生贄の勇者
「俺はあいつらにとってただの利用価値のある道具だったっていうのかよ!!
全部、全部、騙されてたっていうのかよ!!」
少年の周りに広がるのは絶望の黒。
無知な勇者は嘆く。己の未来に。
「最後に、あいつの笑顔を見たかった……。」
希望を望んだ勇者であり、生贄であり、一人の少年の小さな、小さな物語。
. . .
「ようこそ、おいでくださいました。新たな勇者様。」
見たことの無い天井。
見たことの無い人達。
(此処は何処だ?)
黒木 竜は困惑ぎみに周りを見渡す。
それを、みかねたように白と金の装飾が施された巫女服をきた美しい少女が口を開いた。
「突然のことで、驚かれたでしょう。私の名はエリーア・グリューセイル・ルリュスともうします
勇者様。」
「ゆ、勇……者…?」
エリーアはにっこりと微笑みながら言葉を続けた。
「はい。貴方様は、世界を脅かす魔王を滅する為に呼ばれたのです。僭越ながら、勇者様の名を教えて頂きたいのですが。」
「お、俺は……黒木 竜。」
エリーアは目をうるめながら竜をみつめた。
「黒木様。お願いです。我が国をお救いくださいませ。」
「……え?」
竜はびっくりしたように目を丸めた。
「勝手だとは思いますが、魔王の侵食により、我が国は飢え、民は苦しんでいます。お願いです。
勇者様。一刻も早く魔王を滅してください!」
エリーアの必死な姿に竜は思った。
(助けてあげたい)……と。
「ああ。」
「本当ですか!」
「けど……。」
「けど?」
「魔王を倒したら、元の世界に戻してくれ。大事な奴がいるんだ。」
竜はフッと微笑みながら言った。
その言葉にエリーアは微笑み返しながら口を開いた。
「お安いご用です。勇者様!!」
◇◇◇◇◇◇
その日から、竜は死ぬ気で鍛錬に励んだ。
この国と民を魔王から救うため。そして、元の世界の2年前に消えた大切な幼馴染のため。
流れる汗を拭きながら、ふと、手首にある、白と青の綺麗な腕輪を見た。
これは、【勇者の腕輪】と言って、勇者のためだけに作らせた特注品だそうだ。
魔法の大きな恩恵が宿っているとエリーアが言っていた。
エリーアもフブレク王もラクレイ騎士団長もみんな良くしてくれる。
「守らなきゃ」
(魔王からみんなを……。この幸せな日々を…。)
-----しかし、昔の俺に問いたい。何故、むやみに彼らを信じたのかと。何故、一つも疑問に思わなかったのかと……。
◇◇◇◇◇◇
「勇者様!!」
エリーアが竜に飛びついた。
「父上が!勇者は、もう、十分強くなった。もう魔王討伐に行ってもいいだろうって。けれど!私は!」
エリーアは涙をながした。
竜はその様子に困惑しながらも、
「大丈夫。俺なら大丈夫だ。そろそろ、魔王討伐に行こうと思っていたんだ。」
「しかし!」
「大丈夫だって」
竜は笑う。これからの悲劇に気付きもしないで
竜は荷物をまとめ、エリーアと共に、城を出発した。
竜を待っているのは魔王城。
いくつもの階を進みながら、エリーアが焦ったように口を開いた。
「勇者様!すみません!父上が病気で、しかも、魔物達が村人を襲っているようなのです!」
「何だって!?それなら、魔王討伐を辞めて村人を救いに行くしか…。」
エリーアは竜の言葉を遮るように続けた。
「大丈夫です!私はこれでも一国の王女!これしきのことでへこたれません。
それに……早くお会いしたいのでしょう?幼馴染殿に…。」
「そうだな。じゃあ、任せる。」
エリーアはにっこりと微笑んだ。
「すぐ、会えますよ。」
「?そうか、ありがとう。」
「いいえ。」
◇◇◇◇◇◇
竜はおどろおどろしい空気を発した門の前に立つ。
異様な匂いが充満している。何かが腐っているような匂いが…。
「っ、よしっ!!」
竜は決意を固め、門に手をかけた。
''ギギギギギギギィィィィ,,
目の前に広がるのは、血や骨などが散らばっている光景だった。
「これは、酷いな。」
竜は周りを見渡す。 . . .
