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魔王編二話の一 世界の一万分の一のたたかい

展開は王道を意識できている……はず、です!




「ネコ」


 歩く途中、魔王がメガネを煌めかせながら私の名前を呼んでくれた。


「何?」


「お前は、どうして何かを救うことにこだわる」


「どうでもいいことじゃない、かな?」


 あまり答えたくなかった。でもそれとは別に、彼が私に興味を持ってくれたと言う事実については嬉しく思えた。魔王でもやっぱり、他人に興味くらい持つんだなぁって。


「いいから答えろ」


「目前で自分の知る人間全部が殺されて、何も思わない方がおかしいでしょ。この世に絶望したり、復讐しようとしたり。でも何より、もうこんな事が起こって欲しくないって」


「お前はそう思ったのか」


「そう」


「実にどうでもいい理由だな」


 予想通りの返答が来たことで、私は一人、自嘲するしかなかった。とりあえず頷く。

 足音数歩の間を置いて、魔王が突如、歩みを止めた。私もそれに倣って止まる。


「なるほど。確かに純正とは思えない魔力がウジャウジャしているな」


 周囲は、瓦礫の土地。そんな空虚中央で、魔王がため息混じりに言っていた。私には、彼のため息が呆れからなのか、それとも感心から来たものかも分からない。

 場にはただ壊れたように強い日差しが降り注ぐばかりで、やはり何も無かった。


「それでキミ……これ、何なの?」


 だけどただ一つ、私たちの背後にのみ、何かが居る。


「見て分からないか? 魔王軍だ」


 怪しげな笑みと共に繰り出したる言葉。私たちの背後に並んでいるのは、人型の魔物が十体程。


「凄いだろう、強そうだろう。昨日の夜に山を散策して捕まえてきた」


 彼にかかったら、私が命がけでしか倒せないような魔物相手でも、虫採り気分なんだなぁ……。


「わたしはマオウにチュウセイをツクしますよ」


 おわ。一体だけ、喋る奴までいる。

 私が一日、集落の知人に近況を告げるため魔王と別行動をとり、そして合流すればこれである。魔法か何かで魔物を操っているに違いなかった。一体一体の呻き声が耳に障る。


「では、行くかネコ。俺たちの初陣だ、お前もしっかりと副官の役割を果たせ」


「そウダ、ハヤクイくぞネコ」


 なんで魔物も偉そうなの。


「帰ったら飯だな」


 遠景に見える繁華の残骸に向けて、勝手に歩き始める魔王。それに付き添う魔物たち。その巨体に轢かれそうになって、私は身を跳ねて避けた。

 ……大丈夫かなぁ、こんな調子で。てっきり人間を仲間にするものだと思ってたのに。

 少し遅れて、また私も歩き出す。歩き出すしかない。

 初陣での目標は、化物に支配された街一つの解放である。

 街人全員が化物と化した街。過去、私も個人的に足を踏み入れたことはあるけど、その記憶はもはや、思い出せば髪が逆立つ程のトラウマだ。……それでも、今回ばかりはやるしかない。ちゃんとできる。頑張れば世界は救えるんだ。やれることなら、どんな危険を冒してでも。

私は新たな一歩を踏み出した。


「全軍前進ー!」


 腕を立てて叫んでみたら、魔王が不機嫌そうに振り返ってきた。



 *



 魔物が化物を蹂躙している。

 私には見慣れない、それどころか初めて見る光景だった。

 基本、異形と異形はある程度の食物連鎖はあるといえど、魔力の産物と言う点ではどれも変わりなく、異形同士で共食いや仲間殺しを行うようなことは、まず無い、と思う。

 でも、今目前で起こっているコレは……どうだろう。

 読んで字のごとく鬼のような巨大な爪が、手が、百人百色の化物を切り刻んでいく。見方の魔物たちは、魔王が選りすぐりと自慢するだけのことはあった。

 敵の化物にも一定の連携があるらしく、私達が瓦礫を押し退けながら攻め込むと同時に、湧き出してきた。次から次へと、侵入者を潰すために襲いかかろうとしている。


「どこからこんなに……!?」


 私もまた、走っていた。一番槍として乗り込んで、最初こそ先行して敵の数を減らすことが出来ていたけど、こう数が多いと体力が続かない。後退気味に、灰の建物(の残骸)から灰の建物(の残骸)の間を飛び移る。それでも途中、潰した化物の数は知れたものじゃない。


