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文芸戦隊『リテラチャー』第1話「京の街がピンチだ。出動。文芸戦隊リテラチャーレッド」

 春の訪れと共に、桜の花びらが京都大学のキャンパスを彩る。新入生たちの目は希望に満ち、未来への期待で心は躍っていた。


 その中を身長165cmの痩せ型の男、結城響は自転車を漕いでいた。少年漫画のようなボサボサ髪、ヘロヘロの体躯。彼の手には哲学書が握られている。


「やはりカントは素晴らしい。純粋理性批判こそ、認識論の金字塔である」


 彼はそう呟きながら片手運転で本を読む。金などあるわけがない。比叡山の奥地、大文字焼きの舟形のさらに奥から自転車で2時間近くかけて通学しているのだ。『金があったら哲学書を買う』これが哲学者の基本である。


 左京区吉田本町の京都大学思想文化学哲学専修キャンパスへの道のりは遠い。道行くおばはんが「ちっ」と舌打ちしながら「よろしいお天気どすなぁ。お兄さんももっともっと勉強しなはれや」(意訳:曇天じゃねえか、道路工事でもしてろ)と優しい言葉をかける。


 結城響は幸せだった。「まだこの世にはこんなに知るべきことがある。認識すること、それこそが至上の喜びだ」


 結城響は壮絶な勉強オタクだった。もはやガリ勉という言葉すら足りない。量子力学から近代哲学、現代思想まで何もかも知ろうとする異常者である。


**********************


カーン・カーン


 響はようやく校舎に着いた。自転車を止め、汗を拭う。だが、校舎前正門入口で異変が起きていた。


 京大名物の立て看板の前に、全身タイツに怪しいお面を被った男たちが立ちはだかっていたのだ。ピチピチのモッコリタイツ姿で哲学問答を仕掛けてくる。


「君たちは自由意志を信じるか?それとも、すべては因果律に支配されていると思うか?」


 立て看板には「フィロソファイターズ」と書かれている。明らかに異常なコスプレである。


 新入生たちは戸惑いながらも、自らの考えを述べ始める。しかしフィロソファイターズは容赦なく彼らの論を反駁し、哲学的議論で追い詰めていく。キャンパスは知の戦場へと変わり果てていた。


そして、その背後から現れたのは巨大な怪人だった。


「ふははは!私がレポートマン様だ!京都大学の新入生諸君、我が軍門「Societas Perfecta」に下り、永遠に未完のレポートを書き続けるがいい!」


 レポートマンは両腕から無数の原稿用紙を放出し、学生たちを縛り上げていく。逃げ惑う学生たち。悲鳴が響く。


「くそっ、こんなときに……」


 響は自転車を投げ捨て、フィロソファイターズの包囲網に飛び込んだ。


「存在とは何か!存在の意味を説け!」


「価値の根拠を示せ!理由づけられない価値などない!」


 戦闘員たちが一斉に問いかけてくる。うう、わからん。すぐには答えられない。お前らそんな問いをされたら何コマ講義が要ると思っているんだ?


 もうこんなときには変身しかなかった。このままでは哲学変態の問いに負けてしまう。


「認識の限界を超えよ!この身に宿る理性の光を解放せよ!」


 響のベルトから光が溢れ出し、古代の甲冑が現れる。


「我は現象界に在りて物自体を問う!」


 甲冑が響の身体を覆い、マントが翻る。そしてその手に神器が現れる。


「理性よ!汝自身を批判せよ!神武変身!」


こうして響は、イマヌエル・カントの思想からインスパイアされた掛け声とともに、神武レッドへと変身した。


---


## 第1話-2「カント哲学で敵を撃破せよ!」(2997文字)


「バーチャル講堂!!!」


 神武レッドが叫ぶと、京都大学の入口がいきなり大講堂へと変化した。固有結界である。逃げられない。


「あーあー、席につけ。教育してやる。そこ、寝てるんじゃない」


 直径47cmの神武レッドのレッドチョークがフィロソファイターを襲った。


「存在についての問いに答えよう。だがその前に、カントはこう問うた。『我々は何を知りうるか』とな」


 神武レッドは黒板にチョークで図式を描き始める。


「認識は主観と客観の統合である。我々の感性が対象から刺激を受け、悟性がそれを概念によって統一する。これがカントの認識論の核心だ」


「感性の形式は時間と空間である。我々は時間と空間という枠組みを通してしか対象を認識できない。そして悟性のカテゴリー、因果律や実体性といった純粋概念によって、感性的直観を判断へと統合するのだ」


