03
翌朝、SNSをひらいて昨日呟いた内容についたコメントを見る。
「新しいゲーム始めたんですね!がんばってください!」
「最近Kさんがいろいろなゲームをしてくれてうれしい」
「がんばって!マッチング出来たらうれしいな」
「よかったら、コーチングしましょうか?」
あれ、とアイコンを見たときデジャヴに目を見張る。そのひとのプロフィール欄を見に行ってみるとやっぱり見たことのある人だ。というより、昨日ゲームを始めたはいいもののボコボコにされてモチベーションが下がった私たちが「上手い人のプレイを見よう」って言ってつけた配信者の人だ。
私たちが入れたFPSゲームのプロゲーマー。
そんな人が、わたしのコメント欄にいる。
凄い世の中だなあ、こんなめぐりあわせもあるんだと驚きながら、
「よろしくお願いします!コーチング料いくらですか?」
と返信しておいた。
仕事から帰ってきてSNSを開くと、朝の私の返信にさらに返事が返ってきていて、「タダですよ笑」と書き込まれていた。
それからDMが一件来ており開いてみると、本当にコーチングを受けてみないかと例のプロゲーマーの方からのメールだった。例のプロゲーマーの方、名前は「兎月」さんというのだが、さすがにわたしは怪しんだ。
一体何のメリットがあって、わたしに話しかけてきたんだ。
しかし、渡りに船なのは間違いない。
わたしは、是非お願いしたいという旨を送った。
それから、友人も一緒にコーチングしてほしいことも。
「今日はよろしくお願いします~」
私のあいさつで通話が始まった。
今日はるりちゃんと一緒に、兎月さんからコーチングを受ける日だ。
「よろしくお願いします!」
「はい、よろしく。わるいけど、俺敬語苦手だからタメで話してもいい?」
「はい!全然かまいませんよ~」
「…Kちゃんもタメでいいよ。そのほうが俺も話しやすい」
「そう?じゃあわたしもタメで話すね」
「わたしも~」
「…じゃあ、さっそく練習しようか」
「うん!」
わたしは張り切っていた。銃が上手くなりたい、ゲームが上手くなりたい、と本当に思っていた。だってかっこいいから。
だから、分からないことは全部聞いた。
兎月さんは嫌がらずに全部答えてくれた。
初心者に丁寧に教えてくれて優しいひとだなあと思った。
「まず、キャラクターがいっぱいいて選べないんだよね…どれを使ったらいいのかわかんない…」
「Kさんがどんな戦い方をしたいかによるよ。キャラごとに立ち回りも役回りも変わってくるから、ひととおり遊んでみてから選ぶのが良いけど」
「はいはーい、わたし銃をいっぱい撃って活躍したい!」
「るりさんはげんきだね。とりあえず全キャラクターの特徴を言っていくから、良いなと思ったものは覚えていてね」
「どうやって敵陣地まで進めばいいの?」
「マップごとに立ち回りはかわるよ。優勢劣勢によってもね。だけど、強い立ち位置はあるから、覚えていこうね」
「うー…意外と覚えることいっぱいだ」
「大変だよ~!」
「だいじょうぶ。ゆっくりやっていこう」
3時間みっちり教えてもらって、だいぶ勝手がわかってきた。
「今日はそろっとお開きにしよう…!すっごく疲れた…!」
わたしが顔をおさえながら言うと、兎月さんがアハハと笑って、
「そうだね。今日はすごく頑張ったね」
「はー、集中してたから気づかなかったけど確かに疲れたわ。今日はもうおしまーい」
「兎月さん今日は本当にありがとう。勉強になった!」
「こちらこそ、初心を思い出していい刺激になったから」
「最後に言いたいことがあるんだけど」
「どうしたの?るりちゃん」
「兎月、あんたKちゃんのこと好きでしょ」
「え?」
「は」
「登録者60万の人気配信者がふつーうちらみたいな底辺相手にするはずないでしょって、最初はニセモノにKちゃんが騙されてるのかと思ったけど、今日来たのは本物だったし、なんか裏があると思って観察してれば、Kちゃんの質問のときだけやけにゆったりとはなすじゃない。いやにイケボだなって思ってピンと来たのよ。あ、Kちゃんのこと落とそうとしてるなって。てなわけで、Kちゃん気をつけなよ~男はみんなオオカミなんだから。じゃ、わたしは落ちるね、ばいばーい」
ぴろん、と音がなって、るりちゃんのアイコンが消える。
沈黙が流れた。
気まずい。
「…じゃあ、私もおちますね…」
わたしも通話を切ってしまおうと手をマウスに伸ばすと、
「待って」
と、声がかかった。
「おねがい」
「まって」
「ほんとうに」
「おねがい」
「ちがう」
「そうじゃなくて」
「きみのことはすきだけど」
「ファンとしてで」
「だから」
「おねがい」
「きらわないで」
パニックになってるであろう兎月さんが次々と言葉を重ねるが、なんていうか、重い。
けど、気持ち悪くはない。なんで?イケボだから?
とりあえず、
「恋愛感情はないってことですよね…?」
「・・・」
「ちょっと兎月さん!?」
「嘘は…いえない…」
「正直者!」
わたしは思わず笑ってしまった。だって、顔も知らない、本名もしらない、そんな相手に恋をするだなんて馬鹿な話、その渦中にわたしがいるもんだから。でも、この時代にはよくあることで、わたしにはちょっと不思議な感覚だけど、無下にするのは悪いなって思うほど、わたしもこの3時間でちょっと惹かれてた。
だから、
「お友達から、はじめませんか?」
兎月さんが泣きそうな声で返事をした。




