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隣の家  作者: 一未
1/4

キミの部屋にガーベラを

一話単位で書いていきます。

お好きな物語から、移動時間にでもサラリと読んでいただけたら幸せです。

「なりたいもの?そんなもん、ねぇよ」

龍一は、パソコンの液晶を眺めたまま答えた。


「将来どうしたいの?なりたいものはないの?」

と訊ねた答え。



パソコンの液晶には、私にはてんで魅力と思われない可愛い過ぎる女の子のアニメが流れている。

部屋をグルリと見る。

相変わらず、わけのわからないポスター。

散乱したパソコン周辺のコード。

飲みかけの缶ジュース。

食べかけのスナック菓子。



「なるほどね。確かに、なりたいものって探すの難しいかもね」

と言うべきか。

「とにかく、何かを始めなくちゃ。いい加減、パソコンの前からはなれなさいよ」

と言うべきか。


どちらにしても、私の言葉は空回りのような気がする。


龍一、19歳。

高校を卒業してから、こんな生活。いわゆる、ニートってこと。

引きこもりと該当するのかは判断しかねる。




「そう」

それしか言えず。


窓の外に目をやる。

梅雨入りした今日、朝から雨が降っている。

じめじめとした季節は、心にまで雨が降りそうで嫌な感じ。




せめて、明るく。そうね、せめて、この部屋、綺麗にしたい。

私の考えは、そこ止まりにする。それ以上、考えたところで無駄だと感じているから。




「でかけてくる」

龍一の背中に声をかけると

「あぁ」

小さな声が返ってきた。



雨の中、出かけるのは趣味じゃないけど。なんだか家にいるのも憂鬱だ。

パステルカラーのレインブーツを履いて、歩き出す。



隣の家の庭に紫陽花。

花言葉は移り気。


未来予想なんてしても意味はない。誰にもわからないことだから。


見事に咲いた紫陽花は、雨の中、笑っているみたい。

嘆く私を。迷う私を。


......笑っているみたい。


......笑い返してやろう。




ポツポツと傘から垂れる雨の滴を眺めながら、気分転換に利用するカフェへ行こうと思った。



隣の花屋。

足を止めたのは、初めてのことだった。


さっきの紫陽花が頭の中にあったせいかもしれない。



綺麗な花を眺めていると心は静かに穏やかに。未来とか考えるよりも現在いまこの時、何かを感じられる自分がいることが一番だと思えてきた。




花の名前が書いてある値札。そこには、花言葉が書かれている。


「希望、常に前進」


赤、ピンク、黄色.

どれも可愛くて、どれも凛として。


「これ下さい」

思わず買ったのはガーベラ。




カフェに行くのをやめ、ガーベラを抱えて帰宅する。

花瓶に無造作に刺したガーベラを龍一の部屋に置きにいく。

ドアを開けると、龍一がこちらを見た。



私が手にしてるガーベラに視線をうつすと

「どうしたの?それ」

「なんとなく、買っちゃった」


机の横にあるカラーボックス、一番上。そこに花瓶を置くと、部屋はみごとに変化したようだった。



「ふぅーん」


パソコンから目をはなし、キーボードから手をはなし、ガーベラを見つめた龍一の顔も変化したように感じた。


「いろんなこと、体験してみると楽しいかもよ」

私の言葉に

「そうかも」

龍一は、まだガーベラを見つめたまま。


そして、私に向かって笑った。



次話、近々更新予定。

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