瀉血
「しゃけつじゃ、しゃけつじゃ」
中世ヨーロッパの田舎町。牧畜盛んで獣が多い。昼は赤く、夜は冷え込む。至って普通なとある村。
白衣の袖通す白い腕。お椀を持つのに精一杯。それでもその人は村一番の医者。
数少ない村人を救うため、散髪な白ひげを携えて砂利道を駆け回る。
「病人はどいつじゃ~、病人はこいつか~」
アルコール中毒者より回らない呂律。誰もが震える、その声に。陽しか遮れないのれんに文句を言え。彼はそこからやってくる。
「ひぃ~。ドクター。やめろ。息子に手を出すな」
脅える村人を木ベラで黙らしたドクター。素足で進み、ベットの傍へ。発汗を抑える知恵として、受け継がれてきた伝統のやり方、脇の下にあった濡れタオルをどける。
「やめてくだせぇ。やめてくだせぇ」
涙を流す女を押し飛ばしたドクター。抜いたタオルの代わりに、お椀を入れて、ナイフをぐさり。
「うわああああああああああああ」
「しゃけつじゃ、しゃけつじゃ安心せい」
叫ぶ子どもに笑う医者。三日の風邪をこじらすお医者。村で一人の爺医者。
三日も安静にしていれば治る風邪も、ドクターの往診にかかれば完治は遠のく。憎まれ叩かれ蔑まれても、ドクターの舌とナイフは乾かない。
「お椀の血は馬にでもわけたれ」
木ベラで眠った男の服を子どもに巻きつけ、颯爽順風去っていく。
なにも貰わず、なにも与えず。
のれんをくぐり、日向の下へ。換気のついでにのれんをちぎる。
「じゃけつじゃ、しゃけつじゃ」
そんなドクターに対抗馬。
小さな村に、若人来る。顔は整い、声も溌剌。手先はまるで奏者のよう。揉めてた跡継ぎ安泰と、誰かが言ったが、彼は断る。
珍味な青年付け足すと、皆びっくりお医者様!
喜ぶ村人。喜ぶ村人。
手放すまいと、村人踊る。
家にごちそう、酒に女。献上献身至れり尽くせり。骨埋めさせようとそりゃ必死。
晩餐始まり早三日。朝もや晴れない霧の中。どこかで聞こえる呻く声。
聡い耳持つ馬の番。こいつはいけねぇ名医呼ぶ。
呼ばれた青年起き上がり、両手の裸女には目もくれず、患者の元へと一目散。
「任せてください。助けます」
連れていかれた家に爺。それは驚けドクターだ。
青年、てきぱき準備する。
その間、村人起きだして、医者の腕見ろ顔見ろ大忙し。彼らにとっては初見の本物。医者とは何ぞや、何するもんか。
聴診。問診。時間をかけて、村人ごくりと唾を飲む。
最後にお椀を腕の下。
「瀉血しますね」
「早うしろ若造」
嘆く呆れる涙する。村人、絶叫木霊する。
けれど現実。これが中世ヨーロッパ。
あとがきその1
「瀉血」というのは調べてもらえればわかるのですが、簡単に言ってしまうと、「血を抜いて病気を治す」とまあこれだけなのです。ですが、これを風邪やら何やらに適用していたので、現代医学から見ればまあちょっと、みたいな目で見られます。
自分は医学生でもなければ、そちらの道に通じる人間でもないのですが、「血を抜いたぐらいで治るなんて、医者が一斉に手を抜いてる時代なんじゃないのか・・・」とまあ色々不思議がって、印象として強く残りました。
深い経緯があるわけじゃないのですが、ただまあ強く記憶に残ったし、何かしら比喩にでも使えればいいか、ぐらいに思っていたのですが、これが中々使えません。自分が異能バトル系を執筆していれば、カーマイン属性の子で話も思い浮かんだかもしれませんが、自分の作品で血が流れたときは大体死に直結してしまうので、まあ、はい。
あとがきその2
リズム感で書きました。狙いとしては「瀉血」とは何ぞや、と思い立った人が調べてくださればそれで成功です。