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人国 女達の逆襲

 私が、第一王女との会談でコレット様に提案したのは、お化粧品を使い、美しくなってほしい、ということだった。


「コレット様は、顔立ちも整っておられますし、目にも知性と気品があって、とてもお美しいと思います。それに気付かない第一王子の目は絶対に節穴ですって!」

「私が、美しいなんて……。そんなことを言われたのは初めてだわ」

「王妃として相応しい教養を持ったレディに華やかさが加われば完璧。

 誰もが息を呑む淑女にお成りだと思います。御実家の使用人などをお連れになっても構いませんので、アインツ商会の新商品モニター……使用体験とお化粧品の使い方講座に御参加下さるおつもりはありませんか?

 まだ試作品ではありますが、我が商会の粋を集めた新商品で、コレット様のお美しさを絶対に引き立てて御覧に入れます」


 そう力説した私の勢いに呑まれたのか。それとも『美しくなれる』という誘い文句が気になって下さったのか? とにかくその翌日。コレット様はわざわざアインツ商会の本店にまで足をお運び下さり、新商品のモニターを買って出て下さった。新商品が気になるから、とソフィア様だけでなく、フェレイラ様やアルティナ様までおいでになったのは誤算で、商会長や店の者達を驚かせてしまったけれど。


「これが、アインツ商会の新商品?」

「はい。基本は今までの白粉と変わりはありませんが中に雲母の他、それぞれの方の肌色に合わせて、宝石を研磨して出た残りの粉を混ぜ込んであるんです。

 髪の色や肌の色、皆、一律で同じではない適した色を使って頂く為の」


 私は用意しておいた白粉の粉をテーブルに並べる。

 小さめの木皿に入れて並べたのはアインツ商会の看板ともいえる商品の一つ、白粉だ。

 でもただの白粉じゃない。ひと工夫してある。


「宝石の粉? そう言えば確かに薄い色が混ざっているようね。こっちは赤味が強くて、こちらは蒼い印象?」

「はい。紅玉や蒼玉、真珠の粉末を混ぜ込んであるんです」

「宝石の粉を?」

「はい。特に念入りに微細粉末化しているのであまり固さとかはないと思います」


 人体実験は自分の身体でしてある。

 日中、一日付けていたとしても肌や体調に悪影響は出なかった。

 向こうの世界でもあった商品だしね。


「肌の色や髪の色によって、似合う色も違ってくるんです。

 コレット様は王子をお助けする未来の王子妃というお立場から、控えめな色を選ばれることが多いようですが、髪の色ミディアムブラウンでも明るい印象ですし、肌の色も黄味を帯びていて爽やかな色合いですから、もっと可愛らしい服などを選んだ方がお似合いになると思うんです。お嫌いですか?」

「嫌い、ではないですけれど、宰相家では、特に女性は己の知力で王家の方々を支えることを重視するように言われて育ちましたので、服やおしゃれなどにあまり知見が無くって……」


 う~ん。女性が子を産む道具、政治やその他に関わる事ができない中世異世界において女性に高い教育を与える教育方針は間違ってないと思うけど、この場合、裏目に出た気がするぞ。外見を褒められることが無く育ったから、コレット様は自分のいい所を出せないでいるのだ。

 向こうの世界でよく耳にしたイエベ、ブルべという言葉をコレットに当てはめるとしたら多分、イエベ。季節分けでいうなら、春のような気がする。私も専門じゃないから詳しくは言えないけど。

 地味だと言われて金髪や銀髪当たり前の中世ヨーロッパ風異世界では隅っこに押しやられていたかもしれないけれど、きっともっと明るい、可愛らしい色がお似合い。今まで、大人っぽく地味な方が、可愛らしい印象で攻めればイメージチェンジにもなるし。


「騙されたと思って、少しだけ、私に任せて下さいませんか?」

「解りました。よろしくお願いします」


 子どもの言う事と嗤うことなく、真摯に頷いて下さったコレット様に、私はとりあえず簡単なパーソナルカラー診断と、それに合わせた簡単な衣装設定、メイクなどを行って見せた。


