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本部の悪者たち

 そこは、地下深くにあった。

 延々つづく狭い階段をくだり多種多様のトラップを潜り抜け、メイン戦闘区間を横切り、そこからさらに戦闘員らの住居地を通りぬけると、やけに天井の高い空間に出ることができる。

 そう、そここそがこの悪の本拠地最深部、ディープホール・ミーティングルーム――通称、会議室である。

 無駄に壮大な空間には、安っぽい組み立て式の長テーブルと、大きなホワイトボードが置かれているだけだ。席(ただのパイプ椅子)に着いているのは、老若男女、人間人外様々な五人(?)である。そしてホワイトボードの前に立つ、ダークグレーのスーツを着たセクシーな女性。彼女は着席した五人全員がこちらに注目していることを確認すると、物憂げな表情で、ピンクのルージュを塗った唇からふっと息を漏らした。


「それではただいまより定期会議をはじめますが、無駄な挨拶ははぶかせて頂きます」


 この定期会議、三日に一度と不必要なほど頻繁に開かれているため、こうして挨拶を省略されるのはいつものことだった。

 なぜこうもあるのかというと、まず作戦会議を開くのがカッコいいからという理由と、平時になると結構幹部は暇だからという理由があげられる。こうして幹部同士が話しあって茶でも飲むような機会はありがたいのだ。

 とにかく。若干ダルそうな女性は、当然だが全員に異論のないことを確認してから、シャンパンゴールドの眼鏡をくいっとあげた。


「早速本題に入りましょうか。それでは総統、よろしくお願いします」


 そう振られて「うむ」と鷹揚に頷いたのは一番上座にすわる、背の高い老人であった。

 襟元を宝石でかざられた真紅のローブに身をつつみ、右手にはねじれた形状の古木の杖を握っている。まず目につくのは、ぎょろりとした双眸だ。白目ばかりで盲のようだが、席に着く各々に視線を向けていることから見えているのだとわかる。長い両耳には大きな金のフープピアスがついていて、時たま光源に反射しては悪趣味に光る。顎には長い白髭がはえているのだが、なぜか、ピンク色のかわいらしいリボンで結ばれていた。

 総統は二、三度咳払いをして少し間をためると、



「また秘密基地が壊されちゃいましたテヘペロオオオオオ!!!!」



 沈黙。


「ええええええええ!!!?」


 真っ先に反応したのは、総統のすぐ右側の席に着いていた幼女であった。ショッキングピンクのふわふわもこもこな小熊の耳つき帽子をかぶり、同じ素材のまるで下着のような衣装を着ている。澄んだ水色の目をぱちぱちさせながら、口を大きくあけて、全身で驚きを表して固まっている。しばらくそうしていたのだがすぐに我に返ると「もう!」と怒り、丸い目をキッと鋭くしてみせた。


「おじいちゃんのバカバカバカバカ!! ウチの危機的状況分かってるの!? 分かってない、分かってないでしょ!!」


 そして再びバカバカとののしりながら、やはりもこもこした熊の手袋で総統の体をぽこぽこ叩くのだった。

 一方の総統はというと、とろけそうな目でかわいいかわい孫娘を見つめている。彼女が必死で怒っているにも関わらず、今にも頭を撫で出しそうだ。「よしよーし、飴ちゃん食べるかい?」「いらないのっ!」


「これで、全ての支部が壊滅となりました。絶望的だわ」


 きゃいきゃい騒いでいるいつも通りの爺孫コンビは放っておくことにしたらしい。女性は淡々とそう告げた。

 いつのまにか、ホワイトボード上には世界地図が貼られていた。この国では極々一般的な地図なのだが、そのなかにはいくつもの黒い三角印が記されていた。一つをのぞいて、全ての三角印に赤のマーカーでバツ印がつけられている。

 そして最後の一つにも、今、バツ印がつけられた。


「――また例の、正義の味方か」


 幼女の隣に座っていた軍服を着た若い男が、うんざりとした表情でそう呟いた。グレーのショートヘアーはワックスで整えられており、軍服は第一ボタンまできっちりしめられ、白い手袋もはめている。その見た目通り、生真面目で冷静な男だ。眉間には常に皺が寄っていて、余計に厳めしい印象をうける。


「……それ以外、ありえぬ……」


 それに答えたのは、巨大な赤銅色の甲冑だ。一体で席三つ分ほどの幅をとっている。彼だけ椅子も、石造りの台座のようなものだ。西洋風のそれの中に人がいるのかは分からないが、その声は低く渋みのある、普通の人間と変わらぬものだ。

 軍服の男はフム、と口元に手をやって考えるような仕草をした。そしてしばらくホワイトボードを厳しい顔で見つめ、それから秘書の女に目をやった。


「ポーリーン、建設中のものはどうなっている?」

「現在、四つありますね。しかし、一番早いもので八割できているかどうか、といったところです」

「ヌ……間に、合わぬだろうな……」


 甲冑はそう言って苦々しく唸ったきり、黙りこんでしまった。もともと寡黙な性質なのだ。

 軍服の男は肩をすくめた。


「まさか最終防衛ラインまで突破されるとは思っていなかったな」

「そうかい? 私はそろそろだと思っていたけれどね」


 今まで黙ったまま、しかし遠慮なく煙草を吹かしていた妙年の女性が、からっと言い捨てた。よれた白衣を着ていて髪の染色も落ちかけていて、まるでだらしない身なりをしている。が、眼鏡の下の瞳は力強い光を宿していた。

 「エリザ、」とまるでたしなめるように視線を送ってくる軍服の男を、逆に鼻で笑いかえした。


「甘く見過ぎたってか? そんなこたないでしょうよ。取れうる限りの対策取ってこれじゃいの。もうこりゃ、しかたないさね」

「フッ、まったく。――ところで総統、パロミ。そろそろ静かにしてくれないか」


 そして未だにぎゃいぎゃいと漫才のような掛け合いを繰り返している二人に目をやれば、先ほどから一生懸命なパロミはすでに肩で息をしていた。


「アーロンたちは冷静過ぎぃ!」

「パロミ、その腹丸出しの服はおじいちゃんどうかと思うよ」

「おじいちゃんはのん気過ぎぃ!」


 それからふと見ればエリザは「ちょっとナインズ。アンタもう二言は喋ったからって黙っていいとか思ってんだろ。あ? あ? あ?」と沈黙を保ちつづける甲冑に意味の分からない難癖をつけているし、ポーリーンは無表情でそれを眺めたまま止めようとせずただ立っているだけだし、アーロンはアーロンで深刻な表情のままどこから出したのか紅茶をすすっているし、一番の責任者こと総統は慌てた様子で「おじいちゃんはパロミが心配なんだよ」と自分の後ろをうろうろしている。


「どうしてみんな、こんなに危機感ないのぉ!?」


 パロミ渾身の叫びは、遥か高い天井の闇に吸いこまれて消えた。

悪者たち

総統:おじいちゃんだよ!!!!

パロミ:幼女。ピンク。もこもこ熊スタイル。

ポーリーン:秘書? セクシー眼鏡美人。事務的で淡々としている。

アーロン:軍人。常に冷静。軍服着用。

ナインズ:甲冑。寡黙。大きい。

エリザ:姐御。白衣。博士。伊達眼鏡。髪はプリン状態。


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