第5話 モブキャラ扱い
「なあ、聞いたか!」
――校医のいない保健室でうとうとと昼寝していたオレ達の耳に、興奮した様子の生徒達の声が届いた。
「聞いた聞いた!『シャドウ』様がまた現れたんだってな!」
「たったの一人で極悪の組織をぶっ潰したらしいぞ!」
「ヒュー!でもそれ、何処から聞いたんだ?」
「俺の家の従者の親戚が、貧民街に住んでいるんだ。生でお姿を目撃したんだってさ!何でも、組織がため込んでいた裏金を貧民街に雨のようにばらまいて姿を消したらしい!」
「憧れるぜ……格好いいなあ!」
うーん。本当だったらあの夜は治安局の潜入調査官を助けて親玉を摘発させて、その後で親玉の背後にいる黒幕と戦うつもりだったんだ。まさか黒幕自らが親玉を処分しに来るとは思わなかった。
しかもその黒幕は、案の定……俺の異母兄弟の可能性が極大なのだ。
「格好よくあるには、覚悟が必要だな……」
オレ達が小さな声で呟くと、膝枕を貸してくれているユルルアちゃんが優しくて柔らかい手で慰めるように頭を撫でてくれた。
「私は命ある限り、テオドリック様に付いて参りますわ」
畜生、この世で一番良い女。
「君の覚悟、受け取った」
「そういや、聞いたか?あの噂」
「何の?」
「この世界に不満があるんだったら、世界を変える力をくれるんだってさ。何でも雨の日に貧民街のとある空き家で国歌を逆から歌うと、力をくれるヤツが現れるらしい」
「何だそりゃ?正体不明なヤツがタダでくれるモノって絶対にヤバいだろ……」
「だよなー。でもさ、あの不出来な皇子様とか、あの世界一のブス女とかやりそうじゃね?」
「ああ……確かにそうかもな。だって皇子様なんて歩けなくされちまってから、人生終わったも同然だからな……」
「皇太子殿下を庇って、『赤斧帝』に処刑されたんだっけ?」
「そうそう。本来は皇太子殿下が処されるはずだったらしい。両足の骨を折ってから、死ぬまで鞭打ちされるのを、その身を挺して庇ったんだとよ」
「ひえっ……『赤斧帝』って建国以来最悪の皇帝だと聞いてはいたけど、実の息子相手に……」
「酷いもんだよな……。一度は心臓が止まったんだって。だけど蘇生したらしい。でも……あんな有様なのに蘇生して良かったのかどうか……」
「そうだったのか。……だから皇太子殿下も、あの弟皇子を蔑ろに出来ないのか」
「名実ともに命の恩人だからな。今だって手紙を送ったり顔を見に行ったりしているんだそうだ。だがもう不出来な方が皇太子殿下に会いたくないらしい」
「そりゃ、無理もない。逆恨みしないだけで大したもんだ」
「ただ、もうすぐ皇太子殿下は即位なさるだろう?その時にも顔を出さない不義理は出来ないだろうさ。いくら何でも不敬にも程があるからな」
「難しい問題だなあ……」