人国 第一王女との会談 7
私にとって今、一番大事なのはアインツ商会と魔国のみんなを守る事。
その為には、ここで彼女達を味方につけることが重要だ。
「まず、第一に申し上げますが、第一王子の魔国侵攻は失敗します。
ですから第一王子の失脚だけを望むのであれば、黙って待っていればいいんです」
「何故、そう言い切れるの? 魔国は地下の獣の国。
両国を繋ぐ道が無い故に国交も無いけれど、攻める事ができれば負けることはない、と昔から、と言われているわ」
「そうであるのなら、今まで幾度か行われた侵攻が、悉く失敗、とまではいかなくても成功していないのは何故でしょう?」
「え? ……それは……」
「私がアカデミアで学んだ歴史によると、人国と魔国を繋いでいた門が閉ざされて後、数百年、少なくとも三度、もしくはそれ以上の回数、魔国への侵攻を行ったとあります。
いずれも、侵攻のさなか、両国を繋ぐ次元の扉が閉じた為に勝利はしたが成果を得ることができなかったと、とされているようです。ですが、ごく僅かの捕虜を除いて人国は魔国から何も得ることができていませんよね。勝利した、というにはあまりにもお粗末な結果ではないでしょうか?」
「セイラ。それはあまりにも乱暴な物言いでは無くって? まるで、人国が魔国に敗北したみたいに」
「はい。私は事実上、人国は三度の侵攻全てに敗北、もしくはそれに近い形となり撤退を余儀なくされたと考えています。違いますか?
国民には隠ぺいしても王家には、結果が残されていると思うのですけれど」
ソフィア様は貴族らしく反論するけれど、第一王女、第二王女共に俯き顔。コレット様まで下を向いているのは、多分、そういうことなのだろう。
「アインツ商会では数名の魔国人が保護され働いておりますが、彼らの多くは、人国の民には無い特別な力を有しております。個々の戦闘力で言うのなら多分、魔国の方が上なんじゃないでしょうか?」
「そこまで言う?」
「事実なので。アインツ商会は奴隷売買に直接関与していませんが、魔国の民を捕らえて子などを売買している組織もあるようです。貴族にも幾人か、護衛や使用人に魔国の民を従属契約込みで使っている方、いらっしゃいますよね?」
「それは……いるけれど……」
「父が言うには、魔国の民の方が、同じ年齢の人よりも圧倒的に高いのだそうです。アインツ商会の魔国人を買い取りたいという話もあって憤っていたのですが、それは魔国の民が特殊能力を持っているから、なのではないでしょうか?」
「それは、そうね。気配を察するのが得意、カンが良い、と言って警備などに使っている貴族は偶に見かけるわ」
「魔国、と言われるように国ですから、そんな能力者達が集まって、襲撃者を迎え撃てば、地理なども定かではない異国に攻め入った人国の軍は、いかに強くても真価を発揮できないと思います」
お義父様は私に
「人国の竜骨を崩して見せよ」
とおっしゃった。
竜骨とは、向こうとこちらの意味が同じなら船の中央を支える骨の事。
これが壊れると舩はバラバラになってしまう。
つまり、人国の柱である王家を崩して、内部分裂を誘導してみせろ、ということ。
「それに、実はここだけの話ですが、今回の侵攻は第一王子の独断であり、第二王子、第三王子は協力する様に見せかけて、留守を見計らい王宮を制圧しようという動きもあるようです」
「それは……」
「本当なの?」
「我々は商人ですので。武器や食料品などの流通がここ数か月で活発になっております。
第一王子の軍に、一番多く流れているのは当然なのですが、密かに第二王子、第三王子の元や、お二人の祖国にも兵糧やその他が集められているようです」
これは、実はハッタリ。
第二王子、第三王子が第一王子の留守中にクーデターを企てていることは、第四王子様が教えてくれた事実だけれど、それを今、いう訳にはいかない。
