外伝 私の名を呼んで
おまけのおまけ。嬢ちゃんとお兄さん。
会話文形式なので注意。
「お兄さんが私のことを『嬢ちゃん』と呼ぶから、私の名前は『ジョーチャン』なんてどうかな」
「それはないな」
「なんで?」
「もっと可愛らしいのが似合う」
「(これは結婚せねば……)」
「私はお兄さんの奥さんになるんだから、私の名前は『オクサン』なんてどうかな」
「それはないな」
「『それ』ってどっち?」
「秘密」
「(なるほど結婚せねば……)」
「今さらだけど、俺たちあれだな。住所不定無職、おまけに名前すら分からない二人だな」
「お揃いだからいいや」
「お前は潔いなぁ」
「…ちゃんとこれからのことを考えてくれてる、お兄さんの方が素敵だよ(結婚して)」
「そういやあの理屈で行ったら、俺の名前は『オニーサン』になるな」
「それはない」
「だろ?」
「まあね。…あっ、ダーリン!! ダーリンはどう!!? いいなコレ!! ねえダ」
「勘弁して」
「いえーい新婚さんっ! 久々だけどノってるぅ?」
「黒面じゃない。久しぶりね、元気だった?」
「ファイティングポーズ解いて解いて。ラブラブ新婚生活を邪魔するのもあれかなって思ったんだけど、実はお姉さん、ちょおっとだけお願いがあって……」
「いいわ、来なさい黒面! 今の私に死角はない!!」
「落ち着けって。とりあえず新婚じゃないが、話だけは聞いてやろう」
「お兄さんの方は冷静でよかったわ」
「(おっ、ラブラブは否定しないのかそうか……)」
「お宅のお嬢ちゃん大丈夫? なんだか顔と、あと頭も若干ゆるんでるみたいだけど」
「さあ…?」
「ヤアッ」
「(死)」
「雑魚に雑魚、そして雑魚の群れ。全く、この拳が泣くね」
「強い」
「あは、今さらでしょ?」
「それもそうか。これでこの辺は大丈夫そうだな。――手助け完了ってことで、軍に戻るか」
「正直黒面が創設したって聞いてもっと頭おかしいかと思ってんだけど、案外まともな軍だったね? 寧ろ聖騎士団より正義してたよ」
「なんだか問題しかない発言だが突っこまないからな。とりあえず同意はするが」
「あはは」
「……」
「どうしたの?」
「……久しぶりの正義の味方はどうだった?」
「可もなく不可もなく、かな。感慨はなく苦しみもない」
「そうか。うーん……」
「お兄さん、起きてる?」
「ああ。どうした?」
「別に大したことじゃないんだけど。……別に私の居場所なんて探してくれなくていいからね! そんだけ! おやすみっ」
「……」
「……なあ」
「……」
「俺はお前に広い世界を知ってもらって、それで。――幸せになってほしいだけなんだよ」
「じゃあ今すぐ婿になっていただこうか!」
「はえーよ」
「なんか最近お前ちょっとさぁ――」
「なーに?」
「いや、なんでもない……」
「? 変なお兄さん」
「(お前だよ)」
嬢ちゃん:結婚せねば。
あいかわらずバーサーカー。たまに傭兵してる。
今が人生で最も幸せ。
わりと闇が深い。
お兄さん:真っ当なお兄さん。
嬢ちゃんのことを考えてタバコ止めた。
悩みは、住所不定無職、氏名年齢すら不祥な自分たちのこと。
あと、最近嬢ちゃんの様子がおかしいので首を傾げている。




