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不定期  作者: ネームは思いつかないな
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黒主人公②

 魔法境界。魔法について議論する協会。いくつかの世界が降り立つ「5鎖島」がつないでいる中心核にある。主に魔法の約束事、開発、使用の許可、禁止などを取り決めしている。


 ブラックマスターの役者能力に影響されない空間にあるためか、ブラックマスターの手によって落とされていない唯一安全なのかもしれない場所。


 次元の狭間(どこにあるかは不明)にあるため、普通の人間や魔法使い、魔物などが行くことは困難。


 魔法境界に直接連絡する術がないと知ったのは大災害が起きてから2年後、20歳となったエルドH(以下、エルド)だった。


 あの時は手紙だったので、通信ができるものだと思っていたが、現実は違っていたようだった。助けを求めようと、手紙を出したのだが、あれ以降返信がないのである。


 もしくは、魔王と名が広がったことで拒否されたのかもしれない。


 ブラックマスターによって魔王と刻印を押し込められたエルドは、一人くらい廃城のなかにある玉座の椅子に座り込み、考えにふけ込んでいた。


「魔王。大災害の引鉄を引いたエルド。同じ血を受け継いだはずの種族の仲間たちを操り、和平条約を無効にしたにっくき魔王。魔王を殺し、首を人間の世に捧げなければ、この戦争は終わらない」


 人間の中で、魔物中で、そのほかの生物の中でこだまのように毎日、その言葉を積み上げる。


 ―――あの日、召喚魔法に成功した。


 だけど、それは契約による召喚魔法だった。


 それぞれの願いをかなえ上げた結果がこの様だった。


 呼び出されたのは黒と白が半分に分かれた翼を生やした天使のような風貌をもつ男女だった。黒い方は男の姿で、白い方は女性の姿で。


 成功するとは思っていたが、予想以外な姿に少し驚愕と興味が弾かれたのは2人も同じだった。


「其方が望みたいことは白きわれが叶えようぞ。その代り、もう片方の黒きが与えようぞ」


「其方が望みたいことは黒きが叶えようぞ。その代り、もう片方の白きわれ与えようぞ」


 それぞれが口にした。


 すぐさま、エルドNはひざまつき、願った。エルドHもひざまつき、同じように願いをこう。


 エルドHが願ったのは。


「退屈ではない世界をこの身体で知りたい」


 エルドNが願ったのは。


「才能がないという決めつける世界がなく、すべてが創造する才能が満ち溢れる自分になりたい」


 と願った。

 

 その日、願いは叶った。だが、それは予想を超えるものだとは当初、知らなかった。


 エルドNはブラックマスターと名乗り、すべての者たちに役者として“定められた宿命”を与える能力を手に入れた。


 エルドHは、魔法を作り上げる能力はそのままで、新たに召喚獣を創りだす能力を備わっていたことに気づいたのは大災害が発展する二日前のことだった。


 ただ、召喚獣を生み出すのに、かなりの魔力が消耗することと時間がかかることもあって、あの大災害を止めるすべをすべて召喚獣に注いだため、止めることができなかった。


 魔王と役者にされたエルドは、魔王として君臨し、勇者となるものが討伐するまで魔王の支配は継続される。それが、ブラックマスター(エルドN)が創り上げたい世界だった。


 誰もいなくなった白の中で、エルドは一人考えていた。召喚獣。新たな仲間として生み出せないかどうかと。今までは小さなきっかけで魔法を生み出していたが、召喚獣となるとそうもいかない。


 しっかりした生命体、引き締まった体つき、体内の構造、性格、魔法の働き、瘴気の受け流し、感情、魔王としてどのように思いを抱くのかなど、さまざまな思考が芽生えていた。


 なにしろ、赤子から生まれるのではなく、その形として保ち、感情も持てるほどの高度な技術をつくらなくてはならないからだ。


 それに、召喚獣を新たに作るとなると魔法境界が黙っていないこともあった。


 召喚獣はすでに世界各地に存在しており、新たに召喚獣を作ることは違法にあるからだと6歳の祭りのときに教えられた。


 召喚魔法を作った時には特に注意されることもなくできたことに関しては不思議だったのだが、あとで別の日との経由で警告が来ていた。


 もちろん、あのとき召喚した召喚魔法は禁止され、再び実行しようと試みたものの、できなかった。むしろ、なにも成果を上げることなく終わったというべきか。


 だが、召喚魔法に失敗した分だけあって、城に残っていた資材や材料、薬などが大きく喪失し、残っているものは古臭い魔法文字で書かれた本と、食料、水だけである。

 