だから、商人として掴んだ情報、ということにしておく。
「ただでさえ、簡単に勝てない相手に、内憂の敵までいる状態では、勝てる戦も勝てないと思うのですが如何でしょうか?」
人国の強みは人数の多さと管理に尽きると言っていい。
様々なクラスを持った人材が魔国の数倍から数十倍いて、王家の管理の元にそのクラスに合った職務を与えられている。その統一された数と力こそがパワーなのだ。
人国の民のクラスについては、作者でも全て把握はしていない。
さっきのフェレイラ様のように、特殊なスキルを持っている人もいるかもしれないし、魔国の民の特殊能力に近い事ができる人も、多分いる。
彼らが一糸乱れず人海戦術的に襲って来れば、アリとライオンの例えは悪いけれど、魔国も深い傷を負う。人国にも犠牲が出る。
だから、人国の内部分裂を図り、戦争そのものを起こさせないようにするのが一番なのだ。
ついでに戦争が起きなければ、あれだけ気勢を上げ大金を使い、整えた軍備も無駄になり第一王子の面目丸つぶれ。ミアも後見を失い、地に墜ちる。
個人的に、私は第一王子には絶対に痛い目を見せると決めている。本来なら死ぬ必要の無かった命を、気まぐれで奪った罪は万死に値する。
一石二鳥なんか狙わない。一石三鳥。それ以上。
「フェレイラ様は、第五王子を擁しておいでなのですよね? 先ほどのお話から察するにフェレイラ様を支えて下さった元聖女様の忘れ形見。
神殿と『聖女』の御力で、教育と守護を担っておいでと伺っております。
まだ幼少であらせられ、次期王太子は難しくても、うまく立ち回れば安全と今後は担保されると思うのです」
「貴女、一体何者? どうしてそこまでの情報を持って、そこまでの事が言えるの?」
「義父の教育と、引き立て。あと、もしかしたらクラスのおかげかもしれません。子どもらしくないとよく言われますので」
「アインツ商会は凄いのね。廃棄児にここまでの教育を与え、商売への口出しも許すなんて」
「はい、心から尊敬し、感謝しております」
私が言ってる義父とはこの場合、魔国のお義父様だけれどあえて否定はしない。ヴィクトール様も私に権限を与えてくれているという意味では凄いと言えるし。
「アルティナ。貴女の気持ちが少し解ったわ」
「フェレイラ様?」
聖女として、穏やかで柔らかな物腰に見えたフェレイラ様の気配が、急に変わった気がした。面倒でやっかいなお貴族様の雰囲気に。
「本気で貴女とアインツ商会が欲しくなったの。それで? 貴方達の情報と、協力を手に入れる為にはどうすればいいの? 何を支払えばいいのかしら?」
でも、負けない。
ここで足がかりを作り、人国王宮の奥に切り込むのだ。
「一番は、私とアインツ商会の秘密の沈黙です。それから、皆様方と友諠を賜りたく」
「それでいいの? 元々、貴方達を引き込むのが目的だった私達としてはありがたいことだけれど?」
「アインツ商会は、まだまだ新参の商会です。商品の良さは認めて頂けていても人脈はまだまだです。私がアカデミアに送られたのも、縁を繋ぐ為。
首に紐を付けられ、子飼いにされるのは望まぬところですが、引き立てて頂けるのであれば喜んで。学園では縁の繋げぬ第二、第三王子などにご紹介頂ければお役に立てることも多いかと存じます」
「商品を回して貰える?
「ご注文を頂ければ可能な限り。新商品などもお試し頂ければ嬉しく思います」
「アインツ商会の新商品? 試させて貰えるの?」
皆さんが目を輝かせる中、一人、引いた様子の令嬢がいる。
私は頷きながら、声をかけた。コレット様に向けて。
「はい。特に、コレット様にぜひ」
「え? 私?」
瞬きするコレット様と、方々に微笑んで頷いて見せた。
前世の記憶と共に。




