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勇者編4話の2 天才に泥

 ぽーっと見上げた天井は純白で、ずっと見つめても変わり無い。

 少し視線を下げればみえてくる四角い窓もまた、日光に白く染められていた。カーテンも白かった。床だって。

 治療室ってのは、なんだか気が狂いそうなくらい……白だらけだなぁ。

 部屋にベッドは私一人の分のみ。ここは特編委員専用の特室だ。ちょっと凄い保健室みたいなものである。


「しぶといんだな、お前も」


「うーるーさぁい!」


 声を張り上げたら痛みが増した。大別すれば無事とは言うも、この分じゃあ委員会の活動に参加することは不可能だ。まともに動くことすらままならない。


「今回は自分の打たれ強さを恨んどけ。一瞬で楽になれるところが、この有様だからな」


 ベッドの隣にはイオリの姿。私はイオリを睨みつけながら、はいはい、と悔しげに返事をした。

 彼は名分上、仕方なくお見舞いに来てくれたらしい。実のところでは、私を笑いに来たようだった。下卑た目遣いで私を見てくる。


「……」


 まだまだ、見つめ続けてくる。

 私といえば、患者服の内側に包帯を巻いただけの簡素な格好でベッドに横たわっているだけだ。

 目立つ傷があるわけでもないのに、彼はどうしてそんなに見つめてくるのか。

 イオリといえど、男か。そうか、そうなのかな? 考えると少し、頬が熱くなった。


 うわー。


 うわぁー……!


 頬が擦られたマッチみたいになった。何だろう。眼福っていうの? 人が動けないからってジロジロ見てこないでよ。まあ彼だって年頃の男の子だし――


「無様だな」


 死ね。


「しかし、音猫」


「……なあに」


 呼びかけに対し、ジト目で見やってやる。


「こうして見つめてみるとお前も結構、上質だ」


「……意味分かんないこと言わないでよ。頭がおかしくなったの?」


 擬音で『むー』とでも鳴りそうなくらい強く、見つめてやった。


「美人になれるって、言ってんだよ」


「!?」


 体を起こしてびっくりした。一瞬で、顔が爆発するかと思った。初めてだ。嬉しい。


「な、なな、急にそんなこと言われても!?」


「この程度で赤くなるなよ泥臭い」


「わ、私のこと、好きなの!?」


「ぶっ飛ばすぞ!」


 今度は恥ずかしさのあまり顔が爆発するかと思った。

 恥隠しに怒鳴りたくもなったけれど、ほめられた手前、どうしても怒りは口に出せず、悶々と口の中にたまるばかり。

 悪かったと思うよ、自意識過剰っていうのは昔から言われてるし……。


「まぁ、胸が小さいのは残念だな」


 彼の言葉を聞いた瞬間、しゅんと、無い胸が内側からしぼんだ気がした。

 元気だったら絶対蹴っ飛ばしてやるところだ。彼の顔面を、骨の形が歪むまでどうにかしてやりたい。


「ところでところで、私が居ない間、委員会はどうなるの?」


「平和になるぞ」


 骨の形が歪むだけじゃ物足りないらしい。


「まぁ、平常運行だ。元々、メンバーは俺と星空だけだったことを考えても、たった一人が抜けたところで活動停止になるはずもないだろう」


「……そっか」


 私が居なくても世界は回るんだと知って、少しだけ切なくもなったけれど、でもそれが一番よいことなんだと思い直せた。化物一体を倒さなければ、それだけでどれだけの人間が犠牲になるかしれない。委員会の活動は、果てしなく重要なことなんだ。


「まぁ正直、お前はよくやったと思う。星空を助けたことには、俺からも礼は言う」


 言葉を途切れ途切れに、何やら告げてきた。私から視線を逸らしながら語っているところを見ると、彼も恥ずかしいんだろう。


「俺は……間に合わなかったからな。お前がいなかったら、アイツは死んでた」


「イオリが行けなかったのは仕方ないよ」


「……仕方ないってか……分かったようなこと言いやがって」


「え?」


「……まあ、礼を言わせてもらうって気持ちは、本当だ。ありがたく受け取っておけ」


 イオリも、可愛いところあるんだなぁ。


「星空さんとキミは、どういう関係なの?」


「んあ? 別にどうも? 入学以来、成績を競いあった程度の仲だな。特編委員にあいつを誘ったのも俺だったか。まぁそれくらいの仲間ってところだな」


 そっか。幼なじみのような関係を予想していたけれど、そういえば前に聞いたんだけれど、星空さんは、幼少違う街に住んでいたって、言ってたっけ。


「それよりもだな」


 イオリが話を切り替えてくる。その顔は今までにない、したり顔。

 先程まで照れ隠しをしていた可愛らしい彼はどこに行ったんだろう。いつもどおり、厭らしい。

 一体、私に何を言うつもりなんだろう。


「お前が委員会活動を休む間、つまりそれは、だ」


「?」


 嫌な予感がする。


「それは、俺と勇者の恋路を邪魔する人間が居なくなる、ということでもあるな」


「!?」


「さぁお前が復帰する頃には既に勇者は俺の――」


 私は怪我の痛みも振りきって、イオリに飛びかかるのであった。






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