第六話 見掛けで判断してはいけない
親雀がくわえていたのは大きなミミズだった。
長さは大体俺を五人並べた位で、太さは一抱えほどもある。
うへぇ、うねうねしてる...。
「チュンッチュンッ」
ボトッと巨大ミミズが落ちる音がした。
巨大ミミズは体をくねらせゆっくりとこちらへ向かってくる。
うおおおお!こっち来んなああああ!
急いで逃げようと振り返ると何故か雛が立ち塞がっている。
「グゲェ」
雛はくいっとくちばしをミミズへ向ける。
...食えと?このミミズを俺に食えと?
「チュンッ」
ブチッ。
親雀がおもむろにミミズの先端を食いちぎった。
ああ、ありがとう。
君は本当に優しいね。
気を使って食べやすい大きさにちぎってくれたんだね。
でもね...。
ミミズがものすごい勢いでもがきだして食べる所か今にもリバースしそうだ!
しかもちぎれた部分もビクンビクンしてる。
「えっ?」
「グゲッ」
「...食べなきゃダメ?」
「グゲッ!」
ペチ、と雛にくちばしで軽く叩かれる。
「お、うおおおおおおお!」
や、やってやらぁ!
他人...他鳥?の厚意を無駄にするようなやつは男じゃない!
「よし、食うぞ...く、食うぞ!」
「グゲッグゲッ!」
「チュンチュンッ!」
心なしか雀達も応援してくれているような気がする。
未だに痙攣しているピンクの塊に顔を近付ける。
う、土臭い。
ま、まずは鑑定だ。
ラッキースティック Lv.1
何が幸運の棒だ運気もテンションも下がりまくりだチクショウ!
「ふーっ...ふーっ...ふっ!」
覚悟を決めて齧り付く。
ブチブチ...。
..................。
..................?
あ、あれ?
なんか、美味い?
あれぇ??
もう一口口に入れる。
「う、美味い!?」
何という事だ。
すごく美味しい。
食感は当然ミミズだが旨味の強い蟹のような味わいだ。
釈然としないまま残りの蟹味のミミズを雛と分け合った。
その日は結局夜まで雀の巣で過ごした。
巣から出ようとすると親雀がまた巣に戻してくるのだ。
することも無くのんびりと空を見上げているといつの間にか夜になっていた。
ここの月は元の世界の月よりふた周り程も大きい。
煌々と輝く月を眺めていると日本のことを思い出す。
お腹はいっぱいで雀の親子が俺に身を寄せあって眠っているのでとても暖かい。
それで安心したのか目頭が熱くなった。
今まで異世界だとかそういうものに憧れていたが実際体験してみるとやはり日本に戻りたい気持ちがある。
いや、これはきっと心細いだけなんだろう。
身寄りもこれと言った知り合いが居ないと言う状況が不安なだけなんだろう。
そんな不安とは裏腹にその夜はとても深いねむりに落ちて行った。
9月29日修正しました。