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勇者編4話の1 おしゃれな人は猫が似合う

 委員会の仕事は、今日も命がけなくらい大変です。

 今回発生した魔物は手強いかもしれない。

 私は、廃墟ビルの壁面を落ちながらに駆けていた。

 隣には、こちらに急降下を仕掛ける翼を持った魔物の姿。

 対応はやっとのことだ。放たれた一撃をかわし、敵の頭部掴んだ。ビルの壁面に叩きつけ、めりこませる。嫌な音があたりに染み渡った。

 私の体は反作用によって、ビルから大きく引き離された。


「……ふぅ」


 安堵の息をついた。

 ……が、今私が、高い高い空間から落下しつつあるという事実に変わりはない。

 地上に落ちるまでしばらく身動きが取れそうにないのは、仕方ない。諦めに任せ、他のメンバーがどうしているか、高見から見渡してみた。


 まず一人目。

 囲まれているらしいが、イオリは無事だ。彼は適性である時系列系以外にも多彩な魔法を習得済みらしく、適宣の判断で臨機応変に戦いを繰り広げている。


 その隣には、二人目。

 ミスシキクラエ君の姿。物質の形状変化という、言わば錬金術的な魔法を駆使し、まだまだ余裕と言わんばかりの笑みを浮かべつつ戦っている。その戦いぶりはやはり、イオリ以上だ。彼はいつも、衣服に汚れ一つ付けず帰ってくる。


 少し離れたところで、特区のビルが一つ崩壊した。

 姿は見えないが恐らく勇者の仕業だろう、あれでも力を抑えているらしいから恐ろしい。本人は謙遜こそしてるけど、本気を出せば、一撃でこの特区は丸ごと吹き飛んでいても不思議はない。勇者のあまりにも派手な仕事に対し、イオリが怒鳴り声をあげていた。


 そして、最後の一人。


「星空さん!」


 いつの間にか皆とは離れていたのだろう、星空さんの姿は私の真下、ビルのふもとに立っている。

 巨人的な魔物に囲まれ、逃亡などの身動きはとれない様子であった。紛れもなくピンチである。

 元々、星空さんの適正魔法は戦闘に向いたものではなかった。今、一体の化物を弾き消してみせるも、反撃は手痛い。化物に周囲の地面を抉られ、逃げ場をなくされる。

 普段の完璧な彼女からは考えられないような有様であった。

 私はその光景を目にして、純粋に焦りをにじませるのであった。


「……た、助けなきゃ」


 特編委員の仕事に危険はつきものだ。危険だからこそ、死んではいけない。平和を目指すための仕事で、人が死んだり怪我をしてしまってたまるもんか! そして何より、私が個人的に星空さんが大好きなんだ! ピンチの対象がイオリなら絶対助けない!

 途端、私は片膝をついて着地した。足が割れちゃっても構わない。

 骨に響く痛みが走るも、持ち前の打たれ強さで耐え切ることで、大地にしっかり脚を着くことができる。


「星空さん、一旦逃げて!」


「ね、音猫ちゃん?」


 間もなく彼女を助けるため魔物一体に向けて跳び、頭を蹴り飛ばしてやった。一方星空さんはうろたえながらも私の言うとおりに逃げ場を探すが……上手いようにいかない。

 魔物も分かっているのだろう、逃げ惑う星空さん一点に狙いを定めているようだった。私だって彼女をかばう形で応戦するけれど、処理は全く間に合わない。


「頑張って、逃げて!」


「う、うん、でも」


「でもじゃない! 早く逃げなきゃ!」


 怒鳴っても彼女はそれ以上速くは走れなかった。

 逃げる星空さんが振り向き、私に向けて静かで柔らかな、言葉を向けてくる。


「ごめんね。ダメ、かも」


 彼女の背後には拳を振りかざす魔物の姿。

 え? と思った次には、駄目だ! という叫びが剣山のようになって脳を刺した。

 感情が一瞬で沸き立つ、脊髄反射的に体が、星空さんを救う為に動き出した。

 このままじゃ星空さんが潰される。もう、人が死ぬところは、嫌だ。


「ふぐっ!!」


 無理な姿勢から飛び出して、星空さんの体を吹き飛ばした。彼女の体は乱暴に転がりながらも何とか無事な様子だ。私自身も問題はない。

 すぐに起き上がって周囲を見渡すと、先ほど星空さんが立っていた地点に、大きな拳がめりこんでいてゾッとした。

 まだゾッとして、感想を抱くには早い。私たちは助かってなんか居ない。

 唐突な運動に動きを制限された私の体は、次に放たれるであろう攻撃をかわすことはまず不可能だ。

 敵の気配を感じて背後に振り返れば、襲い来る新たな拳が迫っていた。

 星空さんは動けそうにない。敵の攻撃は止まりそうにない。そして私は敵を倒せそうにない。


 私は――




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