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わたしはまず、パーティの家を作ってくださった《建築士》のヤマモトさんに連絡を取った。
「魔術師ギルド…ねえ。おもしろそうじゃねえか」
「はい!それで、ヤマモトさんにそのギルドの拠点を作ってもらいたいなと思ってるんです」
「いいぜ、格安で作ってやる。そのかわり融通してくれよ」
「はい!もちろんです!お世話になります!」
三時間後には出来上がるとのことなので、わたしとゆきとくんは初期地点まわりを歩いて、ギルドの勧誘と宣伝を行うことにした。
初期地点まわりにはすでに数件の家が出来上がっていて、観光目的でわらわらとひとだまりができていた。そのなかに突撃して《魔術師》を探していると言うと、みんな珍しがって訳を聞いてくれる。そこでギルドの宣伝をして去っていくを繰り返し、そろそろ頃合いだろうとヤマモトさんのところに戻ってきた。
「あなぐら…?」
「ここにギルド拠点をつくったんですか?」
ヤマモトさんに案内された先にあったのは、山の側面についた扉だった。
不思議で首を傾げながら、扉の奥へ入るとそこは幻想的な空間だった。
たくさんの本棚、飛ぶ書物、淡く光る光源、熱帯魚が泳ぐ水槽。
素敵な光景に言葉を失っていると、ゆきとくんが興奮した声でヤマモトさんを褒めた。
「すごい!すごすぎます!こんなきれいな家をつくっていただけてめちゃくちゃ感動しました!」
「そうか?喜んでもらえたならよかった」
わたしは、何か言わなければと震えるくちで言葉を紡いだ。
「あの、こんな立派なギルドができるなんて思ってなくて…私、感動しすぎて言葉が出てこなくてですね…その、本当にありがとうございます」
ヤマモトさんは目をぱちくりした後、がははとわらって私の頭を撫でた。がしゃがしゃと慣れない手つきで励まそうとしてくれていた。
「そんなかしこまんなって!おれも作ってて楽しかったよ。あんたのギルド創設、応援してるぜ!」
わたしは滲む目をおさえて、
「はい!」
と返事した。
【《魔術師》募集中!魔術師の為の魔術師のギルド《魔術師協会》を設立しました!魔術に関すること何でもします:拠点座標×××、×××】
全体チャットで連絡して、私は夕飯を食べるために一度ログアウトすることにした。ゆきとくんはギルドの受付をしながら食べるようなので、彼に任せてサーバーとの接続を切った。
一時間後、再びサーバーへ接続するとそこには驚きの光景が待っていた。
ギルドの待合室は人がごった返しており、あちらこちらで会話が飛び交っていた。
予想以上の繁盛にひっくり返っていると、ゆきとくんが私をみつけて叫んだ。
「あ!Kさん、もといギルドマスター!」
「ギルドマスター!?」
ぎょっとして私が反芻すると、それまで喋ってた人たちが会話をやめて私の方をみて、
「この人がギルドマスター!」
「おれたちの救世主!」
「ありがとう!ほんとうにありがとう!」
とくちぐちに言う。わたしは大混乱して、
「なにがどういうことなのかちゃんと説明して!」
と叫んだ。
その瞬間、ドッと笑いに包まれた集団がちょっとだけ怖かった。
「『《魔術師》が有能職だ』ってデマに踊らされた人が結構いたみたいですよ。それで、パーティからあぶれてダンジョンに潜れなかったらしいです」
「そうだったんだ。でも、わたしがギルドマスターっていうのはなんの冗談?」
「ああ、それはダディってひとがいいだして『ギルド創設してくれたならギルドマスターじゃん』って、『みんなでギルドマスターを迎えようぜ』って……」
「絶対面白がってるでしょ…!」
「ははは、でもギルドマスターの肩書、僕はKさんに似合うと思うな。ひとりぼっちだった、ぼくをひろってくれたKさんにぴったり」
「そんな、大したことまだできてないのに……」
わたしは、いじけたように目を逸らして言う。
すると、ゆきとくんが私の手を取った。
「じゃあ、これからしようよ!」
「へ?」
わたしから変な声が出る。
「Kさんならきっとすごいこと成し遂げてくれるんだって僕は信じてる!だから、僕にそのお手伝いをさせてほしい」
真剣なゆきとくんの目をみつめる。
そして、私は微笑んだ。
「そう……ありがとう。私にできることがあるか分かんないけど、精一杯がんばってみるね」
ゆきとくんの手がはなれていく。
「それじゃあ、まずは……」
私はきを引き締めて声を張り上げる。
「言い出しっぺのダディとかいうやつ出てこいやーーー!!」
ギルド中に私の怒鳴り声が響いて、みんなから笑い声があがった。
わたしは、ヤマモトさんに連絡してギルドの増築と酒場の併設をお願いした。
こんなに人がいるなら、あつまってコミュニケーションを交わす場所が必要だと思った。それに、ログインしてもパーティへの派遣待ちで暇だという人に店員という役職を与えることもできる。
ギルドのメンバーには指示を出して、《農家》から肉や野菜、小麦などの食料と釣りで得られる魔術書や魔術が付与された道具、それ以外の人からはポーションの材料を買い取るように言って解散させた。この世界には酒が存在しない。だから、代替品としてポーションを商品として差し出す。ちょっと小細工すれば上手く売れるだろう。
皆が集めてきたものをギルドの所有物として私が費用を支払う。そのせいでわたしの所持金はほとんどゼロになってしまったけど仕方ない。これは必要経費。
酒場が完成したので、それの説明もする。
「手が空いてる人は積極的に店員をしてもらえると助かります。以上、酒場の説明でした」
みんなから、おーとかすげーとか聞こえてきて、良かったとほっとした気持ちになる。
「ギルドマスター!疑問なんですが、ここの酒場はギルドメンバー以外使っちゃダメなんですか?」
「ううん。全然使ってもらって構わないです。むしろ、積極的に外部の人を呼んできてほしい!だから、みんな宣伝よろしくお願いします」
積極的に質問してくれるのは嬉しい。それだけ意欲があるようにみえる。
「ギルドマスター!メニュー表見たんだけど、ドリンクの欄面白すぎじゃね!」
「そう思ってくれたなら良かった」
まわりの皆がなんだなんだとメニュー表をのぞき込む。
「ブラッティジュース…?」
「物騒すぎね?」
「ウミガメの恋」
「謎すぎね?」
「人魚の涙」
「儚すぎね?」
「儚すぎるはイミフ」
「え、そう?」
わたしは、ポーションの名前を自己流に改名させてしまったのだ。
頼むお客さんは最初は混乱するだろうが、だんだんガチャ感覚で楽しく飲むことができると思う。
「酒言葉としてフレーバーテキストも入れたから、例えば仲良くなりたい人にはベストフレンドってお酒を送って、そうじゃない人にはトラブルメーカーっていうお酒を渡す、そういう遊びもできます」
「おもろそうやね!」
「おれ早くやりたい!」
「おれも~」
「だったら、このサーバーにいる友達をここに呼んできてください!」
みんなが一斉に、外へ飛び出していった。わたしはゆきとくんと顔を合わせ、苦笑いをした。




