戦闘、四回目
二つに結ったきらめく金色の髪と白銀の衣装は、遠くからでもよく目立つ。
というわけで男が先に少女に気付いたのだが、彼女もすぐ男に気が付いた。
薄暗い秘密基地内なので、この姿はよく分からないはずなのだが……まあ恐らく、気配とやらを察知したのだろう。
少女は空のような薄いブルーの瞳を、ちょっとばかり見開いた。
そしてまた男を瞬殺した。
「――ぐぅ」
うめき声をもらして膝をつく。
少女が目にもとまらぬ速さで、男の鳩尾を突いたのだった。もちろん槍の柄のほうで、である。
ずきずきと痛み苦しいが、しかしいつもと違って気絶するほどでもない。
苦痛が過ぎ去るのを耐えて待っていると、影が落ちた。――男が顔をあげると、少女がちょうど通りすがろうとしているところだった。
男が自分を見ていることに気が付くと、少女はその足を止めた。目線を合わせるためしゃがもうかとも思ったらしく膝を曲げようとさえしたが、躊躇したあげく結局止めた。
男は、ひどく不思議な感覚に襲われた。その理由はすぐに判明した。
いつもたったかたったか忙しそうな少女が戦闘以外で足を止めている光景を、男は初めて見たのだった。
二人はしばらく見つめあっていたのだが、男がはっと視線を逸らしたためそれも終わった。
年頃の娘をじろじろ眺めるのは、なんとなく不躾だっただろうと思われたからだ。
少女はそこでちょいと小首を傾げた。
「お兄さん名前は?」
「あ、ああ?」
まるでなんでもないことのように、世間話のように話を振られた。これも初めてのことである。
驚きに変な声があがったが、しかし男はそれから間髪いれず答えた。
「雑魚だからねぇよ」
「そっか」
そっけない返事にも、少女はただ頷いただけだった。そして
「じゃあね」
と純白の手袋をはめた手を小さくふって、その場を去って行った。
男はぽかんと、最後まで意識を落とすことなく、その小さな背中を見送った。