0.5章 不可視の技術
この物語は、
「フィクション」です。
使用されている国名、地名等は、一切現実と関わりはありません。
インビシブル・テクノロジー[不可視の技術]
①物体を色の3原則から外れた色で彩る技術
②周りの色に同化する能力を持つ物体を作る技術
俺は学校について、SHRが始まるのを待っていた。
一応、近くの席の奴に、さっきみた物体について聞いてみたが、
「知らないし見てない」
というような返答しか帰って来なかったので、さっき見たのは俺の幻覚であることがわかった。
眠い……。
程よい教室の気温が、俺を気持ち良い睡眠に誘ってくれる。
よし、寝よう。
そう決意して、机に突っ伏した瞬間、放送が入った。ぴんぽんぱんぽーん、という穏やかな音とは裏腹に、事を伝え始める声には緊張が含まれている。
「緊急連絡。緊急連絡。ただちに全クラステレビをつけ、次の指示があるまで待機していてください。」
緊急連絡なのに、テレビをつけるのか?
テロでもあったのか?
そんな声があちらこちらにあがるのをよそに、俺は一抹の不安を抱きながら、テレビまで歩いていった。
このわからない謎の不安をどうにかしたい、そんな軽い気持ちで、テレビの電源を押す。すると――
想像を逸する非日常へと俺らが吸い込まれた事を、画面の上部に流れているテロップが、無情にも伝えていた。
緊急ニュース
中国が、2週間後に日本へ宣戦布告する事を明言。
教室は静まり帰った。
教室にいた誰もが、あり得ない、という顔をしていた。俺も、放送局の陰謀かと思った。だから、他のチャンネルに回した。
だが、結果は変わらない。全ての放送局で緊急のテロップが流れているのを見た時、俺は、
あの飛行物体は、
戦闘機もしくは偵察機だ。との確信に至る。
一呼吸おいて、
「うわああああああああ!」
級友の怒号や悲鳴が、クラス中に響きわたった。
自宅待機。
青ざめた担任は一言、そう言うと足早に教室から去っていった。
どうやらあのニュースは事実らしい。
「ってか、何故中国は急に宣戦布告してきたんだ・・・・・・。」
校庭を歩きながら呟く。
返答を期待した訳ではなかったのだが、
「そりゃ、インビシブル・テクノロジー絡みじゃないの?」
答えが帰ってきた。
声がした方向をふりかえると、そこには、
「嘘、だろ……。」
学校をおおうほどの大樹がはえていた。校庭のど真ん中に。そして、その根本に声の主はいた。
「初めまして。いや、久しぶりかな、・・・・・・君とは。」
「昔会ったことあるよね的な雰囲気出されても会ったことないんだが。てか今俺の名前わからなかったよな!?まぁ、それよりも聞きたいことがある。」
「ふーん。
その言いぶりだとあなた、この樹が見えるのね。
ちなみに一応言っておくと、この大樹、私がはやした訳じゃないわ。私はあなたと同じで、この樹が見えるの。ただそれだけ。」
「この樹が見える……?」ふと周りをみまわしてみる。
そうか。朝感じた違和感は、
「みんなには、見えてないんだな。」
つまりは、俺とこいつだけが見える。そういうことだろう。
「そうよ。何故かはわからないけど。
私の考えでは、この樹は、インビシブル・テクノロジーが活用されているわ。あなたが今日の朝見たのもそう。」
「インビシブル・テクノロジー……。確か、それが完成したっていうのは噂でしかないんじゃなかったのか?」
インビシブル・テクノロジー。それは、日本が完成したと言われているが、真偽は明らかになっていない。
「詳しい事はわからないわ。だけど、私とあなたが見えているのに、他の人には見えない。
なら、不完全なインビシ――長いからこれからはこう言うわ――不完全な"不可視の技術"だと考えるのが合理的じゃない?」
確かにこいつの言うことは筋が通っている。
「まぁ取り敢えず一番最初の話に戻すと、中国が日本に宣戦布告する表向きな理由は領土問題、つまりは尖閣諸島の所有権なんだけど。実際には、"不可視の技術"絡みだと思うわ。」
「"不可視の技術"か。そんなに恐ろしいものなのか?」
「うーん、あなたは透明人間になる事を想像した事はある?」
「いや、特には。」
「つまりは、核爆弾を使うと、人間の住める環境はなくなってしまう。だから、各国は核爆弾に代わる強力な戦力を必要としていたの。そして、目をつけられたのが、物を見えなくさせる技術・・・・・・"不可視の技術"よ。爆弾や基地を隠せるなんて、都合良すぎるでしょ。」
確かに、そうだ。
そんな危険な点を全く見つけられない自分が歯痒い。
そして、この異常な程頭のきれるこいつは、
「お前は、」
何者なんだ?
その質問は、言い終わる前に先回りされて
「私は詠架。あなたの1つ上で、しかもあなたの先輩だよ。私の事は、詠架って呼んでね。」
屈託のない笑顔。いつもはクールな彼女の見せたその笑顔は、まるで、一輪の向日葵のよう。
詠架先輩。
謎が多いけど、悪い人ではなさそうだな。
「君は?」
意識を戻し、
「俺は、」
さわさわさわ
残りの言葉は、大樹のざわめきによって、かきけされた。
「そろそろ時間のようね。私は、死んだ父親の遺志をつぐわ。だから、ここでお別れ。生きてなさいよ、絶対。約束だからね。」
そう言うと、詠架は俺と小指を絡めてゆびきりげんまん〜と言うと、引き留めるまもなく大樹の裏を駆けていった。
俺は、詠架が気になった。
特に−−
別れ際、詠架が一瞬だけ見せた、寂しそうな表情に。
2人は、再び出会えるのだろうか。
読んでいただければ幸いです。