任よっ!
「…しょうがありません。私ももう少し穏便に行きたかったのですが…」
え、ちょ、こっちくんな!
「可哀想な貴女に10の能力を与えました。そしてこれが私の最後に与えるモノです」
あ、あんた神様だからって…!
「あの世界の物語を壊すこと、それが世界の歪を直す術。貴女はネリア・ローゼナートとして生まれ変わりあの男を堕とすのです!!」
意味わかんないっ、ちょ、も、いやあああああぁぁぁーーーーっ!!
そうして私、松村鈴枝は前世を捨て来世であり現在の姿であるネリア・ローゼナートに生まれ変わった。
……強制的にねっ!!ぶっ殺してやるーーー!
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「ふふふふふ、今日も完璧!」
鏡に映るのはすらりとした身長にくびれた腰、そして大きな胸!
しかもサラサラの金髪はお尻までありもちろん枝毛なんてない。つやつやのさらさらストレートである。そしてぱっちりした垂れ目の瞳に高く小さい鼻、唇は可愛いピンク色で私が男だったらむしゃぶりつきたくなるぐらい魅力的。
「お嬢様、本日はどのリボンを?」
侍女のリーナたくさんのリボンを私の目の前に差し出してくる。ほかの侍女も続くように見せる。
「先日買ったばっかりのはどこ?」
「こちらでございます」
あら、仕事が早いのね褒めてあげるわ
「やっぱりお姫様っていったらりリボンよね〜」
「お嬢様は姫殿下ではなくローゼナート公爵令嬢でございますよ」
「まったくわかってるわよもう!でも、私のほうが美しいわ」
「本当にわかってらっしゃるのか…」
そんな口の利き方、リーナだから許してあげてるのよ。大丈夫、学園ではへまはしないわ。
だって金髪に青い瞳のお姫様は馬鹿なことなんてしないでしょ?
「お嬢様、今日も一段と美しいです」
鏡の前ですっかりできあがった私の姿を見る。
金の髪には後ろに大きなリボンを付けてダイヤモンドのイヤリングは大粒過ぎて趣味が悪くないよう上品なデザインにしてもらってる。
真っ白なブレザーにふりふりのYシャツ、きちんと深青のタイもつけて腰を締め付けるデザインのスカートは下着が見えちゃいそうなぐらいのミニだ。
足は肌色のストッキングでさらに脚線美が美しく8センチの真っ白なおろしたてのヒールがばっちりきまってる。
「まあいいじゃないの?この靴、やっと届いたのね」
これは私にとっての最高の褒め言葉。ありがとう、なんて恥ずかしくて言えるものですか!
「はい靴屋がここまで真っ白な本革を入手するのにかなり困難したとか。そのせいで遅くなってしまい申し訳ありません」
「しょうがないわねこの靴の素敵さに免じて許してあげてよ。あと先ほどの侍女にあの古ぼけたエメラルドのネックレスを渡しといて頂戴」
後ろで先ほど私にリボンを渡した侍女が息を呑むのが聞こえた。私だって悪魔じゃないそれなりの働きをした人間にはそれなりに与えるものは与えるのだ。
古ぼけたといっても大粒のデザインが今は廃れただけで没落寸前の男爵家、あの侍女の家にはかなりのお金になるでしょうよ。
「…お嬢様のその優しさにはこのリーナ感服いたしますわ」
「なにそれ嫌味?」
いつもは鉄仮面な冷徹女のくせに。
「お嬢様、急がないと遅れてしまいます」
「公爵家令嬢たるものいつでも優雅にいくものよ」
「それで遅刻しては元も子もないのでは?」
「公爵家の後暗いお金で学園長を買収しましょう!そうすれば遅刻なんて言わせないわ」
「公爵様はまっとうなお金しかもっていませんよ」
そんな会話をしながらリーナと玄関に向かう。
…これから起こる大変な未来にひっそりため息をつきながら
「…お嬢様、起きてくださいお嬢様」
私は馬車の中だった。
公爵家の馬車だけあって振動はあるけどふかふかのクッションや壁のおかげでお尻が痛くなることはない。学園まで30分ぐらいかかるのだが私はうたた寝してたみたいだ。
前世の夢を見た。私がネリアとして生まれ変わる前の松村鈴の人生。
彼女は10人中10人が振り返るような美少女だった。だけど今の私みたいにお金持ちでもなければ家柄があるわけでもなかった。家は貧乏で団地にアル中の無職の父と泣いてばっかりの母だけだった。
家は落ち着ける場所ではなく幼い頃から鈴は外の世界に自分の家をつくっていた。
幼い頃からその可愛さでまわりの男の子はみんな鈴を構ったし鈴は誰にも見てもらえない自分をその時だけはたくさんの人が相手してくれるのが一番の幸福だった。
…なんて可哀想な女なんだろう。
次第に鈴はまるでお姫様のように扱われていった。取り巻きの男の子たちはみんなかっこよくてお金持ちな御曹司。鈴が望めばなんでも与えてくれた。――女の子の友達だけは与えられなかったけど。
…昔の話だ。
今の私はネリアで惨めな女なんかじゃない。
だから、あの馬鹿神からの強制的な使命も難なくこなせる
たとえこの世界が「ラブ恋♪〜神様の下で永遠のキスを〜」なんていう腐れ切ったタイトルのエロゲーの中の世界だとしても、私がそこにでてくる悪役女だとしてもだ。
私は絶対エロゲー主人公であるアルマ・ラナークを落としそのあとは順風満帆なお嬢様ライフを送ってやる。
そのための学園生活が今日、幕を開ける。