人国 第一王女との会談 6
湖畔の館での女子会は思いもかけない様相を呈してきた。
何せ一番の議題として提示されたのが
『第一王子の失脚』だからね。
「私が口を挟む事ではないのですが、本当によろしいのですか?
『第一王子の失脚』を目的、などと第一王女自らが口に出されて」
「構いません。私はあの子が嫌いなのです。ええ。本当に心の底から」
私の問いかけに場を仕切る第一王女フェレイラ様は、はっきりとそう断言した。
「エルンクルスの罪では無いと解っていますが、基本的に女性に王位継承権の無いフォイエルシュタインで、第一王女。しかも王族ではなく『聖女』として生まれた私と、第一王子であるあの子が、どれほど区別、いえ差別され育てられていたか解りますか?
あの子の生誕までは、一応王女として城で育てられていた私は、五歳を機に神殿に預けられるという形で捨てられました。私は神殿で規律に縛られた辛い日々を送り、あの子は王宮で我儘三昧。恨んでも仕方ないでしょう?」
「まあ、それは、確かに……」
フェレイラ王女はそれ以上愚痴らなかったけれど、実はもっと根は深いというのを、調査したヴィクトール様が教えてくれた。
第一王子と第一王女の母親は姉妹で王に嫁いだ。第一王女を産んだ王妃様が嫁いで数年子どもを産まななかった為だって。元々、美しさと気品に関しては言う事が無かったけれど王妃の政治力や能力的には今一だった王妃様をサポートする、という形で第二王女の母上が嫁がれた。そしてほぼ直ぐに妊娠、第一王女を産んだ。
国は王家の第一子に沸き上がり、次は世継ぎの王子をと待ち望んだが第二子を側妃様が産むことは無く、国王はさらに側室を増やしていった。五年後第一王子エルンクルスが生まれた時は国中がお祭り騒ぎ。
その騒ぎの中、母親にさえ見限られ神殿に捨てられた、と思っている第一王女が弟に複雑な思いを抱いても仕方ないだろう。第一王子生誕から数年で側室に第二、第三王子が生まれ王家は安泰と安堵された。その後で生まれたのが第二王女アルティナ様だったけれど、第一王子を産んだ後、体調を崩した正妃様は寝たり起きたりを繰り返した。我が子の育成も側妃様と国王陛下のお母上に取られていたんだって。自分の立場を取り戻す為に無理をして二人目を願い、妊娠したものの出産後命を落とされた。
正妃様の命と引き換えに生まれたようなものだから国全体から見れば忌み子のように扱われたという。
「姉上はまだ、神殿に居場所があったから良いのです。母の命を奪って生まれた私は、本当に王宮に居場所がありませんでした。お祖母様も、お義母様も兄上を慈しみ、私の事など気にも留めず、私はほぼ乳母にのみ育てられたのですよ」
第一王女よりもどうやら、より深い恨みを持っているのは第二王女のようだ。
兄は、幸い『母の命を奪った』ではなく『母の忘れ形見』として第二王女を邪険にするようなことは無かったらしいけれど、国中、城中の寵愛を受けてわがまま放題に育った兄とほぼいない者として育てられた妹。
泥沼の予感しかない。
「母上とお祖母様がそれはもう甘やかして育てたので、エルンクルスは学園に入るだけの基礎学問をなかなか身に付けられませんでした。未熟なあの子をサポートする婚約者としてつけられたのがコレットです。彼女は教育の足りないエルンクルスを辛抱強く支え続けました。コレットがいたからエルンクルスはアカデミアを卒業することができたのです。
エルンクルスの学園での評価は上の下、優秀な弟達が育ってきてからは、少し危機感を抱き、学び始めたようですがそれでも『やや第一王子としては物足りない』という評価のままでしたね」
コレット様は何も言わず、顔を伏せたままだ。
「……失礼ながら、コレット様はこの場におられるということは、第一王子との婚約破棄をお望みなのですか?」
「私は、ただ、父と国王陛下の望むままに、エルンクルス様に仕えるように、次期国王の傍らに立つ者として、相応しく有れ、と、それだけの為に生きてきました。今も他の事に対しては正直、何も考えられません」
