第八話 王都
レンガ道を道なりに進むと周りに畑が広がっているのに気付いた。
近くに農村でもあるんだろうな。
「ここら辺はもう人がいるんだな」
「......」
「ああ、もう喋ってもいいぞ」
「ふー、息苦しかったぜー」
確かに黙ってろって言ったけどさ。
「この辺は畑があるんだぜ!」
「ああ、うん。畑が見えるな」
「この道は王都まで続いてるけど道からそれたら村とかあるんだぜ」
「ああ、うん。お前は賢いね」
「おれっちはバカだけどそれだけは知ってるぜ!」
出会ってから時間が経ってないのにこいつは悪い奴じゃないって思えるな。
バカだから...ってだけじゃないんだろうな。
「そう言えばお前、名前は?」
「おれっちはターキーってんだ」
「...その名前の由来は知ってるか?」
「ゆらい?ってなんだ?」
「あー、ご両親がどうしてその名前を付けたのかって話だ」
「おう!おれっちが生まれた時に父ちゃんが鶏肉が食いたくなったんだとよ!」
なんだその理由。
「かっこいい名前だろ!」
「まあ、お前が納得してるんならいいんじゃないか?」
「おうよ!」
「俺の名前はエルドだからな。忘れんなよ」
「覚えたぜ!よろしくなエルド!」
その後もターキーとくだらないことを喋りながら王都まで歩いた。
その間にターキーは3回俺の名前を尋ねてきた。
王都の入り口まで辿り着いたが、門番は何も言わず、俺たちはあっさり門を通過してしまった。
「おい、この国に入るのに身分証明とか要らないのか?」
「んー、おれっちも最初は色々聞かれたけど途中から何も言われなくなったな」
あー、毎回こいつの相手するのも大変だろうからな。
何となく門番に同情しながら王都をみやる。
「おお...!!」
これぞファンタジー!
門から城へ続く大通りは多くの人が行き交っていた。
服装も冒険者らしき者、一般人らしき者、みすぼらしい者など千差万別だ。
その中でも一際目立つのは獣の耳や尻尾を持った者たちだ。
ケモミミ!異世界万歳!
しかし気になるのがその者達が一様に暗い顔をしていることだろうか。
まあ人間の国だからどうせ獣人差別とかだろう。
「おれっちはギルドに行ってくるけどエルドはどうすんだ?」
ターキーに話しかけられ我に返る。
「とりあえず俺もギルドに行こうかな」
さっさと冒険者になってしまいたいからな。
イリーナ先生曰く冒険者の証明となるカードが身分証明の代わりになるらしい。
ターキーの後に続いてギルドへ向かう。
冒険者ギルドは王都の中でも大きな建物だった。
でかでかと冒険者ギルド、と書いてある。
扉は近年撤去された。
イリーナ先生が言うには、
「どこかのお馬鹿さんが何度も扉を壊すから」
だそうだ。
俺の中でバカと言えばターキーなのだがどうなんだろうな。
「困ったらあのカウンターにいる姉ちゃんに話しかけるんだぞ。おれっちの話をちゃんと聞いてくれるいい奴だ!」
「お前の話をちゃんと聞いてくれるってことは確実にいい奴だな」
「おうよ!」
ギルドの奥にはカウンターになっており、綺麗なお姉さんが並んで受付をしている。
その中で一人だけ犬の耳を持った優しそうな笑顔のお姉さんが立っている。
ターキーが指し示したのは彼女だった。
獣の耳を持ったいわゆる獣人は彼女一人だった。
「依頼完了したぞー」
「お疲れ様です。ターキーさん」
「これが証明部位の角だ」
討伐の証明となる大きな角をターキーはカウンターに置いた。
「おいちょっと待て。それどこから出したんだ?」
「お?アイテムボックスからだぞ?」
「なんだよそれ」
「アイテムボックスはアイテムボックスだ!」
こいつに聞いた俺が悪かった。
「アイテムボックスと言うのは冒険者であれば必須の空間魔法のことですよ。たくさんの物を収納し、自由に取り出すことのできる魔法です」
カウンターの猫耳さんが補足してくれる。
この筋肉が魔法使いだなんて...納得行かねぇ。
でも確かにモンスターを討伐してもその証明となる部位を持ち帰られなければ意味がないよな。
「もしかして冒険者登録に来られた方ですか?」
「ああ、そうだ」
「ではターキーさんの依頼完了の手続きが終わりましたら対応致します」
猫耳さんはテキパキと書類を片付けて行く。
「こちらが今回の報酬になります。ご確認ください」
「さんきゅー!」
猫耳さんはターキーに袋を手渡す。
ターキーが袋を開くと金貨が入っていた。
すごいな、冒険者ってこんなに稼げるのか。
貨幣の価値については教わりたかったが流石に知らないと怪しまれると思い聞いていない。
今度市場にでも行って調べることにしよう。
「お待たせしました。まずはこちらの用紙に記入を。文字が書けない場合は代筆致します。」
「自分で書ける」
受け取った用紙に記入して行く。
出身地はイリーナ先生の出身だというイリア村と書いておいた。
イリーナ先生曰く本当の出身地を書かないやつも多く、ギルドも容認しているらしい。
冒険者の中には後ろ暗い過去を持つ者もいるからだ。
出身地を空欄にすれば当然ギルドにマークされてしまう。
それは困る。
レベルを書く欄があり一応ステータスを確認しておく。
エルド Lv.2
人族
称号
【邪神の使徒】【悪食】
スキル
【邪神の加護】【▽○の加♯】【多言語理解】【鑑定】【肉体強化1】
レベルが一つ上がってる。
それに悪食の称号が追加されてるな。
好きでミミズ食った訳じゃないのに。
あと何か文字化けしたスキルがあるな。
なんだろうこれ。
スキルの欄には鑑定と肉体強化1だけ書いておこう。
書き終えた用紙を猫耳さんへ渡す。
「ありがとうございます。私はレイナと申します。以後お見知りおきを」
受付のレイナさんは手続きに少し時間がかかるからしばらくしたらもう一度来てくれと言われた。
「エルドー。暇なら一緒に飯食いに行こうぜー」
「いいけど俺金持ってないぞ」
「おれっちは持ってるから大丈夫だ!」
「奢ってくれるのか?」
「おうよ!」
やっぱいい奴だなこいつ。
俺たちは冒険者ギルドを後にした。