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人国 第一王女との会談 5

 一気に、自分の体温が氷点下に下がった気がした。

 油断した、甘く見ていた、という訳ではないけれど。


「フェレイラ様は……クラス判定がおできになるのですか?」

「『聖女』の最上位能力です。『神』と『神』がお授けになった水晶と力を通わせ、人の持つ可能性を見出します。

 神殿の秘事で、多分、国王陛下はともかく王子達は、知らないですし、人国でできるのは私だけ、でしょうね」

「水晶が、この場にあるわけでもないのに……」

「祈りさえ真摯であれば、距離は関係ないのですよ。『聖女』として正しい地位を受けた者であれば、このようにその分体も授けられますし」


 フェレイラ様が、服の隠しから出したのは小さなアミュレットのようなものだった。

 水晶で作った五芒星を、さらにガラスで封じ込めている。

 ヴィッヘントルクの教会シンボルは五芒星なんだな、今まで殆ど魔国以外の神殿に足を踏み入れたことがないから、解らなかった。

 と、どうでもいいことを思う。

 解っている。逃避だ。

 でも、逃げることはできない。

 この国最高位の『聖女』は、今も微笑しているのだから。私の『真実』を看破した上で。


「『サクシャ』? ですか? セイラのクラスが?」

「え? でも、セイラは商人、ではなかったの? ちゃんと聞いたことは無かったけれど、アカデミアにはそう登録されていると聞いたわよ」


 アルティナ様の爆弾発言に、アルティナ様とソフィア嬢が首を傾げている。

 お二人はアカデミアで職員をしていた頃の私を知っているから、疑問に思うのだろうね。

 私は慌ててフリーズした『自分』再起動させる。

 このまま、彼女のペースで巻き込まれてはダメだ。


「とても変わったレアクラスね。私も今まで一度も見聞きしたことはありません。

 何ができるクラスなのか、聞いてもいいかしら?」

「わ、私にもよく解りません。ただ、変わったことを夢に見たり、不思議なものを知っているような気になったり、あと、物の特性が解ったりするだけの役に立たない能力なんです……」


 解らない、役に立たないクラスだと思わせておく。少なくとも思われていると。

 サクシャ=作者、この世界の創造主などとは口が裂けても言えない。


「私は判定の時、クラス、サクシャと出て役に立たないと廃棄されました。死の谷に墜とされる筈の所を、哀れんだアインツ商会のヴィクトール様に拾われたのです」

「死の谷? 死の谷に子どもを落としているというのですか? あそこは罪人の処刑場ですよ?」

「少なくとも、私が所属していた孤児院ではそうでした。私以外にも無能力者とされた子も一緒に谷に墜とされ、彼らは……死んだと思います」

「何故、そんなことが? 大きな孤児院などのクラス判定には不正防止の為に王族が立ち会う決まりになっていた筈です」

「その王族の命令でしたから。少なくとも、私は王子エルンクルス様の命により、役に立たない者はいらぬ、と死の谷送りを命じられました」


 驚愕の表情を浮かべるフェレイラ様。

 彼女を含めて令嬢方々の驚きの様子に嘘は無さそうだ。

 女性王族に立ち合いの職務は無いのか、それとも『無能力者』を死の谷に。という判断が王子エルンクルスの独断だったのかは解らないけれど、人国であってもおかしいことだと思って貰えるらしい。

 少しだけ、ホッとした。


「ヴィクトール様は私を守る為に、商人であるという偽のクラス証明を神殿に頼んで出して貰いました。外にも魔国の迷い子や、クラス判定からもあぶれた廃棄児などを多く引き取って育てております。ミア様は、私の真のクラスは御存じありませんが、魔国の迷い子の存在には気付かれたようで、その件について沈黙を守る代わりに協力する様にと申し付けられております」


 改めて私は言い訳をフェレリア様に語った。

 ほぼ即興。捏造もあるしヴィクトール様にはこれが知れると迷惑がかかると思う。

 全てが嘘ではないけれど、全てがホントでもない。ウォルの秘密を告げてしまうことになるし。

 でもサクシャの能力の秘密とか、魔国の民だとかは知られることは絶対に避けないといけない。アインツ商会、ヴィクトール様が個人の判断で孤児を引き取って守っている、としたほうが美談に思って貰えそうだ。


「クラス判定の偽造が横行している話は耳に入っていましたが、まさか目の前にいたとは……。戻ったら、神殿内の監査をした方がいいかもしれませんね」

「父は、私達を哀れに思って助けようとして下さっただけなのです。

 どうか、ご内密に頂けませんか?」


 両膝を付き、頭を地面に擦り付ける。所謂土下座。

 アリーシャ様達が心配しているのが解るけれど今は、なんとかこの場を切り抜けないといけない。

 最悪の場合には転移術を使って、撤退。

 アインツ商会も畳んで、隠れ里の人達を魔国に戻さないといけなくなるけれど。


「顔をお上げなさい。そんなに怯えなくても大丈夫」


 色々な方法を頭の中でシュミレートしていた私の頭上に、柔らかい言葉が落ちる。


「私は、余計な事は吹聴しませんよ。ミアのように脅迫もしません。

 無論、ここにいる者達にも語らせることはしないから安心して」

「ホントですか?」

「クラスの偽証は確かに罪ですが、正直な話、貴族階級でも無い話ではないですし、それがよっぽどの害悪を齎さない限りは、知らないフリをするのがマナーになっています。あからさまな脅迫などするのは手段としては下策。本当の貴族であるのなら、こちらの弱みは作らず、相手に貸しを作るのが肝要なのです」


 上げた顔で周囲を伺えば、(多分)自分のかつての強引さを当てこすられたアルティナ王女は顔を恥ずかし気に赤らめているけれど、他の女性達はフェレイラ様の言葉に頷いている。


「そういう訳で、改めて話をしましょう。立ち上がり、席に座り直しなさい。

 セイラ。

 主題は『第一王子エルンクルスの失脚、とアインツ商会と第一王女派の末永く有効な関係について』」


 強敵だ。と膝の埃を払いながら思う。

 けれど、負けるわけには行かない。

 言われるままに立ち上がり、ドレスの裾を払ってソファに座り直す。


 ここからが本当の正念場だ。


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