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最終戦3

「来たか。戦う意志をみせたな、よろしい」


 少女と対面した軍服姿の男はそう言うと咳払いをし、堂々と声を張って名乗りをあげた。


「我が名はアーロン! 鬼銃器(おにじゅうき)アーロン! 聖騎士よ、貴様の名はなんという!」


 そこで思わずいつもの癖で、エウリュデカを手の中でぐるりと回した。穂先から電撃が飛び散るのも聞こえず、うわ言のように思わず呟く。


「名前……?」

「名が無いというのか」


 耳聡い男に、素直に頷いてみせた。


 そして今さらになって、聖騎士になってから名前を奪われたことを思い出した。個人を捨て、聖騎士団の一員として働かなければならなかったからである。

 しかし、だからどうということもない。どこぞの彼とお揃いだと考えれば、むしろこれも悪くない。


 急に元気がわいてきたような気がして、少女は口元だけで笑ってみせた。


「そうだね、A子ちゃんっていうのはどうかな。結構、かわいいと思うんだけど」

「却下だ紛らわしい!!」

「なに!?」

「すでにAの名を冠する女性がこちらにいるのでな。違う英数字もしくは記号を選んでいただこうか!」

「なにそれ。名前などスルーしてくれていいよ。それよりさっさと闘おう!」


 くだらない問答は必要ない。時間稼ぎだとしたら笑うしかない。攻撃的で、どこか卑屈な笑みが少女の顔に浮かんだ。


「ずいぶん攻撃的だな聖騎士殿。よろしい、お手合わせ願おうか! 鬼銃器アーロン、いざ参る!!」


 途端その両手にあらわれたライフルに、少女も槍を構えた。黒い銃身がギラリと照明に照らされ、その引き鉄に指がかかる。それが開戦の合図だった。




「銃器とか言いつつ剣も使うわけか!」

「銃剣さ、ハハハ面白いだろう!」

「ええ面白い!」


 少女は体ごと深く飛びこんで、アーロン目がけ槍を振りかぶる。まるで捨身の猛獣のようだと思うが、彼女の瞳は醒めている。苛烈な攻撃の手を休めないまま、こちらの動き一つ一つを見逃さず冷静に対応してくる。


「……嫌な子どもだ」

「笑顔で言う言葉!?」


 言われて、アーロンは自分が笑っていたことに気づいた。そして躊躇なく肩を貫こうと迫る槍を、新たにだした銃剣で打ち払う。

 ここまでヒートアップしているくせに、こちらの息の根を止めようとしていない。尊敬するべきなのだろうが、ここまでくるといっそ狂気的だ。


「戦っててそんなに楽しい?」


 一方の少女も、眼前のぎらつく刃身をかわす。そのまま足を狙って槍をつきだしたが、またあっさりと打ち払われた。

 守りがうまい相手だと思う。

 自分とは正反対だな、と対する少女はなんとなく分析した。

 槍を得物にしているからというだけでなく、元来の性質か、身を護りながら戦うというのは自分に合わなかった。


「元々そういう職業だったもので。この姿と能力をみれば分かるだろう」


 多種多様な銃器を具現化する能力の持ち主――異世界人やサイボーグや超天才に比べれば、分かり易い『異能』だ。

 そんな能力者がいきなり接近戦に持ち込んできたのは不思議だったが、なるほど鬱陶しいくらいうまく捌いてくる。

 逆にこっちのほうが厄介かもしれない、と距離を取るか思案した瞬間、今まで神経質なまでに細かい動きをしていた男がいきなり武器を振りかぶって頭に振り下ろしてくるのだから驚いた。咄嗟に槍を構えてふせぐ。

