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外伝 闇と光が合わさり最強のオジイチャーン 前

悪の組織「抗う者」のその後のお話。

完結後も読んで下さりありがとうございます

 憎き聖騎士の少女と、その愉快な仲間たる少年に異世界にブッ飛ばされた『抗う者』たち。


 いきなり放り出されたのは、どこかも分からない森の中。

 ざっくりとした偵察も終え、身支度を整え、話し合いを終了し。彼らが真っ先に提案したこととは、


「まあまずは城だよな」

「秘密基地は基本」


 だった。

 反論もなくはなかったが、総統が地団駄を踏みそうな勢いで主張してきたので、結局は皆黙った。

 老人の、しかも自分達の代表のみっともない姿なんて誰も見たくない。



「うおおおー材料のことなら任せろーー!」


 言いつつ、指に力を集中させ、素早い動作で鉄板を切る魔王。その闊達な姿にはベテランの心意気さえ感じられる。

 もうあの頃、指をプルプルさせ板切れ一つ真っすぐに切れなかった、召喚されたての自分とは違うのだ――。


「おじいちゃん凄い! 上手上手!」

「やるじゃないですか総統」

「成長したね」


 その過去をよく知るパロミやポーリン、エリザは、普段なら決してかけないだろう賛辞でさえ惜しみなく投げかけた。

 そうして周りがやんややんやと賑わうなか、


「魔王にやらせる仕事じゃねーだろ!」


 相変わらず常識を捨て去りきれない真っ当な男、下っ端である『仲間C』は思わず声を荒げるのだった。



 もちろん総統だけに仕事をさせるわけにはいかない。幹部含めた全員が、あくせくと汗を流して丸太を切り、土を掘り上げ、大地を整えていく。

 聖騎士といたちごっこを繰り返してきたこれまでにも、いくつもの支部を造り上げ、修復してきたメンバーだ。本格的に建築に関しての修業を積んできた者も多く、基地造営に関しては誰もがすでにプロフェッショナルの域である。


「アーロン様、かっこつけてないで働いて下さいよね!」

「フッ……割りと嫌だ……」

「挫けるなよ!」


 治療班の尽力の結果、全身の傷はなんとか治ってきたものの、未だ疲弊感の凄まじいアーロンはやたらとサボりたがる。


「ポーリーン、エリザを起こせ……」

「だけどまだ疲れてるみたいだし」


 膝枕したまま、ポーリーンはエリザを見下ろす。

 ナインズもつられて彼女を見る。寝脂で、ほっぺたがツヤッツヤしていた。


「甘やかすな」


 ナインズは甲冑の身体で、吐けもしない溜息を飲みこんだ。


 そんなあーだこーだ騒がしい、いつもと変わらぬ調子の面々を見やって、総統は一つだけ溜め息を零した。万感の思いが込められていた。


「もう砂の城とは呼ばせられんなぁ」

「え、なーに?」


 近くにいたパロミだけがその声に気付いて、彼女の“おじいちゃん”を仰いだ。

 彼はいつもと変わらぬ悪役老人面で、それでもどこか満足げであるように感じられた。


「なんでもないよ。……ああ、そうだ。儂たちの新しい呼称も考えんといかんなぁ」

「『抗う者』はもうやめるの?」

「そうだなぁ、さすがに、ここでは――」


 と、そこで総統は口を噤んだ。

 というよりも、悪の組織に属する全員が、一瞬動きを止めた。

 何者かがこちらに近づいてきている。

 がさがさと草木を掻き分ける激しい足音、恐らく人間だろう、規則的な二足がばたばたと飛び込んできた。


「助けてくれェ!! 『悪い奴ら』に追われてるんだ!!」

「えっ、俺ら?」


 夕日のように優しい、橙混じりの真っ赤な髪。一番に目立つのはそれだった。

 ぐしゃしゃに乱れたその頭髪の下、日に焼けきった顔は、乾いた汗と涙の跡でひどいことになっている。

 まったく、誰がどう見ても『悪』に追われる、泥だらけの被害者男性といった風体だった。今どき演劇でもこんな奴はいないだろう。

 しかし彼が焦り、怯えているのはどう見たって現実で。――縋りつく先が正義の者であれば完璧だったのだろう、と何人かはひっそり思った。

 まさか、『悪い奴ら』に助けを求めるとは。


「……オーイ、誰かなんかしたかぁ?」

「まさか。この世界の、だろ?」


 なんてへらへらと軽口を叩いていると、続いて飛んでくる人影があった。

 翼を持った異形の身体で、木枝を切り裂きながら上空から現れたのだった。凄まじい般若の如き面構えをした男の、苛立ち混じりの舌打ちに、被害者たる赤毛の青年は悲鳴を上げてすっころんだ。


「くそ、逃げるなよ人間が!」

「ひぃっ、でたぁ〜!」


 ナインズがその巨体を揺らし、青年を庇うように、『悪い奴ら』の一人であろう相手の男に立ちはだかった。


「フン、なんだ貴様らは!」


 男は顔貌を歪めると、背中の翼をばさりと羽ばたかせ、悪の組織一行をじろりと見下ろした。 


「貴様こそなんだ! 悪そうな面しやがって!」

「動物系『異能』か!?」

「ちなみに儂らは名称募集中の身じゃ!」

「おじいちゃん黙って。で、お兄さん誰なの?」


 そんな緊張感のない面々に、羽根の生えた男は何を思ったのか知れない。

 とにかく彼は見下すように鼻を鳴らすと、ゆっくりといっそ優雅な動作で地面におりたった。


「私は魔王様の忠実なる僕、西の四天王に仕える幹部ジャント!!」


 ばさりと開かれた翼、たなびく短い白髪。きらりと日に照らされた眼鏡も相まって、いわゆる知能優秀な幹部の、完璧な名乗りといっても違いなかった。


「ひゅっ、ヒュウ〜」

「パネっすわ」

「ウチの上司とは一味違うぜぇ……」

「お前後でツラ貸せ」

「すいません」


 ポーリーンは、同じ眼鏡として負けられない、と内心思っていた。彼女も表にこそ出さないが、なかなか総統に毒されてしまっていた。

 そしていつの間にか目を覚ましていたエリザは、しかしポーリーンの膝枕から離れようとしないまま、思考を巡らすように唸った。


「魔王がいる世界か……王道ファンタジーかもしれないね」

「エッ。つまり、水着アーマーがリアルにあるかもしれない世界ってことですかプロフェッサーエリザ……!?」

「いやお前落ち着けって。それはないね。この鼻水赤毛見ろよ。そういうのは無さそうな世界だぜ?」

「テンション下がってきた」

「四天王とかやばい、しかも四天王に幹部までいるとか、結構長引くタイプのあれですね」

「ウーム、こういう忠実系部下をリンチしちゃうのは儂みたいな魔王系魔王としては複雑なところが……」


 各々わちゃわちゃと好き勝手ほざくなか、最後の総統の言葉だけハッキリ理解できたのだろう、ジャントはまるでおかしいと言った様子で笑い飛ばす。


「私を倒す? 貴様らが? ……フッ、面白い! よかろう、まとめてかかってきなさい!!」


「では遠慮なく」


「、え」


 リンチは気が咎める→リンチじゃなければ大丈夫→一対一で全力!

 と脳内で計算式を立てた総統に、一発でジャントはのされどこか遠くにブッ飛ばされた。

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