「白粉は薄めに。あんまり濃くし過ぎると若々しさを隠してしまいますから、口紅もピンクの明るい色素のものを使ってみるといいと思います」


 向こうの世界と違って、まだ白粉、口紅、化粧品そのものが貴重だから、自分に合った色を選ぶということそのものが贅沢だけれど、宰相家だからお金持ちだし、試作品でもいい、と信用して下さったのだから、応えたい。

 第一王子へのざまぁの為なら、私がちょっと自腹を切ってもいいしね。


「髪の毛は貴族のパーティでのマナーや決まりなどが無ければ、髪を高めに結ったあと、ふんわりと耳の前に少し髪の毛を流すように垂らすと、可愛らしい印象になるかもしれないです」


 あくまで私は美容系の専門家ではないけれど、仕事がら、髪結いとか、編み込みは少し勉強したし、自分が美人ではないことを自覚していたから少しでも良く見えるように化粧の勉強や実践もした。

 皆が同じように頑張っている現代世界では、あまり成果も出なかったけれど、こっちの世界でだったら、今だったらかなり差別化ができる筈。私の分まで、頑張っている人には報われて欲しい。その為に、ミアの時にはやる気にならなかった向こうでの知識、記憶の全てを出してコレット様の魅力をプロデュースした。


 結果、明るめ、軽めベースで、可愛らしい印象を重視して整えたコレット様のコーデは今までのキャリアウーマン風の印象を一変させて、キュートなレディ位に変えた。


「これ、私の顔ですか?」


 ご本人もびっくり。でも、顔をいじくった訳ではない。元々、可愛らしくて優しい顔立ちだったのだ。これなら明るめのドレスを着れば相手が銀髪美形の王子であろうと、愛らしいお姫様。自慢の王子妃として十二分に民の心を惹きつけられると思う。


「私は、前の貴女も悪いとは思っていませんが、確かに別人のように可愛らしい出来になったわね」

「女性の美しさを引き立てより輝かせる、というのがアインツ商会の化粧品の売りですけれど、本当にそれだけの力が化粧にはあるのですね? 驚きました」

「兄上は、人に自分の上に立たれることを嫌いますから、女も幼く可愛らしい、自分の言う事を聞く少女を好む傾向があります。コレット様は、仕事に必要だから妻にするが愛さない、なんて言っていましたけれど、この容姿でしかも、完璧な王妃教育をされた女性となればまた見方や態度も変わるのでは?」

「うっわ。そんな酷い事言ってたんですか? あの王子」


 一介の商人が王子呼ばわりは失礼だと思うけれど、思わず出ちゃった本音。

 女性をなんだと思ってるんだ。


「コレット、自信と決心はつきましたか?」

「はい。フェレイラ様。私は、きっと変わりたかったのです。

 今なら、変われると思います」

「そう。なら、行けるわね」


 憤る私に、事の顛末を見守っていたフェレイラは、コレット様にそう頷くと私の方を向き、強い口調で告げる。聖女と言うより、非道理に怯まぬ悪役令嬢の眼差しで。


「セイラ。貴女とアインツ商会の実力、この目で確かめました。

 同盟を組みましょう。私は、いえ、私達は貴方達を支援し、その後ろ盾になります。

 決して脅しや強引な手段で取り込みに入ることなく、むしろその弱みに付け込む者からできる限りに守りましょう。対価も正当に支払います。

 だから、貴女達も私達に力を貸して下さい。

 これは、今まで虐げられてきた女達の逆襲。

 主目的は第一王子を退けること。国を割り、国力を喰らう戦を今回は事前に食い止めようと思います」

「解りました。その方向でよろしくお願いします」


「申し訳ありませんが、私達はもう脅しには屈しません。意味も無いですよ」

「……モブの癖に、生意気な……」


 悔し気に唇を噛みしめるミアを、私は同じ高さの視線で、そう見下ろした。


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