 力と力が拮抗し、雷を発しようと槍が不穏な音をまとった瞬間。


「……っ、ポーリーン!」


 なに、と思う間もなく少女の背後から突っこんできたのは、金髪の女性だった。見かけは知的美人なお姉さんだった――その驚くべきスピードとパワーが無ければ、の話だが。

 その白い腿をしならせ、アーロンには決してあたらないよう少女の足を打ち抜こうとする。両手は銃剣を防ぐのに使っている上、完全に不意をつかれた少女は避けようもない。

 咄嗟に雷撃を発してポーリーンの足を狙った。が。


「ぐっ」


 効かない。

 落ちた稲妻はポーリーンの足を傷つけないようにその表面を滑り、床に黒い焦げ跡を残して消えた。


 そのまま両足を払われた少女はべしっと尻餅をついた。びっくり、と言わんばかりにきょとんとした顔はまだ幼い。

 その澄んだ目に見つめられたポーリーンは一瞬、追撃をとまどってしまった。

 その隙に少女はがら空きの腹を、槍の柄でぶん殴った。その衝撃で細身の体がふっ飛ぶが、それを最後まで見届けることなく、ぱっと背後から撃たれた銃弾をよける。

 サイレンサーまでつけるとは用意周到。仕返しに雷の球を撃ちこむが、また出された銃をぶつけて相殺された。


「ホント厄介ッ……」


 愚痴るように吐きだせば今度はポーリーンがつっこんでくる。また雷撃を落とすも彼女はうんともすんとも言わない。

 素早いパンチを払い攻撃をしかけるが、人間離れした脚力で後ろに跳んでかわされた。


「なに、身体能力向上に雷避けの効果までくっついた異能さん? 珍しい」

「我が名はポーリーン――ただの英国出身の秘書よ」


 答えると眼鏡を外して後ろに投げた。動き辛いのか、スーツの上着も脱ぎ捨てる。

 こうして薄着になっても、ポーリーンの身体に普通と異なる点は見受けられなかった。


「知ってる。異世界人か。特殊能力まであるなんて珍しいな」


 言いながらふと見れば、アーロンの姿がない。


(逃げられたか?)


 思案する間もなくポーリーンが床を蹴った。

 迎え撃つため少女も構えた、が、すぐ解いて距離を取った。

 警戒して足を止めたポーリーンににっこりと笑いかける。


「これならどう?」

「あっ!?」


 パンッと炸裂した稲光が、ポーリーンの目をくらます。すぐさま神経系をオートモードに切り替えるが、それより少女が早かった。先ほどダメージを与えた鳩尾をもう一度うち、鋭く膝裏もたたいた。

 そのまま俯せに倒れたポーリーンの背に、槍の柄を突き立てる。

 ガツン、と鉄の音が響いた。


「やっぱサイボーグかー。人間にしては肉が堅いとおもってさ。見た目は全然変わらないのね」


 ついで雷を流すがやはり通らない。


「確かに電撃は弱点だものね。それでしっかりフォローしてあったわけか。へぇー、すんごい科学者だね。そっちも異能さん?」


 ぴくり、と肩が反応する。当たりらしい。

 もしかしたら彼女にとって大切な人なのかもしれない。だとしたらかわいそうなことを言ってしまった。殺すつもりじゃないから大丈夫ですよと心の中でフォローしながら、左腕を捻じり取ってやろうと手にかけた。

 観察したところこの部分は機械であるようだし、多少無理しても平気だろう。多分。


「じゃ、片腕だけでももらっとく……!?」


 そのままガコッと外した瞬間、腕をもったまま嫌な予感がして瞬時に身を翻した。聖騎士の証、銀のマントが反応してその小さな弾をはじく。アーロンだ。しかし彼はそれだけを見届けると、足早にどこかへ去っていく。

 そして彼と入れ違いになるように、ライトの光らぬ向こうから赤い何かが――。


(新手か!)


 赤褐色の古臭い甲冑が影から光へ、コントラストを目立たせながらその身を起こした。

 彼の右手におさまる両刃の斧は少女の頭よりもでかいというのに、その巨躯のせいで小さくみえる。


「次から次へと……ステージじゃあるまいし」


 少女の嫌味混じりの軽口に答えはなかった。


「我が名はナインズ……」


 甲冑からもれてくる重厚な声は、存外人らしさがあった。


「試作品第九号、赤陸(せきろく)のナインズだ。……口上はよい、槍を抜け。武人が交わすは拳のみ……!」


「気があうわね。じゃ、とっととやり合おうか」


 ちぎったポーリーンの片腕は、彼女がスーツの上着やらを投げたあたりに投げ捨てておいた。

 後で彼女が回収するときに便利だろうと思ったからなのだが、ぐしゃりと何かが潰れる音と、「私の眼鏡が……」と呆然とした声が聞こえてきたのでちょっと失敗だったかもしれない。

 もう少し場所を選んで投げてやればよかった。すまない秘書さんの眼鏡。


「じゃ、ラウンドスリーといこうか!!」


 場違いなほど明るい声で宣言すれば、言い終わる前にナインズが突っこんできた。

 外見よりも素早くて、思ったよりも手こずりそうだなと、少女は少しだけめんどうに感じた。

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