ハッタリ勇者
あるところに、ハッタリで勇者になった男がいた。
彼は元々普通の村人で、何の力も持ち合わせてはいなかった。だが、勇者という存在になることで得られる地位や名誉、財産などに憧れていた。
そこで彼は、嘘八百で固めた事実を証拠にし、国王に自分は勇者であると証明した。彼は昔から、虚勢を張ることは得意だった。
国王は勇者が現れた事に歓喜し、その証明が嘘であることに気が付かないままに、国王は無一文だった彼に財宝を与えた。彼は手に入れた財宝で遊んで暮らした。
この国は他国との戦争を行っていたが、戦況は悪化の一途を辿っていた。そんな時、勇者が現れた。それは一騎当千の力を持つと見た国王は、勇者に最前線で戦う事を依頼することにした。
男は、適当にそこにいれば大金が手に入ると思い、その依頼を受諾した。
最前線に送られた男はそこで初めて後悔する。兵士達は勇者に頼る一方で誰一人勇気を持って戦い、この戦況を覆そうとは思っていなかったのである。慌てふためき、死の恐怖に怯え、逃げようとする者までいた。その光景を見た男は国王にバレないように細心の注意を払いながら逃げる事にした。
彼は逃げる途中の村で、子供が強盗に襲われているのを目撃した。見るに堪えなかった為彼は間に入り、俺は勇者であるといつもの虚勢を張った。強盗は逃げていった。襲われていた子供は家が貧しいそうで、その日の分の食費を稼いで帰る途中だったそうだ。そして別れを告げる際、『勇者さん、助けてくれてありがとう』と言われた。
初めて感じた感情に喜びを覚えながら、彼はもと来た道を帰り始めた。あの戦場へ。
彼は、この国が押されている理由を見つけた。兵士一人ひとりは、見る限りこちらの国の方が強かったように思える。なのに何故押されているのか。それは、兵士達の士気の低さにあるとみた。逃げたい。この感情が本来の力を出せずにいる原因であると思った。
彼は自分がしてきたことを思い出す。
遊んでばかりいた彼に力は無い。だが、いつも虚勢を張ることで乗り越えてきた、解決してきた。
そしてこの戦いに必要なものは、皆を鼓舞して奮い立たせる者。恐らくそれだけで戦況が覆る程の力が、この兵士達には出せると確信していた。
彼は皆の前でお得意の虚勢を張って鼓舞し、勇気づけた。勇者という立場を使って。
彼は力の無いままで最前線に居続けた。もちろん怪我もした。それでも最前線に居続けた。そして、激戦の末にその戦争は終わりを告げた。勇者側の国の勝利という形で。
国王は戦争を勝利に導いた勇者を讃え、褒美を与えることにした。勇者は、最初財宝を欲したように、またそれらを要求するかと思っていた。だが、勇者は
『褒美を頂けるのなら、それは僕にでは無く、国の貧しい子供達の為に使ってあげてください』
と言ったのである。
国王は驚愕したが勇者がそう望むのならと、勇者に与える予定だった財宝を金に換え、国中の貧しい子供達の為に使う事にした。
その後、勇者は姿を消した。
本物の勇者となった男は、そこに居続ければ力の無い事が露見してしまうと思い、国のはずれの自分の村へ帰った。
そして残っていた財宝を使って、自分の村にもいる貧しい子供を養いながら生涯過ごしたという………