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人国 第一王女との会談 3

『偽聖女』


 はっきりと。

 この国の『聖女』の代表である第一王女がミアのことを、そう表現したことに少し驚く。

 私の驚きや戸惑いを、知ってから知らずか。


「本来なら、ミアは『聖女』である私の管轄。部下として教育を授け、育てるのが常なのですが、まったくもって言う事を聞きません。『聖女』としての能力そのものは、けっして低くはなく。むしろ『聖女』というクラスでできることの全てを理解しているようではあるのですが……いかんせん、それを使う者としての精神があまりにも未熟で、暴走を始めてしまったのです」


 微かに目を伏せ、どこか、誰かに祈り告げるような眼差しで第一王女フェレイラ様は言葉を紡ぎ続ける。


「暴走、でございますか?」

「はい。『聖女』のクラスと判明した者は、どの身分の生まれであっても国の宝として保護され、貴族の一員として迎えられ『聖女』としての教育を受けることになります」


 クラス『聖女』として判定された時点で、貴族として扱われ孤児であっても養女縁組などが行われるが教育そのものは、貴族家ではなく、神殿内の教育機関。言ってみれば聖女のコミュニティで行われるとフェレイラ様は教えてくれる。


「『聖女教育』は、国を支える貴族の一員として恥ずかしくない教養を身に着けるのが第一義ではありますが、それ以上に自らが『神より人々を、守り、救う使命を与えられた者』であることを自覚し、人々の為に尽くすことを誇り、喜びとする精神を身に着けることが大事。ですが、その一番大事な精神を身に着ける前にあの子は、弟にして第一王子の毒牙にかかり、汚染されてしまったのです」

「第一王子は、ミアを『自分の言う事を聞く治癒能力者』として、己の所有物にしたかったのだと思います」


 フェレイラ様の説明を補足するように、今までずっと沈黙を守っていた女性が口を開いた。感情を廃し事実を述べる理知的で冷静な言葉。明るいブルネットのふんわりとした髪を結い上げた、見るからに才女と言った雰囲気の女性を、実はお茶の前に紹介されていた。  


 彼女とは完全な初対面だったけれど、紹介を受ける前から、実は私はなんとなく誰か知っていたというか気付いていた。事前に調べてもいたし、何より彼女とよく似た人物を知っていたから。


「コレット様……」


 宰相家の長女にして第一王子の婚約者、コレット様。

 術の勇者カロッサ様の姉上だ。


「第一王子は、私におっしゃいました。

『私の隣に立ち、第一王子妃として。そしていずれ王妃として立つのはお前だけだ。

 だが魔国との戦をまえに、どうしても姉上の許可のいらない『聖女』を所有する必要がある。君には暫く不快な思いをさせるかもしれないが許して欲しい』と。

 そうして陛下はミアに接近、懐柔し始めたのです」


 やっぱり、となんとなく思った。

 自分は第一王子に愛されている。とミアは自信満々に言っていたけれど、第一王子としては彼女を道具として囲い、使い潰す気満々だったのだ。


「最初は、十も歳下の子どもに本気になりはしないだろう。と思い、私も貴族家の娘の端くれ。愛人や側妃の一人二人は正妻として認めるべきと教えられておりますから様子を見ておりました。けれど、ミアは王子のアプローチ以降。『聖女』であると同時に『神の娘』『大いなる知識を授けられし者』として覚醒。

 人世のそれとは違う豊富な知識で、王子の心。主に王としての計算や権力欲などでしょうけれど……を掴み始めたのです」


 話が繋がってきた。

 王子のプロポーズ? に感激したミアは地球世界からの転生者としての知識や『聖女』としてのスキルをフル活用し己の有益性を示し始める。

 多分、地球世界の料理とか、施策とか。

 あと、物語の(自称)作者としての魔物知識とか、クラススキルの仕組みとかもかな?

 権力に対して、強い執着を持つ王子は、彼女をただの『聖女』ただの道具にするには惜しいと思い始めた。


「ミアは、今、『神の知識を持つ者』として『聖女』以上の『聖女』として遇せられております。そして、私を見下すようになったのです。王子も彼女の機嫌を損ねまいとしてか、ミアの言動を止めることを致しません。むしろ調子を合わせ『表舞台で伴う妻には、やはり華が欲しいな』などと嘲笑を浴びせかけるようになりました」


 第一王子の婚約者たるコレット様は、アカデミアの頃から才色兼備として名高く、次代の王妃として完璧な教育も授けられてきた正しくファーストレディだ。ただミアや、王家の姫君、ソフィア様に比べると失礼ながら、少し外見的な華やかさには欠ける。

 これは勿論、彼女のせいではなく生まれ持った色合いの為。茶色系の色合いは優しく、温かみがあって、知的なコレット様にピッタリで、私は好きだけれど。


「彼女の知識は特に、今まで知られていなかった魔物の能力や、人のクラスの可能性など、人知の及ばぬ分野に特化しており、特に魔術の系統や特性などについて『聖女』から助言を受けるとより強くなれる、と周囲からの人気も高まっています。

 父宰相さえもその有益性を認め『聖女にお飾りの正妃を任せ、お前が実権を握れば良かろう』などと言い出す始末。それに加えて今まで品薄でどれほど金銭を積んでも手に入らなかった砂糖や化粧品などをアインツ商会からの特殊ルートで手に入ればら撒く事で、上位貴族階級社会にも土足で踏み込もうとしています。

 王妃様にも気に入られていて、正直手が付けられなくなってきています」

「…………」

「言いたいことは解りますよ。セイラ。私の実母である正妃が、娘の管轄下から抜け出した問題児をそんなに気に入るのか? と思っているでしょう?」

「あ、いえ。そんなことは……」


 勿論思っている。ただ、噂としては聞いているからね。第一王女と現正妃はあんまり仲が宜しくないって。


  「耳の早い商人なら知っているでしょうけれど、私と、エルンクルス、アルティナの母は姉妹で、伯母に当たります。第一王女を産んだものの、男児を授からなかった母は、アルティナを産んで直ぐに死した姉の跡に入る形で正妃になり、第一王子を育てました。

 期待に添えなかった私は、神殿に早くから入れられて『聖女』としての生活に入りました。要するに捨てられたのです。

 後に側妃となる『聖女』エスリン様が暖かさを下さらなければ、私は『母』のぬくもりを生涯知らずに過ごしたかもしれません」


 一緒に俯くアルティナ様の様子から察するに、アルティナ様も母君にほったらかしにされて育ったのかもしれない。だからこそ、寂しく、わがまま放題に育ったと思うと彼女の行動を肯定はできなくても理解はできる、かも。


「ミアは、聖女としての知識、力はあってもその心は『聖女』ではない。

 故に、私は彼女を『聖女』とは認めていません。フォイエルシュタインをこれ以上混乱させない為にも、エルンクルスの目を覚まさせる必要があるのです。だからセイラ。

 貴女とアインツ商会の力を借りたいと思っています」


 まず、何よりミアの力を削ぎたい。

 知識などは奪えないけれど、物理的なアインツ商会の商品なら奪える、という訳だ。


 さて、どうしたものだろう。

 このままミアの暴走を許しておけば、フォイエルシュタインは割れるし、ミアが与える恩恵以上のトラブルが起きるのは必至。魔国の有利を一番に考えるならこのまま放置しておくのもあり、だ。ただ、人国の魔国侵攻を「ミア」という有利なピースを相手に所持させたままというのも拙い気がするし……。


 これは護衛(アリーシャ様)侍女(リサ)には頼れない、私の課題。

 私は頭の中で、真剣に考えた。様々なシュミレートを走らせながら。


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