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魔国 転生者の告白

「そういう訳で。私には生まれる前に別人だった記憶があります。

 前世の私がいた世界はヴィッヘントルクではない別の世界で、そこでヴィッヘントルクは物語の世界として綴られていたんです」


 数日の後、魔国に戻った私はお義父様とお義母様、帰国したヴィクトール様。

 アドラール様とロキシム様。リュドミラ王女。

 そしてウォル、ジャハーン様、アリーシャ様、リサを前に改めて『私』の事情を説明した。

 人国で『聖女』ミアから圧迫会談を受けた後にアリーシャ様とリサにしたのと同じ話だけど。

 つまり転生者二人がヴィッヘントルクが物語として綴られた世界から、物語の中に登場人物として生まれ変わったという事。



 あ、今更だけと魔国と人国の暦は共通。7日×4週の暦も一緒。

 数字名の12月と日月火水木金土の曜日も同じ。ただ、月がこの世界には無い為か月の曜日が星の日になっているけれど。地国の空には星が無いので、この設定は人国でできたか『神』が決めたものなのだろう。

 日曜が安息日なのも地球と変わらない。

 お休みの日に実家に戻る、と学園に外出許可を出して

 学園→アインツ商会→魔国

 で戻ってきた。転移陣はやっぱり便利だ。転移術も。

 と、そういう話をしている場合ではない。本題本題。


「物語の世界って……ヴィッヘントルク世界をそのミアって娘が作って、書き止めたってこと、なのか?」

「『聖女』ミアはそう言ってるね。でも、私は半信半疑なんだ。そもそも、その小説と今のヴィッヘントルクはまったく同じでは無いし。」


 とりあえず、私は自分がヴィッヘントルクの物語を作った作者であるということは言わずに物語を読んで知っている人間、ということで話を進めている。ミアが作者を名乗っている以上、私も作者です。なんて話は混乱を招く。

 私自身でさえ、まだ理解も納得もできていないのに。


「セイラ。貴女が知る物語の世界で、ヴィッヘントルクはどのように描かれていたの?

 結末まで決まっていたのですか?」


 どこか心細げな顔と声音で問いかけて来るのは王妃。お義母様。


「完全な終局までは行っていませんでした。

 魔宮の探索を『魔国の勇者』ウォルと『人国の勇者』シャルル王子が協力して行っていた所まで。終盤にかなり近づいていたようですが……」

「その物語の過程で、リュドミラ王女は闇に心奪われ魔女王となり、世界を破滅に導くというのだな?」


 後半の質問の主は魔王陛下。リュドミラ王女は顔から血の気が引いたような真っ青な顔で聞いているけれど、傍らでアドラール様が控えて支えておられる。

 私がリュドミラ王女の救出を進言した時、彼女を見捨てておくと悲劇を引き起こす魔女王になると告げたので覚えておいでだったのだろう。静かに頷いて説明を続けた。


「はい。今は塔の中に人がいれば、滅多に魔物が外に出ることはありませんがリュドミラ王女が魔女王として魔宮に君臨する様になってからは、塔から魔物が出現するようになり人国も魔国も戦争どころではなくなるのです」


 人国と魔国が戦に入る直前、リュドミラ王女は冤罪を被せられ『神の塔』に封じられた。

 魔物を魔宮から出さない為の生贄だった筈が、逆に魔物を指揮する魔宮の主となり探索を阻み、国に混乱を巻き起こす。

 彼女自身が悪かったわけではなく、魔宮の真の支配者に操られた形ではあったけれど途中で改心することもなく、最後まで主人公達の敵を全うし弟の腕の中で目を閉じる。 

 というところまでもまだ、実は到達していなかったのだけれど。


「ふざけている! 人の人生を駒か何かのように……。我々には意思があり、思いがある。そこに第三者の介入する余地はない!」

「私も……あの地獄の記憶を持ったまま、誰にも助けられずに彷徨っていたとすれば、魔女王への道を歩んだ可能性がありますが、少なくとも今はそのようなことをしたいとは思いません」

「はい。全てが作者のペンで決まった物語世界と違い、今、私達が生まれ生きるヴィッヘントルクは、物語によく似て、登場人物も一部同じなだけの別世界と、私は理解しています。ただ、彼女はそうは思っていないようです」


 リュドミラ様が悪役に設定されている、と聞いて憤懣やるせない様子なのはアドラール様だ。ミアはリュドミラ王女を、魔国侵攻に成功した後の扱いやすい仮想敵として据えたいようだけれど、今はそれはもう不可能だし。


