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人国 伯爵令嬢の伝言

 招待状を仲介して来たのは侯爵令嬢ソフィア。

 私がアカデミアの職員だった頃からよく声をかけてきた女性だ。

 彼女に呼び出しを喰らったのはミアとの接触から約1週間後。


「貴女は! 恩に報いる言葉を知らないの!」

「ソフィア様……」


 レンタル応接室に入った瞬間、私はいきなりの怒声で迎えられた。

 アリーシャ様なんか、驚いて身構えたくらい、

 奥に優雅に座して待つのが礼儀のレディが。

 腰に手を当て、肩を怒らせ。レディらしからぬ感情を露わにして、私に近づいてくる。


「お久しぶりでございます。

 アカデミアに職員として在籍していた頃は大変お世話になりました」


 私は護衛を制し、上位者に対しての礼を取る。

 アカデミアでは身分の差はなく学生として平等、なんていう言葉は建前だけのこと。

 今の私は商人とはいえ平民。お貴族様には頭を下げるのは当然だから。

 でも。


「ですが、いきなり忘恩、と申されましてもなんなのことだか……」


 怒鳴られる筋合いは無いと思う。

 そう態度込みで告げた私に、最上級生である彼女は、顔を主に染める。

 羞恥か、怒りか。もしくはその両方か。


「アカデミアに戻ってきたのなら! 

 まずは私に挨拶に来るのが筋というものではなくって?」


 人目のないのを良いことに彼女は勢いのまま捲し立てる。


「あれだけ目をかけてあげたのに! 挨拶も無く! 似非聖女に擦り寄って!

 貴女が投獄されたと聞いて心配して! 第二王女に進言までしたのですよ。私は!」

「ああ、そういうことでしたらば」


 納得。

 彼女は私が戻ってきたら自分を頼ってくると思ったのか。

 だから蚊帳の外に置かれて拗ねている訳だ。

 たしかに、アカデミア在籍中、色々とお世話になった。

 新しいもの好きで、貴族のプライドとかにあまりこだわらない開明的な思考を持っている。だから、私を本人曰く「目をかけて」ぶっちゃけるとこき使ってくれていた。

 さっぱりとした悪気の無い女性なので個人的には嫌いではなかったのだけれど、頼ろうという気持ちにはなれなかったんだよね。

 でも、そんな事を言って相手を怒らせても益は何もない。

 むしろ機嫌を取って縁を作るのが人間関係の基本というもの。


「ソフィア様にご迷惑をおかけするのが憚られ、連絡を取れずにおりましたことをお許し下さい。父からは上位の皆様方にくれぐれもご迷惑をおかけしないようにと命じられておりましたので」


 自分から声をかけなかったのは、ソフィア嬢に迷惑をかけないようにしたかったから、ということにしておく。まんざら嘘ではないし。


「そういうことなら……まあ、許してあげなくもないけれど。

 貴女、早く私の所に来ないから、変なのに掴まったでしょう?

 早く清算して縁を切らないと、今後のアインツ商会、そして貴女自身の未来にも良くないことになるわよ」

「変なの……でございますか?」


 少し機嫌を直したらしい彼女は私を哀れむようにわざとらしい息を吐く。

 話の流れと『掴まった』という言葉から察するにソフィア様が告げる「変なの」とはミアの事じゃないかなって思う。ミアに好意を持つ人は多いけれど、嫌う人間もそれなりにいる。特に貴族の上位者などは、あまり礼儀を知らない自由奔放な態度を煙たがるような印象だ。


「それは……」

「まあ、詳しい話は後でするわ。

 次の休みは空けておきなさい」


 相変わらず人の話や都合を考慮にいれないお貴族様の言い分。

 でも、この時は『詳しい話』をするつもりなんだと思ったんだよね。


「次の休み……って明後日? 何か御用ですか? 商品の在庫確認に店に戻る予定でしたのですが」

「そんなのはいつでもできるでしょう?

 ほら! それを見なさい。王族直々からの招待よ、まさか断るつもり?」

「え? 王族?」


 私はソフィア様の側仕えが差し出した『招待状』を慌てて見やる。

 銀のトレイに、純白の羊皮紙。青のリボンと封緘で閉じられた文書は確かに、正式な要請の書類に見えた。

 封緘の蝋に浮かぶ紋章は祈りを捧げる長髪の女性。これってまさか『聖女』だったり?