 フィロソファイターたちは驚き、そして次第に興味を示し始める。


「君たちが問うた『価値の根拠』についてだが、カントは実践理性批判においてこう答えた。道徳法則は理性的存在者の意志に内在する定言命法である、とな」


 神武レッドは更に続ける。


「『汝の意志の格率が常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ』これがカントの定言命法だ。価値の根拠は、理性的存在者としての我々の意志の自律にある」


 フィロソファイターたちは説得され、戦うことを止める。その瞬間、彼らは光に包まれ、元の学生たちの姿へと戻っていった。


「ありがとう、神武レッド!」


学生たちの歓声が響く。だが、戦いはまだ終わっていなかった。


********************


「ふははは!小賢しい理屈を!」


レポートマンが巨大な腕を振り上げ、神武レッドに襲いかかる。


バキッ


「痛い、殴ったな。親父にも殴られたことないのに」


 神武レッドは泣きながら腕をぐるぐる振り回してオタクパンチで反撃に出ようとする。だが当たるわけがない。哲学者はそんなに強くない。


「あれっ弱い」


 レポートマンは気の毒になってきた。弁は立つが暴力にはめちゃくちゃ弱いのだ。


 レポートマンが両手を突き出し、響に向けて恐ろしげなエネルギーを放出する。


「あれっそんなに強くない。物理で殴れば勝てるじゃん」


「永遠に書き続けろ!レポート・インフィニティ・プレッシャー!!!」


 巨大な原稿用紙の束が神武レッドに向かって迫る。


「くそっ、このままでは……」


 だが、神武レッドは立ち上がる。その目には揺るぎない決意が宿っていた。


「レポートマン、君に問おう。なぜ戦うのか、その目的を教えてほしい」


「目的だと?力にすがる貴様に答える必要などない!破壊と支配、それが我が目的だ!」


「破壊と支配で本当に満足できるのか?そこに真の目的はあるのか?」


 レポートマンは少し動揺し、沈黙する。神武レッドは哲学者の教えを引用しながら、更に追及する。


「カントはこう言った。『人間を単に手段としてのみならず、常に同時に目的として扱え』とな。君の行為は、学生たちを単なる手段として扱っている。それは理性的存在者としての尊厳を踏みにじる行為だ」


「黙れ!お前にはわからない!」


 レポートマンは怒り心頭に発し、神武レッドに突進してきた。


「ならば見せてやろう、カントの真髄を!」


 神武レッドは三種の神器を高く掲げる。


「第一批判!純粋理性批判の剣!」


「第二批判!実践理性批判の盾!」


「第三批判!判断力批判の槍!」


三つの神器が一つに融合し、巨大な光の刃となる。


「認識の限界を知り、道徳法則に従い、美と目的を見出す!これぞカント三批判融合!定言命法アタック!!!」


光の刃がレポートマンを貫く。


「ば、馬鹿な……理性の力が……こんなにも……」


レポートマンは崩れ落ち、光の粒子となって京都大学文学研究科 哲学研究室の生徒へ戻っていった。教授の差し金だ。


---


## 第1話-3「新たなる戦いの始まり」(1088文字)


 そんな中、京都大学文学研究科 哲学研究室で悪の組織たる「Societas Perfecta」の首領は歯ぎしりをしていた。


「やはり1話の怪人ごときでは世界制覇はならずか。おのれ、見ておれ神武レッド」


 そして素早くマントを翻すと自らの研究に向かった。科研費は哲学科だと少ないのだ。


***********************


 戦いは終わった。学生たちは解放され、キャンパスに平和が戻る。


 神武レッドは変身を解き、再び結城響の姿に戻る。


「ふう、疲れた……」


 響は自転車にまたがり、また比叡山への長い帰路につく。手には相変わらず哲学書が握られていた。


「だが、まだまだ学ぶべきことは多い。ヘーゲル、フッサール、ハイデガー……道は遠いな」


 夕日に照らされながら、響は坂道を漕いでいく。その背中には、明日への希望が宿っていた。


 かくして、文芸戦隊リテラチャーレッドの戦いは始まったのである。

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