第20話 それは蜂蜜のように甘く、涙のように苦く、祈りのように切ない①
ロウは異変にすぐに気付いた。
いつもならば彼が遊郭に行くのを『また金欠になっちまうんですぜー、おいら待たされるの嫌なんですぜー』とブーブーと文句を垂れては渋るゲイブンなのに、
「今日は『フェイタル・キッス』に行かねえんですか?」
「じゃあ明日は行くんですよね?」
「だったら明後日……」
「明明後日こそ!」
「じゃあ来週!」
「だったら再来週!」
おまけに、隙あらば椅子に座り込んで、いかにも物憂げなため息ばかりこぼすようになった。
……これで気付かない方がロウからすればどうかしていると思うくらいに、あからさまだったのだ。
「何だ、好きな娼婦でも出来たのか?」
『きゃーっ!?ついにゲイブンが恋をしたの!?パーシーバーちゃん応援しちゃうわよー!誰々、相手は誰なのー!?早く言いなさいよ!早く早く早くぅー!』
踊るように飛び回り、ここぞとばかりにはしゃぎ出すパーシーバーの様子がロウにしか分からなかったのは幸いだった。
「……ロウさん―、フェーアさんって好きな人いるんですかねえ?」
『……っ』
途端にお喋りな精霊獣が動きを止めて、黙り込んだ。
ロウは椅子に腰掛けて、少し黙って考えてから言った。
「……1000万だぞ」
「へ?」
ゲイブンはポカーンとした顔をする。
「フェーアの抱えている借金の総額だ」
「いっ、1000万!!!?」
ゲイブンの目がまん丸に見開かれた。
「ちなみに、これでも利息は抜いての話だ。現実は『フェイタル・キッス』で娼婦として働ける年の限度まで働いても返済は厳しいだろう」
「なっ、あっ」
「いくら売れっ子だろうと、すぐに家族が借金を繰り返すからな」
「どうして、」
「ゲイブンは理解できないだろうな、話を聞く限りお前の家族はまともだったらしいから。
――まともに見えて実はまともではない人間の『悪意』や『毒』と言う代物と、それが繊細で優しい人間の心をどれほどに殺すかを」