「本当に多いな」


 荒れた交差路の中央に、腕を組みながら悠然と佇む魔王。

 その周囲では、彼を囲むように異形同士の戦闘が繰り広げられている。


「手伝ってよ!」


 魔王の背後で爪を振りかざした影に、私は寸前で追いつき、蹴り飛ばした。べきりと小気味よく不愉快な音を残して、影は遠く吹き飛んだ。


「ネコ、お前は何も分かっていないな?」


「何が!」


「古今東西すべからく、リーダーとは自ら動かずに手駒だけで戦いを運ぶものなのだ。多分な」


 ダメだこの魔王。中指でメガネをカチャッてやってる場合じゃないのに。

 私には、もうこれ以上、魔王と言葉を交わしている余裕は無かった。戦場を駆ける。

 ふと目を流せば、味方の魔物が一体、轟音の鳴き声をあげながら崩れる様子があった。

 とっさに目を塞いだけど、悲壮な鳴き声がその死を明確に私へと伝える。

 脳裏に嫌でも流れる辛い記憶の流星群。私には、戦う理由があるんだ。これ以上悲しい何かを作らないって、自分自身に約束したんだ。

 高い瓦礫から見渡すと、交差路の中央から見て一つの路に、化物の行列を発見した。大群だ。


「……多い」


 交差路まで大群が到達すれば、魔王はともかく、仲間の魔物たちは間違いなく全てが押しつぶされるだろう。そんなのは、嫌だ。

 仲間の魔物も、結局は人間に害を成す存在だ、それは分かっていた。ただ、私が精神のままに体を動かせば、交差路までの道程で大群を食い止めようと走り出していた。それだけだ。


「キミ! 見てないで私のこと手伝っ「断る」て」


 魔王に拒否された、やっぱり私がやるしか無い。近くの瓦礫から飛び移って、移動だけなら瞬く間だった。

 大群の先頭を前にして、待ち受ける形で立ち止まる。

 私の手には、ここに立つまでの道すがら拾った、金属製の錆びた看板。


「絶対に……!」


 迷いとか、甘えた感情は一切無い。だからもっと、私に力を分けて欲しい。

 私が目の前に立つことで、魔物の大群は明らかな憤りを見せ、奇声を放つ。

 我先にと襲いかかってきた化物に対して、腕が切れそうな勢いで、看板を投げつけた。


「叶えてやるんだから!」


 一体が崩れれば、その背後に並ぶ連中も連鎖的に崩れた。そうして生まれた敵の隙を見て、私は自ら大群の只中へ一足で飛び込んだ。間もなく全方向から襲いかかってくる魔物を一切寄せ付けず倒し倒し倒し、中空に跳ぶ。

 敵の干渉を受けない空中は、ほんのわずかな休息が私に届けられる時間だった。深く息を吸い、戦場に落ちる前に、ふと、戦場の外を見る。


「えっ?」


 中空にて拓けた視界。そこで見えたモノに、一瞬気を取られた。何か見えた。しかし重力と時間は容赦がない。私の体と気持ちを、問答無用で戦場という名の地上へと引き戻す。

 着地の直前、化物の肩にカカトを振り下ろした。宙を回り柔らかく着地した。化物の足を払うと同時に、地面に落ちていた鉄パイプを拾うと同時に、先程空から見えたモノに向けは何だったのかと、首を向けた。


「っきゃっ!?」


 一瞬で黒い霧がもわりと吹付け、私の髪を揺らしてきた。黒い霧は、化物の命が途絶えたとき見える証。化物の死骸が変質したものだ。突然視界が潰れたことが恐ろしくなって身構えたが、しかし化物による攻撃は一切途絶えていた。誰も来ない。

 この一呼吸も置かない間に、私の周囲だけそれが、全滅したらしい。


「やはり敵はもっと強くなければつまらんな……」


 霧が荒れた風に吹き飛ばされて、一筋でも景色が明瞭に元の姿を取り戻した。私の目に見えたのは……こちらに向けて手の平をかざした魔王の姿。彼の仕業で、敵の大群が全て消された、ということだ。正直、呆然とするばかりで動けなかった。


「ネコ、早々にこの場所を終わらせて次に向かうぞ。次はもっと働かないと、仕置だ」


 魔王は交差点の中央で退屈そうに顔を歪めて、首を振ってみせた。

どうやら彼が敵を消したのは私の周囲のみ。彼自身の周囲では、未だに戦闘は苛烈だ。


「ところでグズネコ」


「え?」呆然から覚める。


「お前の後ろにいる人間どもは、何だ。お前の仲間か?」


 それだ。思い出して、振り返った。私が空で先ほど見たものは、それだったんだ。

 見る。廃れた道路の先の先、そこに居たのは確かに複数の人間だった。綺麗な様相の男たちが、隊列を成してコチラに向かってきている。

 ……誰だろう、彼ら。隊列からは、何もかもを押して通すような、そんな威厳ばかりを感じさせられた。男たちは戦場に迫って、止まらない。


「開いて、構えてくれ」


 中でも一人、長身の優男が中央から一歩、前に出てくる。


「……」


 呆気に取られて、見つめてしまった。声にならない「あ」という声が漏れた。

 中央の男は、別世界の人間かと思えるほど、綺麗だ。美しい。肩に羽織った灰色の服も、頭に巻かれたバンドも、くりりと伸びた髪の毛も、その顔すら、世界に栄えている。


「出来る限り人間には当てるな。俺達は判断を迷えないが、行動では適えられるんだ」


 中央の美男が、人間たちの指揮をしているように見える。従った人間たちは、ヘンテコでブサイクな道具を肩に構え、こちらを覗いていた。道具の先端を戦場に向けている。

 よく分からない。彼らは何をしているんだろう、あの道具がなんなのか。


 何も――


「撃て」




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