08
ダンジョンの最奥まで進み、ボスを倒し私たちは宝箱を手に入れた。
中身は、ダイヤや鉄などの素材や魔術書が大量に入っていた。
道中で採掘した素材も合わせて、大量の戦利品を抱えて帰ることとなった。
「これしまう家とかほしいわね」
ダンジョンを抜け出したあと、るりちゃんがそういった。
たしかに、インベントリの中がぱんぱんで早くチェストにしまいたいと思ってた。
でも野ざらしのチェストにしまうのは風情がない。
一応このサーバーでは窃盗が禁止されてるため盗まれる危険はないが、それでも嫌だった。
「パーティ用の家を《建築士》に依頼して作ってもらおうか」
「それいいっすね!それなら建築費用が四分割で負担が少ないし、さっきの戦利品も全部共有チェストにぶちこめるっす!」
「兎月……あんた、Kちゃんと一緒に住みたいだけでしょ」
「バレた?」
「バレバレよ」
るりちゃんがため息を吐く。
「……あの」
オルカくんがそろりと言う。
「Kさんに対する兎月さんの態度っていつもこんな感じなんですか……?」
「そーよ。Kちゃんにはでろでろなのよ気色わるい」
「ええ……」
私は恥ずかしくなって、黙ってしまった。
「いつもクールで塩対応な兎月さんが珍しいっすね」
「塩対応なのはお前にだけ」
「ひどくないっすか!?」
ふふふ、とつい笑ってしまう。
兎月くんがここまで辛辣なのは初めて見た。オルカくんとは気の置けない仲なんだろうなと思う。
すこしだけ、それが羨ましかった。
全体チャットで、家を建築してくれる《建築士》を募集して名乗りを上げてくれた人に依頼した。2時間程度で出来上がるというから、もうひとダンジョンもぐることにした。攻略し終わるのに2時間半かかって、返ってくる頃にはすっかり家が出来上がっていた。
家の出来栄えに感服して、外観に見惚れた後、内装の細かさにも息を飲む。
私たちの家はどこから見ても立派なものだった。
共有チェストに集めた宝を詰め込み、今日は解散となった。
夜が明けて、サーバーがメンテナンスに入る。正午にまた開くので、それに合わせて私はログインしようと思ってる。
お昼ご飯を早めに食べて、サーバーが開いたから接続する。
昨日ログアウトした私たちの家からスタートした。
今日は昨日とは別のダンジョンにもぐりたいと思ったから、昼間はダンジョン探しをしに冒険をする。
家をでて、まだ手付かずの土地を踏みしめる。
いくつかダンジョンを見つけたため、あとでみんなで来れるように座標をメモしておく。
そして帰宅する頃には夕方になっていた。
まだみんなで集合する時間より早かったため、拠点周りや初期地点を散策するべくもう一度家を出た。
「ああああああああ、どうしたらいいんだ!?」
道中、叫び声をあげてる人がいた。
奇妙に思い見つめると、ばちっと目が合った。
「あの、どうしたんですか…?」
つい、声をかけてしまった。
待ってましたと言わんばかりに相手の方が話し始める。
「実は僕、職業に《魔術師》を選んだんですよ。だけど、この職業はパーティを組まないと成り立たなくて、僕はこのサーバーに友人が一人もいないので困っていたんです!!!」
「そ、そうなんですか」
「そうなんですよ!それもこれも《魔術師》が有能職だっていうデマを信じたせいだー!」
「そんなデマが流れてるんですか?」
「そうなんです、たまたま職業選択のときに近くにいるひとが『《魔術師》は有能職だ』っていうから!ぼくはそれにしたんですよ!そしたらこのざま!かれこれ、3時間はパーティ探ししてるんですけど、コミュ障がたたって自分から話しかけに行けないんですよお!」
「なるほど」
「あの、実はパーティの人員募集してません…?」
「あー……その、大変いいにくいですが私も《魔術師》です……」
「え、あ!そうだったんですね…!お互い苦労しますね!」
