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人国 『聖女』ミアの言い分 後編

 あの方に、手を差し伸べられた瞬間。私は理解してしまった。


 私は、この人と共に歩み、人国を導く為にこの世界に転生したのだと。

 小説の世界では、メインの主人公を引き立てる悪役として設定された『愚かな第一王子 エルンクルス』

 けれど、彼はこうして見れば小説の中で描いた程愚鈍ではなく、むしろ才気に溢れている。私の手を握り、私だけを真っすぐに見つめてくれた。


「聖女ミア。君は、選ばれた者だ。

 美しさも、強さも他者の追従を許さない。」


 彼のアイスブルーの瞳に移る私は、煌めいて誰よりも美しいと解る。

 自分でも見惚れてしまう程に。


「どうか、私の元で、私の為だけにその力を使って欲しい」

「エルンクルス! 何度言ったら解るのですか!?」


 けれど、王子と私の間に邪魔者が割り込んで来る。

 聖女達の長 王女フェレイラ。

 彼女は私の前に立ち、王子の手を払うと、睨みつけた。


「ここは、聖女の訓練場、例え王子と言えど男子が勝手に入っていい場ではありません!

 ましてやミアは、まだ訓練途上の未熟な『聖女』

 まだ身に着けるべきこと、学ぶべきことが聖女としても貴族の一員としても山ほどあるのです。

 甘い言葉で誘惑しないで頂戴!」


 けれど、王子は怯まずに私に向かって微笑んでくれた。


「姉上の方こそ『聖女』を囲い込み、私物化しているのではありませんか?

『聖女』のクラスを得た者は、社交界はおろか、アカデミアに学ぶことも許されず『聖女の訓練場』でただひたすらに訓練を強要される。姉上の許しが出るまで」

「『聖女』は万人が求める『神』が与えたもうた奇跡。故にこそ、強い意思と判断力がも求められるのです。彼女達が、誘惑に甘い誘惑に屈せず一人前になるまで育てることが、私が先代、そして代々の『聖女』から託された役目なのですから!」

「そうして、幼く幸せな日々をただただ『聖女』の役目と訓練に費やす日々は哀れだと思わないのですか?」

「学びには必要な『時』があるのです!

