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人国 『聖女』ミアの言い分 前編

 アタシはミア・アレイシス。

 この世界での名前はミアで、アレイシス男爵家の養女になったからミア・アレイシスを名乗っている。

 所謂転生者で『向こう』での名前は星野夢子。あ、もちろんペンネームだから。

 本名は内緒。このご時世に簡単に開示てきませんことよ。


 向こう、と言えば解ってもらえると思うけれど、アタシは現代地球生まれの日本人だった。

 そして、死んだ記憶もないのだけれど、気が付いたらここに『ヴィッヘントルク』の子どもに生まれ変わっていたのだ。

 儀式まで。

 子ども時代の記憶はぼんやりとしている。いいものもあまりない。

 孤児として一か所に集められて働かされていたくらいかな。ただ、アタシはその中でもキラキラ金髪に、宝石のような瞳が、可愛い、って言われていたから、大人達にはちやほやして貰った。

 アタシは特別なんだって、昔から知ってた気がする。

 5歳の儀式になったら運命が決まる、特別なクラスを持っている子はここから出られるって聞いたその日にアタシは、必ず上に行くんだって解ったからその辺のちんけな子達とは付き合うのも止めて、ただただ、その日を待ったのだ。


 本当の意味で『運命』が変わったのも儀式の日。

 あの日、アタシは運命とも言える人国第一王子 エルンクルス様と出会ったのだ。


「やっと、新しい『聖女』が生まれたか。

 これで、国の守りは盤石となるだろう。よくぞ生まれて来た」

「あ、ありがとう……ございま……す!」

「おい! しっかりしろ!!」


 クラス『聖女』レベル10とされたアタシは、エルンクルス様と顔を合わせた直後、熱を出して倒れた。


 全身が氷水に浸したように冷たいのに、頭だけは火をつけたみたいに熱くって、死ぬかと思った翌日、目が覚めたら、アタシは自分が生まれ変わった事に気付いた。比喩ではなく。

 自分が『地球世界』の人間であり、アタシが自分の描いた小説世界ヴィッヘントルクに転生したであろうことをはっきり自覚したのだ。


 アタシがベッドで熱に浮かされて苦しんでいた時、上級クラスを得た子の養子先を決めるお披露目パーティがあったらしい。

 アタシはそれに出ることができず、後見人を見つけられず。

 そのままだと教会に見習いに出される所だったのだけれどアタシを哀れんでくれた王子の紹介で下級の男爵家に引き取られることになった。その不運は後にアタシの足を多少引っ張ることにはなったけれど、それはそれで、別にいい。

 アタシを選ばなかった連中が見る目が無かったってだけのことだし。


 最初は、よくある異世界転生。

 まったく見知らぬ異世界に転移したのだと思った。

 けれど、知るほどに『解るようになり』七歳の頃には完全に自覚した。

 転生した世界ヴィッヘントルク。このは、アタシが書いた小説の世界だ、と。

 物語の設定、地形、全てが頭の中に入っている。

 その上で現代地球人としての記憶も、頭の中に在った。

 つまり、アタシは自分が書いた小説の世界に転生したのだ。


 正直、やった! と思った。

 まったく知らない異世界で0から始めるよりはずっといい。

 しかも与えられたクラスは『聖女』。勇者に次ぐ特別職だ。

 現実の地球と違って、個々人の希望の職に就く事は許されず、生まれ持ったクラスが一生を左右する世界で存在するだけで尊敬される『聖女』はかなり当たりだと言えるだろう。

 どうせなら、作者である特権でチート能力でも欲しかったところではあるけれど。


 ただ、問題なのはアタシがこの世界の『創造主』として記憶している物語は途中まで。

 小説投稿サイトに載せていたけれど、不評というか芳しい反応が貰えずに途中で投げ出したものだったから。メインは『魔宮』『神の塔』のダンジョン探索で外の世界での話は深堀りしていなかったから、知識はあっても色々と苦労させられた。

 例えば、魔術の体系、聖女の能力は全て知っていたけれど、知っているのと使えるのは別物でどのくらいの力で、どのくらいの時間、力を持続させればどのくらいの傷が治せるのかは実践してみないと解らない。

 そんな感じで知識だけではどうにもならないことが多すぎた。

 男爵家に引き取られたとはいえ『聖女』だったから『聖女』のコミュニティに放り込まれ自由が与えられなかったのも辛い所だったし。


「『聖女』とは『神』によって人々に与えられた『希望』です。

 原則として特別な任に着くか、役割を退くまで、特定の誰かの為だけに『力』を使うという事は許されません。全ての人に平等に愛と癒しを』


 トップの『聖女』フェレイラ王女にそう言われて、日々訓練と治療の日々。

 しかも職務態度や貴族としての言動がなっていない、と言われて学校に行くどころかコミュニティから外に出る事さえ許されなかった。私の後輩『聖女』は上級貴族に引き取られたおかげでシャルル王子やリュドミラ王女にも可愛がられてたのに。


 アタシを引き取ってくれたアレイシス家の人々は、親切ではあったけれど朴訥で、上からの圧力に逆らえなくて、気も利かない。

 まったく役に立ってもくれなくて。本当に酷い毎日だった。

 例えば、アタシがあのセイラのように自由に動ける商人の元にいられたら、絶対に凄い商業チートをかませたのにと今も思う事がある。


 でも、そのおかげでアタシは運命の人、と出会った、いや再会したのだ。


 人国 第一王子エルンクルス。


 アタシを孤児院から助け出してくれた人は『聖女』のコミュニティで燻っていたアタシを見出し


「姉上! 

 聖女にもそれぞれ、個性や向き不向きがあります。

 誰も彼もを同じ仕事と枠に押し込めるのはいかがなものかと」


 手を差し伸べてくれた。


「ミア。始めて見た時から解っていた。

 其方には稀なる才能がある。

 私の元で力になってくれないか?」


 あの日、黄金の笑顔と輝きに包まれた日から、私は決めたのだ。

 彼を王にする。


 物語の主人公と、内容を書き直し、私と彼が思う通りに生きられる世界を作るののだ、と。


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