第3話 オレ達の仲間
「本当によろしいのですか。また発案を譲ってしまわれて」
クノハルは呆れた様子で、オレ達に意見すると言うよりは独りごちるように呟いた。
「だって僕が功績を挙げたら、ガン=カタを極める時間が無くなってしまうだろう」
「だからと言って『瓶詰保存食品』の思いつきを姫様がたにそれとなく伝えさせるなんて……。この前の衛生医療品だってそうでしたが、殿下が全部作ってしまえばよろしいのです。確かに姫様がたは優秀ですが、思いつきや着眼点においては殿下に負けていますよ」
クノハルは男装の若い女官僚だ。最上級官僚試験である殿試を首位で受かったのだけれど、この通り、相手が誰であろうとズケズケと意見しまくる性格の所為で疎まれた上に高貴なお方相手にやらかして、閑職であるオレ達の所に飛ばされてきたのだ。
オレ達にとっては有り難いブレーンで、ご意見番でもある。
「それでも、異母とは言え姉妹だから」
「毎回のことですが、本当に呆れました。そんな有様だから殿下はあちこちで悪く言われているのです!」
「おい、夕食が出来たぞ」
オレ達がやり合っている所に、宦官のオユアーヴがやって来た。
宦官と言っても皇帝から『従属の首輪』を賜っているから生殖能力だけが一時的に無い存在で、退職すれば男として復活できる。
このオユアーヴも元々は、皇室直属の最高の技術者や職人だけが集められる御印工房『インペリアル・ブラック』に所属する若手の職人だった。特に金属加工の腕前が素晴らしくて、彼が作った剣や武具は今でも皇族や大貴族のお気に入りである。
が、何せ本人に協調性が皆無で、制作に一度こだわり出すと期日や予算をガン無視して熱中する所があり、それを咎めた上司を『邪魔するな』とぶん殴った所為で工房をクビになって、無理矢理に宦官にされてオレ達の所まですっ飛ばされたのだ。
金属加工だけでなく指先が器用で料理も得意なので、とても助かっている。
「良いのよ、クノハル。テオ様にご不満が無いのだし、実現のための人脈や開発のための予算はあちらの方にあるのだから。それにあまり求めると、『皇子テオドリック』が目を付けられてしまうもの。さあ、みんなで夕餉を頂きましょう?」
にっこりと優美に典雅に微笑んで、オレ達の婚約者ユルルアちゃんがオレ達の車椅子を押してくれた。
この『黒葉宮』では包帯や仮面を付けていないから、美の女神アロディカ様が具現したような美貌が丸見えである。
残り2人と一体、オレ達の仲間はいるが、今ここにいるのはこの3人だけだ。
「この揚げ物、美味しいな。どうやって作った?」
揚げたての野菜の天ぷらをかじって、オレ達は感動した。この『天ぷら』もオレ達が考案した料理である。今では異母姉の一人が開発したって事になっているが。
オレ達は4人で小さな食卓を囲む。
ここ以外なら身分差がありすぎて、あり得ない光景である。しかしここにはオレ達しかいないので、やかましく咎める者はいない。
「衣を付ける時に、粉を混ぜすぎず、冷水で軽く溶いてさっと絡めた」
「だからこんなにサクサクしているのか」
オレ達は感心した。モノの制作に関してとことん極めようとするオユアーヴの努力と探究心には恐れ入る。
「……」
黙ってこそいるが、クノハルも満足げに頬張っていた。
「オユアーヴの料理、いつだって美味しいけれど、それには努力と工夫があるのよね」
ユルルアちゃんが褒めると、ちょっとオユアーヴは自慢そうな顔をした。