 私の疑問に応えるようにソフィア様が続ける。


「第一王女 フェレイラ様から貴女とアインツ商会への仲介を頼まれました」


 って。

 第一王女フェレイラ様と言えば、噂に聞いた第一王子の姉上で、人国の女性の最高位に近い『聖女』。ミアの多分直属の上司に近い筈だけれど……、このタイミングで私に接触してくるとは。


「大事な話と相談があるそうです。次の休みに迎えの馬車を寄越すので、足を運ぶようにとのこと。許可される同伴者は貴女と女性随員のみ」


 綺麗な封緘を壊すのにちょっと勇気がいったけれど。

 文書の中を改めてみれば、確かにそう書かれている。

 馬車が差し向けられる時間は書いてあるけれど、どこに行くかは書いてない。

 う~ん、蘇るトラウマ。

 第二王女に拉致された時の事を思い出しそうだ


「フェレイラ様や他の方も男の護衛は連れて来ませんので信用する様に。

 商売の話では……あまりないので、商会長は同行の必要もありません。多少の権限は貴女にもあるのでしょうし?」


 男は連れて来るな。ね。

『聖女』様がいらっしゃるのなら、男性接近禁止は解らない話でも無い。

 トラウマはあるけれど、今回は正式な文書がこちらの手元に来ている。

 その上で、拉致監禁、アインツ商会を脅迫なんてしたら、どうなるかは解っているだろう。

 因みに、あまりない、というのは全然ない、という訳ではないということで、多少は商売の話になることも有り得るという話。

 商品に関しては事前に話しを通しておけば、アインツ商会の郷で作られる品は私の裁量で多少融通を聞かせていいことになっている。ミアのように纏まった量を定期的に回せ、というのでなければなんとかなる筈だ。


「おっしゃる通りです。

 ですが、他の方、ということはフェレイラ様の他にもどなたかが?」

「一名、御同席なさいます。それが誰かは今は言えません。当日紹介するわ」


『聖女』である第一王女と同席できる侯爵令嬢ソフィア様が敬語を使う人物。……か。

 因みに私はまだ受けるとは言っていないけれど、拒否権は無いってことだよね。

 覚悟を決めて、私はアリーシャ様に一度だけ目くばせ。

 それから深く胸に手を当て頭を下げた。


「解りました。このご招待、謹んでお受けいたします」


 安堵したように息を吐きだすソフィア様。

 随分と強気に見えたけど、多分仲介をしっかり果たせないと、評価が下がるとかいろいろありそうだから緊張してたんだろうなあ。


「それでいいわ。あと、解っていると思うけれど、この招待の件については他言厳禁、特にミアには絶対に知らせる事の無い様に」

「解りました。ただ、先の事がありますので、この招待状は商会長の元に届け招待については知らせますがよろしいですか?」

「心配するようなことは無いから大丈夫。と言っておくけれど、証明の為にもなるから構いません」


 万が一、私達がまた戻ってこない時にはヴィクトール様が何とかして下さるだろう。

 今は、どうしてもの時は私も転移術が使えるし。

 後は少し、細かい時間やその他のすり合わせをして帰る直前。


「ところで、セイラ。第二王女の事はまだ許すつもりはないの?」


 ソフィア様は探る様に、そう聞いてきた。

 本題は招待の件だけど、こっちについても頼まれてたのかな?


「許す、許さないではなく、そもそも謝罪も何も受けていませんから」


 私がアカデミアから去るきっかけになった第二王女アルティナ姫からの脅迫、拉致監禁。

 王家からの謝罪はあったから、アインツ商会は王都、王宮での商売を再開したが王族、貴族関係なく、発注書が届いた順番に品物を届ける形を取っている。王であろうと王妃であろうと一切特別扱いをしないから、王妃などはミアを使って化粧品の入手を計っているのだろう。


「王家の方々が、王族であるということを盾に民を、商人を見下すのであれば、商人もまた王も貴族も関係なく商いを行う。

 ただ、それだけの話です」

「では、第二王女が正式に発注書を出せば受けるの?」

「はい。正式な価格でお受けします。余計な割り増しもしませんし、割引もしません」


 礼には礼。恩には恩を返すのが魔国の。人の習いというもの。


「もし、第二王女とお話をされる機会が御有りなら

『貴女が食する食べ物も、纏う衣服も、横たわる寝台も全て作るもの、商う者あってこそということを、どうかお含みをき頂ければ幸いです』

 とお伝え下さいませ」


 ソフィア様が、私の言葉にどう思ったのか、そもそも伝言を伝えたかどうかも解らない。


 けれど、どうでもいい。

 私の中では第二王女は完全なアウトオブ眼中。蚊帳の外。


 次の会見に向けてのシミュレーションで頭がいっぱいだったから。 


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