第4話 暴君『赤斧帝』
「それで……あの件はどうなったのですか」
食後。クノハルが白湯を飲みながら切り出した。
「追いかけた先で親玉が何者かに殺された。問題は殺した相手だ。クノハルの予測通りに『精霊獣』を従えて連れていた」
オユアーヴがクワッと目を見開いた。
「……皇室の正統な血を強く濃く引く者にしか見えず、扱えないはずだと聞いていたが」
クノハルが忌々しそうに首を横に振る。
「言ったように、可能性としては『赤斧帝』だ。あの暴帝が即位してから15年間も侵略戦争が続いた。今の皇后様とて隣国トラセルチアの出身だろう」
『善良帝』の皇后ママエナ様は、元々、帝国の侵略を恐れた隣国トラセルチアが差し出した王族(※妾腹なので完全に生贄扱い)の人質だった。
オレ達の叔父に当たる今の皇帝『善良帝』(当時、独身で婚約者もなし)が不憫に思って世話している内に、懇ろな仲になっちゃったのだ。
叔父との間に、子供は二人いるけれど幼い姫ばかりだったのと、『赤斧帝』を始末するクーデターの際の盟約で、次の皇帝はオレ達の兄貴である皇太子で確定している。
兄貴がいよいよ二十歳になり、対外的にも立派な成人として認められたら、兄貴に譲位して一家全員でセイディーノの港街に引っ越すのだそうだ。
あの港街はトラセルチアとも海を挟んで近く、一年中、温暖な気候の海辺の街である。田舎だが景色も良いので余生を過ごすのにはぴったりだ。
権謀術数や腹芸が元々苦手で、家庭人としては最高の男だけれども政治家としてはちっとも優秀じゃない叔父は、兄貴の即位をまだかまだかと心待ちにしているし、ママエナ様でさえ『このまま帝国城にいたら娘達の性格まで歪むわ!』と叔父に何度も訴えている。
『もう身内で殺し合う王侯貴族なんて嫌!田舎で家族みんなで平和に暮らしたいのですわ!』
『私は家事も掃除も料理も一人で出来ますから、少しでも早く!お願いしますわ……!』
「『赤斧帝』が侵略した土地の女性に蛮行を働いていても、何もおかしくはありませんわね」
ユルルアちゃんが眉をひそめた。オレ達も頷く。
「あんな鬼畜が僕の血縁上の父親だなんて、うんざりするよ」