第七話 バカと筋肉は使いよう
雀の巣で迎えた朝はとても清々しいものだった。
目が覚めてすぐに巣から出る。
親雀は動かずただジッと俺のことを見詰めていた。
雀の親子に礼を言って草原を歩き出す。
実はここへ運ばれる時にこの近くに赤い道が通っているのが見えた。
イリーナ先生が言うにはこの道は始まりの地エルディアから東西南北に一本ずつ、計四本の道が伸びているらしい。
赤い道は人族が暮らす国、トルリアへ続いている。
邪神様からのコンタクトも特に無いので、まずは身の安全を確保しようという算段だ。
のんびりと赤いレンガ道を歩く。
草原は森に比べて魔物が少ないみたいだ。
こんな爽やかな草原がここにはあるんだな。
異世界も意外と悪くないかも。
ドドドドドドド
え?後ろ?
ああ、うん。
気付いてたよもちろん。
でもさ、少しくらい現実逃避したっていいじゃないか。
俺の遥か後方には逞しい角をこさえた牛の群れが猛スピードで走っていた。
小規模な群れだから避けようと思えば避けられるだろうが、このレンガ道を外れてしまえば迷子になるかもしれない。
うんうんと悩んでいる間に足音はどんどん近付いて来る。
「と、とりあえず逃げ...」
「おーい!そこのあんちゃん!助けてくれー!」
目を凝らすと牛の群れの先頭に筋肉ムキムキの男がいる。
どうやら牛の群れはこいつを追いかけているらしい。
「どうして牛に追われてるんだ!?」
「わからーん!おれっちは焼き肉が食いたかっただけなのに!」
「お前が原因かああああ!」
走りながら大声で話す。
こいつ牛の群れにケンカ売ったのか。
「いやー、これどうしたらいいんだ?」
「のんきなこと言ってないで何とかしろよ!俺を巻き込むな!」
ついに筋肉バカと俺は並んでしまった。
牛の群れは俺たちのすぐ後ろで猛っている。
まったく何てことに巻き込んでくれたんだこの筋肉モヒカン!
走る度にふさふさ揺れるモヒカンが腹立つ。
「...まずい」
俺達の視界に関所が映った。
あそこに牛の群れが突っ込んだら大惨事だ。
どうにかしなくては...!
「なーなー、あれヤバくね?怒られるんじゃね?」
「ヤバイに決まってんだろ!クソっ!どうにかしてあの群れを止めないと!」
「おん?あいつら止めればいいのか?」
「ああ、だけど方法が...」
モヒカン筋肉バカはいきなり振り返ると大きく息を吸った。
「オオオオオオオォ!!」
そして空気が震えるほどの咆哮を放った。
あまりの迫力に足を止めてしまう。
あれ、なんか動けない...。
あまりの声量に牛の群れも足を止める。
「ヴモー!ヴモー!」
固まっていた牛たちは急に方向転換して一目散に逃げていく。
「よっしゃー。追い払ったぜ」
「あ、ああ。そうだな」
「じゃあ行こうぜ」
のんきなバカかと思っていたが、助かる自信があったからあんなに落ち着いていたのか?
「あー、死ぬかと思ったぜー」
いや、こいつはただのバカだ。
バカは放っておいてさっさと関所へ向かう。
「おい、さっきの牛の群れはなんだ?」
関所に着くなりそう尋ねられる。
聞かれるとは思っていたが。
「さっきの群れは...」
「焼き肉だ!」
「お前は黙ってろ!」
「わかったぜ!」
「このバカが牛の群れにケンカを売ったんだ」
「群れにケンカを売るなんてどういうつもりだ!?」
悪いのはこの筋肉バカだ!俺は関係ない!
「あまり無茶をすると死ぬぞ」
どうやら怒っている訳ではなく心配してくれているようだ。
関所を通過し、更に道に沿って歩く。
筋肉も付いてきているがまあいい。
トルリアまで後少しだ...!
9月29日少し修正しました。