すると、一つのものが目に入った。それは、此処には似合わないほど美しいものだった。
「……ッッ!これは!!」
それは、エリーアに渡されたはずの【勇者の腕輪】だった。
しかし、自分にはもう既に腕輪はついている。
おかしいと思いながらも、竜は周りに目を凝らす。
すると、所々に同じ物が落ちていた。一番その腕輪が落ちている場所を探そうと思い、歩き出した。
一番その腕輪が落ちている場所は人の死体が、山積みになっているところだった。
「…うっっ、うぇぇぇ。」
(気持ち悪い。一体、どうなっているんだ)
「!」
足元に一冊の手帳が、落ちていた。
それを、拾い上げ中身を読んでみる。
《これを読んでいる者へ
此処にある死体は勇者と言われ生贄にされた物達の墓場だ。
私達は魔王を滅する為に呼ばれたのではなく、魔王の生贄として呼び出されたのだ。
国の繁栄の為に。彼女等は、愛想良く私に接してくれていたが、最後の最後に裏切られた。
逃げろ あいつ等は狂っている。そして、死ぬな。私達の二の舞になるな!》
竜は驚愕に顔を歪めた。
「うっ、嘘だろ」
しかし、手の中にある手帳と周りの美しい腕輪から真実だと分かる。
冷静になって、警戒して考えればすぐ分かることだった。
だって、エリーアは言っていたではないか…。
. . .
『ようこそ、おいでくださいました。新たな勇者様。』
新たなという事は、前に勇者が居たという事だ。どうして、それに気づけなかったのだと己を責める。
ふと、エリーアの言葉がよぎる。
「すぐ、会えますよ。」
(まさか!)
竜の幼馴染は2年前に行方不明だった。自分が帰る頃には帰ってきてるだろうと思ったのだが…。
もし、あいつが俺みたいに召喚されていたのなら?
もし、あいつが俺の事を話していたのなら?
もし、あいつも、この人達と同じ末路をたどっていたのなら?
辻褄が合う。俺は考えるよりも先に死体を掻き分ける。たった一人の幼馴染を探す為に。
「あ…あった。」
それはほとんど腐りかけた彼女の姿だった。
「くっそぉ!」
竜のほおに涙がつたった。
「俺はあいつらにとってただの利用価値のある道具だったっていうのかよ!!
全部、全部、騙されてたっていうのかよ!!」
どうして、俺が、あいつが犠牲にならなければならない!
''ゴォォォォォォォ!!,,
轟音が響いた。周りを見渡すと赤黒く染まった絶望の黒い手考えれば迫っていた。
しかし、それを避ける気力もなかった。
竜は自嘲した様に笑った。
「最後に、あいつの笑顔が見たかった……。」
''グシャ,,
そして、また一つ、勇者の死体が増えた。
◇◇◇◇◇◇
. . .
「ようこそ、おいでくださいました。新たな勇者様。」
白と金の装飾が施された巫女服をきた美しい少女が微笑んだ。
「こっ、ここは。」
「突然のことで、驚かれたでしょう。わたくしの名は、エリーア・グリューセイル・ルリュスともうします。
勇者様。」
エリーアは慣れたてつきで、こなしていた。
「ゆ、勇者…。僕が?」
エリーアはにっこりと微笑みながら言葉を続けた。
「はい。貴方様は、世界を脅かす魔王を滅する為に呼ばれたのです。僭越ながら、勇者様の名を教えて頂きたいのですが。」
「ぼ、僕の名前は……___。」
そして、また、生贄の勇者は騙される。