 力の使い方。制御、自己節制。そして何より『人との関わり方』

 それを身に着けた後であれば、私は『聖女』達の行動を妨げはしません。

 貴方が聖女の力を欲し、己が決断と行動に恥ずべき点が無いのなら、一人前となった『聖女』達に頼みなさい」

「いえ、私が必要としているのは彼女達ではなくミア。君だけだから」

「エルンクルス様……」


 そうして、エルンクルス様は、聖女のコミュニティで燻っていた私の元を幾度となく訪れ、励まして下さった。

 クラスではなく、役職でもなく『私』を必要として下さっている。

 そんなことは、前世、今世を通しても初めての経験だった。心が躍る様に浮き立つ。

 だから、私も『作者』として『本気』を出すことにしたのだ。


「ミア! 貴方はまだ幼く解らないのかもしれないですけれど、エルンクルスの甘い言葉に騙されてはいけません。彼は自分の思い通りになる『聖女』が欲しいだけなのですよ」


 王女はそう言って私を諫め、監視を強めたけれど、一切無視する。

 本当は私は子どもでは無いのだし。

 冷静な判断力と、明晰な頭脳を持っているしこんな中世とは比較にならない高度な教育を受けてきた。

 何より、私はこのヴィッヘントルクの作者。『神』なのだから


 だから、まず私は、王子に手紙を書いた。


「私を、どうか自由の無い生活から助けて下さい。

 代わりに『神』から預かる『知識』を捧げます。」


 前世の知識を使った新商品作りや、内政チートは残念ながら私にはできなかった。

 料理も、新商品開発も、色々な施策も知識そのものはあるんだけど実行するには色々とあやふやだったし。

 貴族で『聖女』の私が調理場に立つ事なんて許されなかったしね。


 でも、私には別のモノがあった。

 物語世界『ヴィッヘントルク』の設定。だ。

 作者としてその知識をフル活用した。


「私は『神』の知識を預かっております。

 どうか、国の為にお役に立たせて下さい」


 正直にいうと魔宮メインの小説だったから、舞台としてのこの世界。

 ヴィッヘントルクには細かい設定はあまりされていなかった。

 でも、私の中には魔術体系や勇者やメインクラスのスキルなどについての、細かい設定や構成が知識として、記憶として残っていた。

 魔性の性質や、能力、特性などについても『解る』

 人々にまだ知られていないそれらを『神』から授けられた知識。として王子に知らせたのだ。


 それから『聖女』の隠しスキルのスイッチを入れた。

 そもそも、この世界はゲーム系転生物語と違って、自分にどんなスキルが目に見える訳じゃ無い。

 でも、私は作者だ。

 様々なクラスが、どのようなスキル構成で成り立っているのかを『知って』いる。

『王族』は『カリスマ』と『政治知識』『経済知識』『人間関係』。

『貴族』もほぼスキルは同じだけど、カリスマが無い、みたいに。

 我ながら凝り性だと思う。自分でもここまで設定したかな? ってくらい細かく、設定資料集を開くように思い出すことができた。

 そして知識の中には、メインクラスの隠しスキルもあった。


 全てのクラスにではないけれど、一部の特別クラスには、そのクラスたらしめる特別な隠しスキルがある。

『勇者』には『レベル上限なし』という隠しスキルがある。

 本人が成長を諦めない限り、レベルを上げていく事ができるというものだ。

 重ねて言うけれど、この世界は経験値を積めばパンパカパーン、とレベルが上がるような世界ではない。ステータスも基本、見えない。

 でも訓練を重ねれば見えない所でクラスのレベルは上がり、できることが増えるという感じだ。


『聖女』の隠しクラススキル『聖女のカリスマ』は周囲の人々から尊敬と好意を受けることができるという能力。

 表向きには見えないし、解らない。他の『聖女』達はそんなスキルがあることさえ、知らないだろう。

 本来はレベルと効果はイコールで、当人が実力を付けてレベルが上がっていくにつれて周囲からの好感度も上がりやすくなっていくというもの。

 元々、私の『聖女』としてのレベルは高い。そして毎日の地獄のような訓練でレベルも上がっている。私は意識して『聖女のカリスマ』が高まる様に意識し続けた。

 結果、少しずつ、少しずつ。

 徐々にみんな、私を好きになり味方になってくれるようになっていった。


 そして、トドメにして切り札も開示する。


「近日のうちに、魔国と人国を繋ぐ扉が開きます。

 長い歴史に稀に見る規模と、継続時間を有する強い『ゲート』です。

 それを使えば人国は、魔国に攻め入ることが可能になるでしょう」


 物語の中で、世界の均衡を破るきっかけとなった人国への侵略戦争。

 その入り口である『ゲート』の場所を教えたのだ。


 辺境の森林の中にあるゲートは発見されるまで、私が教えなければ多分、少し時間がかかった筈。

 でも、事前に場所を教えておくことで様々な手間を省く事ができる。


「凄いぞ! ミア。流石僕が見込んだ『聖女』だ」


 私の知識という『力』を認め、喜んで下さった王子は、国王陛下に進言し、私を『神の声と知識を持つ特別な『聖女』』としてフェレイラ王女の指揮するコミュニティから解放し魔国への侵攻軍、その旗印。聖女として招いて下さったのだ。


 軍の前に『聖女』として立ち、喝采を浴びるのは爽快な気分だった。

 こんなに自分という存在が認められるのは生まれて初めて。

 そして確信した。

 ここが、私の生きるべき世界。

 私はヴィッヘントルクで王子の傍らに立ち、役に立つ為に転生したのだと。


「魔国への侵攻が成功したら、君の努力には必ず報いる。

 望むなら妃として迎えよう。だから、君の知識も力も全て、僕の為に使っておくれ」

「はい。王子様。私は貴方に仕え己の全てを捧げると誓います」


 勿論、ここが終わりではない。

 通過点だ。

 王子の隣に居続ける為に、私にはやらなくてはならないことがたくさんある。 

 まずは噂のアインツ商会に近づいて商品を入手して、社交界での立場を固める。

 それから王子の婚約者を排除して、正妃の立場を確立させる。

 後は、私の中の知識を再確認して、有効活用する。

 勇者であるシャルル王子も味方にしないといけない。


 勝算はある。

 アインツ商会の躍進は、向こうの世界でよく見かけたタイプ。

 きっと転生者のチート知識によるものだろう。噂に聞くセイラとかいう娘は、転生者だ。味方、というか手駒にして私ができないところを補わせればいい。


 大丈夫。私はヴィッヘントルクの作者。

 人国を導く『神』

 この世界は、私のモノ、なのだから。


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