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私はわたしが嫌いだ。

この顔も、頭の悪さも、運動神経の無さも、全部嫌いだった。

だけど、唯一好きなところがある。


______この声だ。


透き通る、しかしトランペットのように迫力があり、女性にしては低い声。

幼稚園の頃、先生より私が子守唄をねだられた。中学の時、ネタ曲を全力で歌うだけで大爆笑が起きた。高校生では、恋人にラブソングを歌って泣かれた。


なにより自慢なこの声のおかげで、今日も私は生きている。


社会人になって多忙になり友達と遊ぶ時間が無くなった。ようやく落ち着いてきた頃には友達は新しい交友関係を築いていて、なにより、暇になったからすぐ遊べるってことができなくなったことが痛かった。相手の状況が分からない。お互いの時間を合わせなくちゃいけない。私の方ばかり必死に連絡とって、スケジュール合わせて、そんなことしていたら、さすがに疲れてしまって、自分から連絡するのをやめてしまった。

そうすると、わたしは急に生きる意味を失ってしまった。

人との繋がりだけが、わたしの生きる活力だった。

ずっと他人に依存して生きてきた。

そんな私にとって、友達が離れてしまったのは、あまりにも大きな損失だった。

職場から家に帰ってきて、ベッドでふて寝して、ケータイのSNSばかりながめて眠くなるのを待つ。空が白んできたころにようやく眠って、朝は急いで出勤する。

毎日、灰色の景色を眺めながらぼんやりと生きていた私に、ある日転機が訪れた。

SNSで流れてきた「歌ってみた」というものを初めて聞いた。

好きな曲だったからたまたまつけたら、知らない人が歌っていた。

とても上手でビブラートが綺麗な人だった。

わたしは、歌ってみたという文化に初めて触れて、驚き、ワクワクを感じた。

好きな曲を歌っていいんだ。

すきなように歌っていいんだ。

求められるままに歌ってきた私にとってそれは衝撃だった。

そして、自分の意志でやってみたいと思った。

批判されるかもとか、人気が出ないかもとか、そんなことは考えなかった。

ただ、画面の奥で楽しそうに歌っているその人に憧れた。

それだけだった。


さっそく歌ってみたを調べてみたけれど、機材がいろいろ必要だったり、音源が必要だったりして、大変に思った私はカラオケアプリで歌うことにした。これならケータイ一つでできるため、お手軽だった。

初めて歌った曲は「トリックスター」。アップテンポでキーの上下が激しい曲だが、かっこよくて大好きな曲だ。場を引っ掻き回して楽しむだけ楽しんで、後は全部放置の丸投げ、そんな人間の話。

録音した曲をアップロードする。

私はケータイにかじりついて再生数を見守った。

だって、だれかにきいてほしい。

わたしはここにいるんだって知ってほしい。

私の願いが届いたのか、再生数は徐々に増えていく。

コメントが一件届いた。

「すごくかっこいいです」

なみだが滲んだ。

そっか、わたしかっこいいんだ。

好きに歌っていいんだ。

生まれ変わったような気分だった。

乞われて歌ってきた。望まれて歌っていた。

そんな私が自分の意志で、思うがままに歌った歌。

それが評価されることのうれしさ。

わたしの目から静かに涙がこぼれた。

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