 まずは、仲間を作らなければ、魔王として何も始まらない。

「とりあえず、仲間を作ってみるか…まずは、形体をしらなくちゃな」

 座ったままだと、何も始まらないことから別の部屋にある図書館へ向かうため、重い腰を上げた。


||


 エルドN(以下、ブラックマスター/勇者)の方。


「魔王討伐隊として仲間あと3人募集しています」


 大きく口を開け、手をさえずりながら募集を呼びかける2人の男女の姿があった。一人は緑色の長髪の女性で、片手には杖を持っていることから魔導士である。


 もう一人は大きな剣を背中に沿い、見た目からして勇者といったような姿だった。


「今なら、給料も出ます。魔王討伐隊として入りませんか?」と、必死に声を上げる。


 誰も手が上げない中で、緑色の髪をした少女は根を上げた。


「勇者殿。こんなことをしていても、しかたが――」


 少女の口元をわしづかみにしながら勇者は最もこの世とも思えない表情を見せ、少女に忠告した。


「仕方がない。それはいいわけだ。ヒロインはヒロインらしく、勇者の守り役として果たすべくだろ? それに、ヒロインである君が断るという選択肢はない。」


 恐怖に引きつったその笑みは少女が怖気つくほど怖いものであったことが周りからしても明らかだった。


 勇者という名ばかりなのだが、能力はかなり優れており、この者と付いておけばこの戦争は終わるのかもしれないという確証はあった。


だが、みんな手を上げないのは、この勇者という存在自体を恐れているからだ。

「はい、手を上げる人はいませんか? いないですね、仕方がないですね。ぼくが選別してあげましょう」


 みんなが肩に強く力が入る。


 勇者に仲間として決められたとき、それは人生の終わりを告げる。


 勇者と愉快に笑いあうなんというものは空想にすぎないのである。


「はい、そことそことそこの人に決定!」


 指さされたのは3人のモブだった。


「え・・・わたし?」


 自分に指を指しながら恐怖した表情で怯えていた。彼女はちょうど、近くの酒場の店長の娘で、ちょうどおつまみが切らしたので、近くの肉屋に寄った帰り道だった。


「え、わし?」


 風来坊のような帽子をかぶり、縞模様の布をマント代わりに来たひげを生やした老人のような男性。旅をしている旅芸人で、ちょうどこの集会を見に来ていた観客のひとりだった。


「・・・・・・」


 何よりも先ほどから口をあけっぱなしで怯えていたのは小さい少女だった。年齢からしても6歳程度。しかも母親に手を引かれたままただ通り過ぎるはずだった。それが指定されてしまったのだ。


「あの、わたしはそこの酒場の娘で、これから――」


「わしは旅芸人で、これからも仲間と一緒に―――」


「この子は、まだ幼すぎます。私が代わりに行きます――」


「ママー」


 4人が口出した途端、一本の糸が4人につながれた。それは役者として与えられらた宿命の証だった。


「い、嫌だー!!」


 旅芸人の老人は慌ててその場から去ろうと逃げ出すも、勇者が指をひくと、老人は引っ張られる形で勇者の方まで引き寄せられた。


 そのあと、老人は恐怖に泡を吹きながらも、必死で頷くこともしないように拒否した。


「そこまでしなくても!」


 と、緑色の髪をした少女は少年の指を下げるように、叩いた。


「エミリ。ぼくがこれから役者を決めたのに邪魔をするのかい?」


 そこは不気味な笑顔が広がっていた。


 エミリは悩んだ。どうして、この演説に見に来てしまったのだろうか。


 どうして、勇者という存在に憧れてしまったのだろうか。


 どうして、勇者に断らなかったのか、さまざまな文献な思考を横切る。


「エミリ。約束したよね、君は断れない。役者としてヒロインとして刻印を押された君は、ぼくの代わりにダメージを肩代わりにしてくれる。それが“ヒロインの務め”だよね」


 違うと首を左右にふりたい。だけど、振れない。無理やりにでも頷かされそうに首に力が入る。今目の前にいる勇者は勇者じゃない、紛い物の勇者だ。


 こんなの勇者がすることじゃない。魔王よりもまだましだ。


 首を振ることはできないが必死で勇者にこう告げることができた。だが、それが最後の言葉となった。


「い・・・や・・・だ」


 勇者は引っ張っていた老人の紐から手を放すと、老人は崩れるように床へ叩きつけられた。おびえた様子のヒロインのエミリはとてもおびえ、下半身から酸っぱいにおいがするお湯を垂れ流す。


 周りから見てもそれは異常の光景だ。


 だけど、周りは逃げたいと思うも、逃げたいという気持ちを必死で押さえた。


 勇者から背を向けたら、何をされるのかわからないからだ。


 勇者が背中に沿った剣を自身の腹に着きだしたのはすぐのことだった。


「え!?」


 エミリの前に全身に赤い体液が付着する中で、勇者は自身の腹に剣を突き刺し、そのまま胸へと突き上げる。その異常な行為に周りの住民はさらなる恐怖にこみ上げる。


「う!?」


 エミリは突然、全身に痛みを感じた。それはとても熱く痛みという感覚でさえもなくなるほど沸騰した熱を掛けられたような痛みが全身に広がる。それは、勇者がまさに切ったところと同じ個所だ。


 腹から徐々へ痛みがつけあがっていく中、絶望ともいえる場所までせりあがる。見た目からは何の変哲もないエミリの体なのだが、痛覚だけそれを味わっていたようなものだった。


「や・・・め、ゴボ、て」


 血を吐きながらもだえ苦しむエミリの姿に一切に目もくれず、勇者は剣を左右に胸に切り付けた。何度も左右に剣を振りながら。


 その痛みに耐えがたく気絶しそうになるのだが、そのたびに、勇者はエミリを起こしては痛みを与える。


 これが勇者に与えられたヒロインの宿命“勇者の痛みはヒロインが受け継ぐ”と。


 周りにいたモブたちは「鬼畜だ」、「悪魔だ」と声を荒げるも、勇者は特に気にすることもなく、エミリにしたいことをしまくる。


「あ・・・ああ・・・ああああああ」


 酒場の娘が悲鳴をあげる。それは絶叫ともいえた。


「ママー。怖いよ」


「・・・見ていなさい、あれが勇者という非業な男の姿よ」


 怯える娘が足元に抱き付かれる中、母親はその勇者の素振りを目に焼き付けるようにいった。


 とある絵本の話


 勇者様は魔王が支配する世界から救うために立ち上がりました。

 魔王は村や人を襲い、ときには家畜や食物、水などを襲い、人を奴隷のように使うようになりました。

 勇者は光の剣を握りしめ、魔王を討滅します。

 魔王は塵になり、今まで奪われていたものはセカイへ元に戻りました。

 勇者は伝説となって種を渡って受け継がれるのでした。



「これが、勇者がするべき行為なのか?」


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