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あれから私は、私のやりたいようにわがまま勝手に動くようになった。今まで遠慮していたギミックも金持ちもやりたいって言って、大型犯罪にも積極的に関わるようになった。兎月くんに会いたくなったときは会いに行って、デートして満足したら帰ってくる。
そんな私を誰も咎めなかった。
むしろより一層可愛いがってくれて、私は「アストロノート」の末っ子的立ち位置になった。
もともとの性質は変わらなくて雑用やみんなが面倒がる違法薬物の採取と作成は率先してやった。
だんだん犯罪の勝手が分かってきて、サポートも上手くいくようになった。
「ファンタジア」の《魔術師協会》でも思ったけど、私は誰かを活躍させたり、輝かせるのが好きだ。
見つけた原石を磨いてピカピカにする作業が好き。
そして、私がやりたいようにやっていくと、みんな感謝してくれる。楽しかった、嬉しかった。そう言って、舞台に立ってくれた。
私は誇らしい気持ちになる。
ようやく私のやりたいことが見えてきた。
「Neon Underworld」の企画は終わり。
それでも、私たち「アストロノート」が終わることなく、企画後もコラボしてみんなでわいわいゲームを一緒に遊んだ。
私は企画中は中断していた歌ってみたを再開して、カラオケ配信も楽しんだ。
そんな、ある日一通のDMが届いた。
「本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
大手レーベル会社から連絡があった。是非会って話がしたいということだったので私は本社に伺い、そして2人の男性と対面した。
「私は桜井ともゆきといいます。普段はsakura39という名義でボカロ作曲活動をしています」
「私は彼の担当で、〇〇社の橋本と申します」
ともゆきさんの名義に聞き覚えがある。
「sakura39さん……さくらさくPさん!」
「そうです。知っててくださって嬉しいです」
「はい!もちろん知ってますよ。さくらさくPさんのボカロ曲を歌わせてもらってますから!」
「私もKさんの歌ってみたを全曲聞かせてもらいました」
「え、全曲!?」
「はい、その上でご提案があります」
「私と一緒にメジャーデビューする気はありませんか」
「メジャー…デビュー…?」
「はい。Kさんの歌い方、そして歌声がまさに私の理想ドンピシャなんです。私は曲の解釈の合う人を探していて、ここのこの歌い方はこうだろ、とかこういう風に歌ってほしかったなと思ったら即切り捨ててたんです。そんなだから、なかなか歌手が見つからず諦めかけてたところ、自分の曲を歌ってくれるアーティストの中から探すことをし始め、それでKさんを見つけたんです。Kさんが歌ってくれた『あの夜のむこうがわ』が完璧すぎて、一瞬自分は夢を見てるんじゃないかと思いました。でも、Kさんの他の歌ってみたを聴いて確信しました。
僕はあなたと一緒にデビューがしたい!」
ともゆきさんの言葉に私はたじろぐ。
そんなに理想とか夢とか言われるとよくわからないけど、要するに感性が似てる人を探していたということか。
もし、彼が本当に私を求めているのなら、私は彼を輝かせる手伝いをしたい。私の声で、私の感度で、彼の曲を盛り上げられるのなら、こんなに喜ばしいことはない。
でも、ひとつだけ引っかかってることがある。
「あの、この音源を聴いてほしいのですが…」
私はスマホをテーブルに置きイヤホンを橋本さんとともゆきさんにわたした。
2人がイヤホンをつけたのを見て音楽を流した。
この音源は『あの夜のむこうがわ』の非公開バージョンだ。公開したものはウィスパー多めにいれたのに対し、こちらは力強く歌ったもの。この曲の解釈として、どちらが良いのか最後まで悩んで投稿した。
「素晴らしい歌声ですね。『あの夜のむこうがわ』の新しい見方に見えます」
曲を聴き終わった橋本さんがそう言った。
そうなのだ。私のこの解釈はあまり大衆向けではなく、私は今公開しているものを自分の解釈としてあげた。
だけど、
「どちらもこの曲の解釈として間違ってないと私は思ってます」
そう言って、私がともゆきさんを見つめると、彼はくしゃっと顔を歪めた。
「…嬉しいです」
揺れる瞳を、彼は必死に拭いながら言葉を続けた。
「ちゃんと、俺の言葉は伝わってるんだ。届けたい人に届いているんだ。そう思えて、すごく嬉しい、です。よりいっそうあなたを手放せそうにない」
そう言った彼に笑いかける。
「手放す必要はないですよ」
「え…」
「私は影です。貴方という光が強ければ強いほど濃く広く伸びていく影です」
私は言った。
「私という"影響"を貴方の手で広げてくれませんか?」
ともゆきさんの瞳が再び滲み、涙をこぼしながら
「…はい!」
と返事をした。
「それってつまり…?」
状況を飲み込めてない橋本さんが小首を傾げ尋ねてくる。
「つまり、メジャーデビュー決定ということです!」
私とともゆきさんはハイタッチをして笑った。




