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待ち合わせ場所で、深呼吸する。
今日は「ストリーマー頂上決戦」の一日目。
会場に向かう前に、るりちゃんと会う約束をしていた。
服装を写真でとり互いに送り合ったため、姿を見ればわかる。
水色のコートを羽織った女性が近づいてくる。
「るりちゃん?」
「Kちゃん…だよね?」
「あ、声聞いたら安心した~るりちゃんだあ~!」
「ほんとだ……いつものKちゃんだ」
私たちは安心からたくさんハイタッチした。
「写真で見たけどKちゃんの服装かっこよすぎな」
「るりちゃんもイメージに違わずかわいい~」
私の服装は革ジャンに赤いシャツとジーンズをあわせたもの。
それに対して水色のコートを羽織り、中は白いワイシャツに濃い青のロングスカートをはいてる可愛いるりちゃん。
「ごうりゅうなう」
三人の連絡用チャットに打つ。
ついでにピースしたふたりの手が映ってる写真もあげておく。
そうして、会場まで移動した私たちはまずは物販に並んだ。
「るりちゃんは何買う?わたしはね、ペンラとTシャツを買うつもりだけど」
「いや、なにも買わないけど」
「え、そうなの?ペンラふって応援しないの?」
「わたしはあんたの付き添いっていうか心配症がよこしたボディガードみたいなものだから、そんなの買わないわよ」
「ええ……心配性って、兎月くんのこと?」
「なに、鈍感なふりはやめたわけ?」
「うん……兎月くんって、どうしてわたしだったんだろうね。本当は、依存できれば誰でも良かったのかな?」
「……」
「……」
「はあ……気になるなら、今度聞いてみたらいいじゃない」
「……聞いていいんだろうか、こんなこと」
「さあね。でも、あいつは思ってるほどやわじゃないわよ」
「そうかな……」
物販で買い物を済ませ、会場の中に入る。
関係者席に通され、私たちはパイプ椅子に座った。
会場の照明が暗くなる。
目の前の巨大スクリーンに映像が映し出され、今日のイベント参戦者の紹介が流れる。
そして、カウントダウンが始まり、会場にコールが響き渡る。
「3」
わたしも、ささやかながらそれに加わる。
「2」
兎月くん、見えてるかな。
「1」
会場にはこんなにきみのファンがいるよ。
「0」
どうして、わたしだったの。
「第1ゲームは!『ラグナロク・レジェンズ』!!それぞれのチームから参戦するのは……」
最初からFPSゲームが始まる。兎月くんの得意分野だ。
「Cチーム、あるまでろ、いっちゃん、とんとこ太郎、蝶花ひばな、兎月!」
手に汗握って対戦を見守った。
「はぁ~どきどきした。じぶんのことのように緊張したよ。結局、兎月くんだけじゃなくてチーム全体を応援しちゃった」
一日目の全日程が終了し、兎月くんのいるCチームは四位という戦績にとどまった。
「そう。楽しんだならよかった。じゃあ、さっさとホテルに行きましょ」
「あ、その前に兎月くんから『会いにきて』って連絡来たよ」
わたしがケータイを振りながらいうと、るりちゃんは顔を顰めたあと、自分のスマホを開いた。
「……はあ?私の方には来てないけど……」
るりちゃんの言葉にもう一度メッセージを確認する。
「え……個人メッセージだ、これ……」
「……いってらっしゃい」
「一人で行くの、わたし!?」
「あきらかにそうでしょ、ほら、ぼさっとしてないでさっさと歩く」
「ええ……」
わたしはスタッフの方に声をかけて、兎月くんの元へ案内してもらった。
通路をしばらく歩いた先に扉がいくつもあって、そのうちの一つの前に来た。
スタッフは「ごゆっくり」と言ったっきりいなくなってしまって、わたしはちょっと困惑しながらも扉をノックした。
「はい、どうぞ」
「し、しつれいします……」
わたしは静かに扉を開けて中に入った。
すると、
「Kちゃん…!」
と、男性に抱き着かれた。
知らない人じゃない、兎月くんだ。声でわかる。
「あ、そのごめん!生身のKちゃんをみたら、近づきたくなっちゃって。それで、近づいたら今度は抱きしめたくなっちゃった」
「そ、そっか……」
謎の理論に押し負け私は黙ってしまった。
「……今日は来てくれてありがとう。あんまり活躍できなかったのはちょっと悔しいかな。本当はKちゃんにかっこいいところ見せるつもりだったんだけど……」
その言葉に私はさっきの興奮の熱を思い出し、つい語りだしてしまう。
「そんなことない!やっぱり、他の人たちも上手かったけどそれがわかるのは兎月くんがコーチングしてくれたおかげだし、第二ラウンドの2タテはすごかった!もう、あの瞬間『うわああ』って心の中で叫んでた!」
「しょうた」
「へ?」
突然兎月くんが言った。
「おれのなまえ、しょうたって言うの。リアルであったときは『しょうた』って呼んで」
「そ、そっか」
「うん」
「え、えっと」
「うん」
「わたしは、あかねっていいます……」
「かわいい名前だね。Kちゃんにぴったり」
「ありがとう……」
ついつられて本名を名乗ってしまう。
「あかねちゃん、ありがとうね。ちゃんと俺をみててくれて。すごくうれしい」
「そんな、会場には兎月くんのファンがいっぱいいたよ。わたしじゃなくても、あなたをみてる人はたくさんいるよ」
しょうたくんが目を細める。
「それ、どういう意味」
「…わたしじゃなくても、しょうたくんを応援して支えたいって思ってる人はたくさんいるってこと」
「……あかねちゃんも、俺から離れていく気なの」
「ちがうよ。だけど、どうして私なんだろうって……声しか取り柄のない私の……」
わたしはじぶんののどに手を伸ばした。その手をしょうたくんがつかんだ。
「それのなにがいけないの?」
「え?」
わたしはしょうたくんの目を見た。しかし目線は合わず、彼はわたしの首をみていた。
「おれはあかねちゃんの声が好き。静かなのに熱を秘めてて、感情の起伏が激しいところ。笑い声も好きだよ。押し殺すように笑うよね。なんだかすごくかわいい。ひとの名前を呼ぶとき、ちょっとつまるときあるよね。もしかして、人を認識するの苦手?」
しょうたくんの手が私の首を撫でる。
「泣きそうなとき、一拍おいてから話し始めるよね。我慢するのよくないよ」
なんだろう。
「ちょっとおこったとき、こわいけど、でもゾクゾクする声音で話すよね。癖になりそう」
なんでだろう。
「はあ、ゆめにまでみたあかねちゃん。きれいな首、細くて白くて折れちゃいそう」
心臓がうるさくてよく聞こえない。
「ごめんね。おもいよね、きもちわるいよね。これでもちゃんと自覚してる」
顔が熱くてぼーっとする。
「だけど、逃がすつもりはなくて__」
しょうたくんの言葉が途切れる。
驚いたような顔と目が合う。
「あかねちゃん、なんでそんなに照れてるの…?」
「へ?」
わたし、わたしは、
「いや、熱があるのか?俺が変なこと言ったから知恵熱が出た?どうしよう、ひとよんでこないといけない?」
「ううん。ちがうの」
わたしたぶん、
「あなたに愛されて嬉しかったから」
ああ、ほんと。どうしよう。
「そんなに愛されてるなんて思ってなくて」
ようやく、
「実感したら『わたしも』っておもっちゃった」
無自覚を自覚したなんて馬鹿なことがあるのね。




