戦闘、三回目
白銀の鎧を纏う天使のような容貌の少女と、全身黒ずくめの男が、ある秘密基地の一角で対峙していた。
先に動いたのは少女であった。相手が反応する間もなく一瞬でその身をつめる。
「やあ!」
まだあどけないかけ声と裏腹に、自分の背丈ほどはあろう槍を軽々と振るった。
哀れ対面した敵の男は、為す術もなく打ち倒される。
男の意識は闇に落ちていく。
最後の光景は、自分を難なく打ち破った少女の可憐な後ろ姿である。
鋼のように堅いくせに、シルクのように艶めきなびく純白のマント。
少女はそれを翻し、颯爽と去っていく――。
男が少女と戦ったのはこれが初めてではない。かれこれ三度目である。
少女はいわゆる正義のヒーロー、『聖騎士』だ。
「女神のもと、この世界の秩序を守る」という大義をかかげた『聖騎士団』と呼ばれる、謎の団体に所属している。
少女は、男の属する「悪の組織」が何か行動を起こすとその都度現れ、輝かしくも圧倒的な力を持って彼らを叩き伏せていくのである。
「いててて……」
頭をさすりつつ身を起こす。打ち付けた尻や腰が痛むものの、軽い打ち身程度だ、すぐ治るだろう。
ちなみに彼女が相手側――つまり男の属する側に死者を出したことは、ただの一度もない。
男は幹部ですらない、ただの戦闘員だ。
しかもその中でも下っ端、いわゆる雑魚キャラである。
敵に立ちはだかり若干の時間稼ぎをし、そして蹴散らされるのが彼の主な仕事だった。
それは例の少女に対峙したときも同様だ。
いつも少女は男を倒すと一瞥するでもなく、その場からさっさといなくなってしまう。まあ雑魚キャラにふさわしい対応と言えよう。
男はそのことに不満を持ったことはなかったし、惨めだとすら思っていなかった。
だって相手は人外のようなパワーを持つ『聖騎士』なのだから。
あと何度出会うのかは分からないが、最後までずっとこんな調子なのだろう。
男はもうすぐ訪れる給料日のことを考えつつ、そんなことをちらりと思った。
――しかし彼のこの予想は、大きく外れていくこととなる。