01 結集する狼達ノ巻
※師の教えと狼少年の続編。
登場人物
警備予備兵
仙身 一馬(せみ かずま 30代 男)
21:59
その夜、僕は勤務する警備会社の事務所の机に座り、その日の業務を終える為の日報を書いていた。その事務所のクーラーは調子が悪く室内は緩い空間になってしまっていたが、どこか、その暑さに心地良い懐かしさを感じつつ日報を書き終え、タイムカードを切る間際に本社から無線が入る。
《プッシュ! 天草高等学園校内に不審者目撃の通報が入りました、直ちに急行出来ますかー》
僕は、正直面倒臭いと思うも、その月は、残業が余り無く、稼げてなかった事もあり、まあ良いかなと思い無線を受ける。
「仙身です、直ちに現場へ向かいます」
僕は業務用の小型バイクにまたがり、近道な古道を進路に選ぶ。
道の少し先をヘッドライトが丸く照らす、その道の左右に生い茂る草からは、虫達が鳴く音が聞こえて来る。僕は、その鳴き声が言葉として理解できたら、ただうるさいだけだろうな〜とか思いながらガタガタする道を駆け抜ける。
22:15
着いた場所は母校である高校の門の前、その学校の警備は僕の勤める支店の管轄だった。
そして通報者らしき人は見当たらなく、良くある悪戯の様な気もするも一応は確認する。別に腹も立たない、不審者がいてもいなくても、僕は勤務時間が伸びれば伸びるほど金になる、夜の散歩で金がもらえるのなら気分は上々である。
廻る所は、大まかに分けると三箇所。
まずは、グラウンドの外周を廻りプールを確認する。
異常無し。
次は、合鍵を使い体育館の中も確認する。
異常無し。
最後に、合鍵で校舎の中に入る、当然ながら学校の中は静まりかえり暗かった、でもライトは点けない、そのわけは、侵入者が無差別的敵意を持つ者の可能性も考えての事である。光りはそんな相手に自分の存在をいち早く先に知らせてしまう事になるからである。いわゆる待ち伏せを喰らってしまう。
薄暗い月の明かりのみが照らす校舎内を一階から順番に職員室、保健室、更衣室、各教室、地下のボイラー室、電源室を見て廻るその最中、少し学生の頃を思い出し、今の自分に少し不思議さを感じる、そして異常無し。
そして屋上へと向かう。
屋上から見上げた夜空は、月は雲に隠れているも満天の星空、そして此処も異常無しと思いきや、先の鉄柵の上に光る二つの目と目が合う、その口元には牙が生えて見える。
僕は思わず生唾を飲み込み思う。
『鬼』
僕は腰の拳銃に手を伸ばすも、会社から日頃、拳銃の使用は最終手段と言われいる事を思いだし、まずは警棒の柄に手をかけ、声をかける。
「何者だ!」
返答は無い。
僕は警棒を下段斜めに構え、瞬きをしない様に相手の動きに常に注意をはらう。
そして敵の脚が宙に浮くと同時に飛び込んで来る相手に向け警棒を横に打ち込むと敵に想定外の動きをされる、なんと敵が宙から両手を警棒の上に着き、飛び跳ね、僕の真横を回る様に抜けるその時と同時に僕は肩を後ろ脚での蹴りを喰らってしまう、僕は肩パットが割れる音と同時に蹴り飛ばされ転がる。
その反射神経は紛れも無く人では無い事を僕は悟り、僕は自分の会社が何かの撲滅隊の下請けなのではと?考える、そして蹴られた肩が痛み『痛えな、これ、やっぱし仕事だよな』と此処で頑張らなければ、僕が自身が滅っしてしまうと思い、気を引き締め直す。
そんな僕を敵は飛び移った鉄柵の上から僕の方を見て再び牙を剥く。
僕を立ち上がり今度はサーベルを抜き上段に構えると月にかかる雲が動き、月の光りが相手を照らす……
その正体を見てピンと持ってる情報が頭の中で繋がる、目の前にいるものは、親の代から島で有名な札付きのその名を猿空と呼ばれている猿だった、その猿はいくら退治しても町に降りて来て悪さをする、その姿はマントヒヒの様な白い立派な雄の大猿。
しかし鬼だと思っていたその正体が猿だった事に僕は少し安心する。
そして猿はそこから動こうとしない。
その顔は、遂に光り物を抜いた僕の事をあざ笑ってる様にも思える。
猿は熊や猪よりその見た目の可愛さの方がイメージとして先に立つが、その牙と爪は生身の人間には脅威であり、その場である学校に留まってばいけない事を教える必要がある。
僕は拳銃を猿の頭上の夜空に向けて撃つ。
パンと音が周囲に響く。
その対処は効き、猿は配管を伝い校庭に飛び降り、そのまま山の方へ戻って行く。
僕はホッとし任務完了の無線を本社に入れ、そのまま家に直帰する。
23:45
帰宅すると、高校の時の担任でもある妻が、まだ起きて帰りを待っていてくれた。
僕はレンチンした遅いご飯を食べながら、向かいに座る妻にその猿の話しをすると。
「へえ〜 よく怖くならないで向かったわね、君、あ、あなたも進歩してる、うんうん」
「そ、そうかな?」
「うん、最近顔も少し精悍になってきてるよ」
とニコリと僕を見る。
僕はそう言われ、今日の出来事を振り返る……確かに前の僕なら何より先にも、恐怖が先に立ち、ほぼ先輩に行ってもらうか、そのまま気づかぬふりをし帰る選択をすると思う。
でも今回は違った、無意識に得体の知れない相手に向かって行き、始めての実戦であるのに普通にサーベルを抜き対峙し、攻撃を受けても怯まずに冷静に対応していた。
苦手な動悸もしなかった。
これが大人になると言うと事なのか? それとも年齢による精神の鈍化か?
その答えは湯船に浸かり、痛む片肩を摩りながら考えるも、思いつかなかった。
風呂を出ると寝室の明かりはもう消えていた。
妻は僕がご飯を食べ終えた事で、その日の役目を終えた様にサッサと寝てしまっていた。
でも僕の枕元に赤色の丸い缶の塗り薬がソッと置いてあった。
僕は、その丸い缶を手に取り、その薬を肩に塗るとスーと、し、鼻にその清涼感を感じると、
ふと、
なにか、その缶の表面に映り込む赤い鬼の様な自分の顔を見て、
その顔が妻の言う通り少し精悍にも見え、
そのさまは、未来の自分がこちらを覗き込んでいるように思え、同時にその缶に長い縁を感じ、一抹の不安をおぼえる。
それに加え、その晩は珍しく、それも複数の狼の遠吠えが一晩中、何かの知らせの様に、まどろむ僕の耳元に聞こえていた……。
[終]