「いや、わたしはもう拾ってくれたパーティがいるので…」
「仲間だと思ったのに裏切られた…!」
ガーンとショックを受け、膝から崩れ落ちる相手の面白さについふふふと息が漏れてしまう。
「よかったらうちのパーティきますか?」
「え?」
人数的にはあと一人余裕があったため、彼を誘う。
「でもさすがに《魔術師》はふたりもいらないんじゃ……」
「一緒に冒険したら楽しいですよ」
「うっ」
「仮入隊ってことで、《魔術師》を欲しているパーティがいたら移ればいいじゃないですか」
「そんなんでいいんですか…?」
「いいじゃないですか!好きにやりましょうよ」
「……じゃあ、よろしくお願いします!」
そういえば、挨拶がまだだったなと思い、口を開く。
「申し遅れました。わたし、Kといいます」
「僕はゆきとです!よろしくおねがいします!」
私は自分たちの家へと案内し、パーティのみんなが集まるのを待った。
「ダメだ」
即ぶった切ったのは兎月くんだった。
「おれはそいつの加入を認めない」
るりちゃんは頭を押さえてはぁーっとため息をついた。
「わたしは別にかまわないわ。現状に問題がないから、増えても別にねってかんじ」
「おれも問題ないっす!でも、兎月さんが反対なのはちょっと気になるっすね……」
ゆきとくんをみんなに紹介して、パーティに入れたい旨を話すと、三者三葉の答えが返ってきた。
「どうしてゆきとくんを入れちゃダメなの?」
「……魔術師は一人で十分だ」
「それはそうだけど……そんな合理的な話なら、仮入隊でもいいじゃない。分け前が減るとかそういう話なら、納得したけど……」
「……分け前が減るからダメ」
「そんなとってつけたようにいわれたら納得できない」
「るりがいったように、このパーティには現状問題ない。人員は必要な時に増やす」
「なら、それまでゆきとくんが一緒でもいいじゃん」
「ダメだ」
「なんで……」
「お荷物になるだけだ」
わたしのなかで黒い感情が芽生える。
ゆきとくんがお荷物で、わたしが荷物じゃない理由ってなに。
わたしとゆきとくんは同じ《魔術師》。
だったら、このパーティにいるのは私じゃなくていい。
ゆきとくんでも問題ないってこと。
「それが理由?」
「うん」
「そっか」
それなら、
「わたしパーティ抜ける」
「は?」
「いままでありがとう。昨日の分け前は全部いらないから三人で分けて。じゃあ、いこうゆきとくん」
ゆきとくんが驚いたように声をあげる。わたしは振り返らず、家を出ていった。
メニュー画面を開いて、パーティのメンバー一覧の横にある×ボタンを押す。
【あなたはパーティを離脱しました】
左下にメッセージが出る。
それをみつめる。
メッセージが消えていく。
けれど、私のお腹のなかでぐるぐるしているこのわだかまりはまだ消えない。
「Kさん!」
家からでてきたゆきとくんの声に振り返る。
「あの、すみません!ぼくのせいで……」
「ちがうの」
謝り始めたゆきとくんを制止する。
「これは私の問題だから……」
「そんな……」
落ち込む姿のゆきとくんの手を取り微笑みかける。
「だいじょうぶ!パーティには入れなかったけれど、わたしいい案が浮かんだんだよ」
「いい案ですか……」
「うん!」
元気に返事をした私に、ゆきとくんがうつむいていた顔をあげる。
ようやく目が合った彼に告げる。
「魔術師ギルドを作ろう!」
「あーあ、よかったの?二人で行かせて」
Kちゃんが出ていった扉を見つめる。
その端に移る窓から、Kちゃんが男の手を握ったのが見えた。
なんで、そんなことしているの。
どうしてKちゃんはいなくなったの。
「ほんと、男の嫉妬ってみにくいわね~」
「兎月さん……」
ふたりが何か言っているが何も聞こえない。
なにも。
見えてなかった。




