ジンクスの翼
木製の二枚羽根が回る、
空冷発動機は今日も快調な音を飛行場に轟かせていた、
「発進準備よろし!!!」
「ご苦労、帰ったらまた頼むよ」
「大尉は無茶が過ぎますよ、毎回うちの若い連中が泣いてしましたぜ」
「じゃあ帰ったら何かおごってあげますよ」
「本当ですか大尉!?」
「こら、おめぇがでしゃばるんじゃねぇ、帽子を振れ帽子を!!!」
整備兵達が滑走路の脇に一列に並ぶ、
油汚れのついた白い作業着がズラリと並んでいる光景は、
何度見ても不思議な気持になる、
今から地獄に行くのか、はたまた天国なのか、
少なくとも、この機体に乗れば地獄行きは確定である、
九五式一号艦上単座急降下爆撃機、
通称、源田棺桶、
彼の同級生の源田実が考案し開発させた当時としては、
実に画期的な機体だったが、なんにせよ時期が早すぎた、
二千馬力あればまだしも、
たった五百馬力の複葉機が、戦闘機と急降下爆撃機を兼ねるのは荷が重過ぎた、
そして、
実戦試験も兼ねて、
彼らは、中国大陸に降り立ったのだ、
少なくともここ数日で戦果はほとんど上がるどころか損害を重ねて行くばかり、
機体が低コストだったから良かったものの、
搭乗員の命は安くはなかった、
「間もなく、敵地上空か………」
機体の下面にはこれでもかと爆弾がぶら下がっていた、
二五番爆弾合計二発、総搭載量およそ五百キロ近くを搭載し、燃料も満タンに詰め込んで、
よちよちよたよたとくんずほぐれつの編隊飛行をしている、
半数の機体は戦闘機として護衛するために爆弾を載せてなかったし、
中には搭載量を主点に置いた九五式二号も一トン近い爆弾を抱えて飛んでいる、
さらに急遽派遣された九五式艦戦も上空を見張ってくれていた、
するとどうだろうか、
一機がすーっと前に出て機銃で何も無い前方を撃った、
きっとどこかに敵の戦闘機が見えたのだろうか、
「………カーチスホークⅢ、よりによって九六式が居ないこの時に」
と言っても九六式はこれらの複葉機を護衛できるほど遅くはない、
これらの複葉機を護衛するには相当な蛇行運転を強いられるのだ、
まもなく、護衛の戦闘機隊が増槽を落とした、
もちろんこうなればここは敵地上空ということもあり適当な目標を見つけて早く重たい爆弾を落とさなければならない、
しかし、長駆爆撃をかける九五式大攻は二トン近くの爆弾をまだ抱えなければならない、
そう、この単座"戦闘爆撃機"で護衛をしてやらなければならないのだ、
「目標………目標が何も無い………」
あるのはただ広い田園地帯、
航法を間違えたかと一瞬疑ったがすぐにわかった、
小高い丘の林の中にちらりと光が見えた、
「偽装飛行場、そんなところにあったか」
上空では既にカーチスホークⅢが速度と高度の優勢を利用して襲いかかってきている、
九五式艦戦ではもはや相手にできないのだ、
すかさずバンクを振って味方を誘導する、
丘の上空を何周か旋回したあと、
いよいよ急降下に、
「!?」
対空砲火が撃ちあがった、
黒い花が鮮やかにこちらを手招いてる、
「地獄へようこそって言ったってそうは行かねぇ、地獄は、すでにこの機体の専売特許だ」
甲高い音を響かせ、
操縦桿がガクガクと震える、
計器はめまぐるしく回り、
対空砲火の火線が私を捕捉しようと迫ってくる、
そして、左の翼が火に包まれた
「高度五百!!!」
二五番爆弾二発が綺麗に林の中に消える、
同時に、左の翼が機体から外れた、
年貢の納時のようだ
九五式一号単座急降下爆撃機
乗員:1
全長:8.37m
全幅:10.97m
全高:3.45m
翼面積:31.31㎡
空虚重量:1,502kg
全備重量:2,161kg
搭載量:660kg
発動機:空冷星型600hp
最高速度:269km/h
航続距離:1,094 km
上昇限界:5,670 m
武装:7.7mm×6、250kg爆弾×2
この機体はどちらかといえば戦闘機を主点として設計された、
その為二号と比べると空戦能力が重視されている、
九五式二号単座急降下爆撃機
乗員:1
全長:9.2 m
全幅:14.14 m
全高:3.59 m
翼面積:51.4 m²
空虚重量:1,490 kg
全備重量:2,558 kg
搭載量:1,068 kg
発動機:空冷星型500馬力 ×1基
最高速度:214 km/h
航続距離:600 km
上昇限度:5,500 m
上昇率: 3.5 m/s
翼面積荷重: 49.8 kg/m²
この機体はどちらかといえば爆撃機的な性格が強い、
空戦能力はまぁまぁある方であるが航空機の進化に取り残された感じは否めない、