「コレットは、次期王妃として申し分のない素質と知識を身に着けています。ですが、見ての通り、外見に関しては若干、華に欠けると言われれば、その通りではあるのよ。
だから、せめて力になってあげたくてここに呼んだの」
「兄上は、多分コレット様を手放すことはしないと思います。でも、女性として愛するかどうかは解りませんね。既に今の時点でも幾人かの女性と浮名を流していますし。ミアは妻とするにはまだ、あまりにも幼いですけど」
私と同じ十歳だからね。将来的には多分、相当に美しくなるだろうけれど。エルンクルス王子は間違いなくミアのことは遊び、もしくは便利な道具としてしか思っていない。
でも『聖女として人に好かれる力』などがあって、向こうの知識を持つミアが本気で堕としにかかれば、ひっかかる可能性は高いだろうな。
そうなるとあまりにもコレット様が気の毒だ。
「正妃 エスメラルダ様は、元々地味な容姿を持つ私の事をあまり好んではおられないようなのです。王妃には知性と同様に美も必要だ、王子に相応しくない、と幾度も言われました」
「前正妃 ディアーナ様は、輝くような銀髪に蒼い瞳。正しく星の女神の様に美しい方でした。エルンクルスはディアーナ様の容姿をそのまま受け継いだと寵愛されているのです。元々、母は私の外見が煌びやかに生まれたことを喜んでくれましたが、どれほど学業を修めても聖女として、成果を上げても一度として褒めてくれたことはありませんでした」
アルティナ様は金髪碧眼、フェレイラ様は銀髪にエメラルドの瞳。姉妹で従兄妹でも印象がだいぶ違う。この世界はあまり遺伝とかって関係ないのかな?
でも、女性として虐げられてきて、自分がやられて嫌だったことを解ってるだろうに、どうして娘にも同じことを繰り返すんだろ。いつの世も毒親っていうのはいるものなんだね。
「ただ、エルンクルスの出来の悪さに父王もいつまでも甘い顔はできなくなったようで、数年前王太后、お祖母様が亡くなられてからは、次代王太子は実力によって決める、と宣言なさいました。
それによって、第二、第三王子にも王位継承の可能性が生まれたと、王宮はそれぞれの王子を擁立する派閥が成果を競っています。
国内最高位の貴族、侯爵と宰相の後押しがあるとはいえ、優秀かつ自国の血を引く者を宗主国の長に、と願う属国の期待を背負う第二、第三王子を擁する派閥に力負けするエルンクルスは、魔国侵攻、制圧と言う博打に出たのだと思います」
「では、魔国侵攻が失敗すれば、エルンクルス王子は失脚するのでは?」
「そうですね。ですが、今回は『神の娘』が共にいて知識を授けているのです。
相手は獣の国。しかも個々の能力は高くても数はそう多くは無いという情報も入っています。既にエルンクルスは今まで、未知の世界だった魔国の情報をかなり集めているようですし。
失敗の可能性はあまりないでしょう」
「いえ、このままだと確実に『魔国侵攻』は失敗します」
「セイラ」
少し、気になったことはある。
どこから、魔国の民が少ないっていう情報が洩れてるのかな? とか、もう、次元の穴から斥候役が、魔国に紛れ込んでいるのかな? とか。
もしかしたら、囚われて飼われている魔国の夫婦とかがいるのだろうか? 調べてみる必要がありそうだ。
でもそれより先にやらなければならないことはある。
「王女様。
私は商人の娘にございます。必要な所に、必要な物を運び、それによって利益を得るのが我らが誇り。故にお伺いします。
第一王子の失脚をお望みであるのなら、それを可能にする情報や手立てが我らにはございます。それをいくらにて買い取って頂けますか?」
魔国とアインツ商会、そしてこの世界を崩壊から守る事。
魔国王女として、サクシャとして。
令嬢方々が目を丸くする中、私は大きく深呼吸。
プレゼンテーションを始めるのだった。