「セイラ!」

「はい」

「ヴィッヘントルクの世界とよく似た物語は未完であると言ったな。

『魔宮』の真意を始めとする『神』の御意思などは解らぬか?」

「御意。この件に関しては聖女ミアも覚えてはいないようです」


 本当に彼女が作者なら、結末までのプロットも無しで書いてたのか、と責めたいところだけれど私も記憶が欠落しているから偉そうなことは言えない。


「ミアの要求は、アインツ商会が整えた砂糖や化粧品などの物資を望むだけ回す事と、ウォルを魔国の傀儡の王にすること」

「俺?」


 急に話が振られたからウォルはビックリしている様子だ。

 アカデミアでは人気のない所で話をすることができなかったから、あんまり詳しい話ができなかったんだよね。


「物語世界では、ウォルがディオルグ君と一緒に魔王様の養子になって王子として魔の塔を攻略してたんだって。お義父様がリュドミラ王女やシャルル王子に人国を任せたいとお考えのように、彼女も自分の影響下にあると思っているウォルを後釜に据えたいと思ってるんだと思う。ウォルを魔国に戻して、魔王陛下の養子にしろって言われた」


 本当はウォルに魔王陛下を討たせるように言われたけれど、それは内緒。アリーシャ様にも言わないように頼んである。


「ふざけんな! 俺はどんなことが起きようとも人間のいいなりになんかならないし、魔王様を死なせるなんてしないぞ!」


 こうやってウォルが激昂するの解ってたからね。


「でも、実際に魔王陛下が人国との戦いで亡くなったりした時に、ウォルが陛下の養子の立場だったら、後を継いで王になったかもだよね? 魔国の王は指名制だから」

「あ……」

「聖女、正確には、王子の配下の方なんだけれど、人国で見つかって魔国に捕らえられた魔眼族がいてね。その方を監視とスパイにウォルを魔国に戻して暗殺を企てようとしてたみたい」


 あの後、こっそりと護衛騎士さんのステータスを見てみた。

『囚われの魔眼族』という冠を抱く騎士さんには、洗脳を意味するバッドステータスマークがついていた。出会った最初の頃にリュドミラ様についていたのと同じだ。

 何か術か物理的にか、彼は拘束をかけられて従っている。

 もしかしたら子どもの頃から、人国に従うように教育されているのかもしれないけれど。


「でも、今は次期魔王はお前だぞ! セイラ! 俺なんか戻したって、何の意味もない!」

「あの場ではそんな説明できなかったし、思い通りになると思わせておいた方がいいから。

 勿論私だって、そんなことはしないよ。っていうか」


 少し、虚空に逃げてしまう。

 眼が、心が。

 彼女は、容こそ違うけれど少し前の私と同じだ。


「あっちはまだこの世界が自分の描いた小説の世界だと思い込んでいるから。

 何でも自分の設定どおりになる、思い通りにならない事も変えられるって思ってるの」


 実際には彼女だってこの世界が小説と同じではない事に気付いている筈だ。

 笊な小説設定では説明がつかないことにもたくさん出会ってきたと思う。

 けれど、彼女はあえて、それに目をつぶっている様子。

 私はお義父様や、リサ、ウォル。リュドミラ様とかみんなとの出会いでこの世界は『私の』世界ではないと理解できたけれど。

 彼女は今も、都合のいい所だけを見て、自分の思い通りにできると信じているのだ。

 私も以前は自分が『間違った』ヴィッヘントルクの物語を『書き直す』ってそればっかり考えていたからあまり笑えもしないけれど。


「『神』はどうやら人国と魔国にそれぞれ、娘を遣わされたとみえる。

 出来は雲泥の差であるが。

 いや、つくづく魔国は当たりを引いた」

「陛下?」


 一通りの説明を聞き終えた魔王陛下は目を閉じ、くく、と楽しそうに笑っている。

 知識や記憶の共有はできるようになったと思っても、こういう時のお考えは解らない。


「セイラには既に告げたが、お前達。

 人国の聖女。『神の娘』の登場はむしろ魔国にとっては僥倖である」


 でも、何をしようとしているかは解っている。だから、傍らで魔王の後継者として膝を付いた。


「人国は知ることになるだろう。魔国に侵攻してきた時こそが、かの国の終焉のはじまりだということを」


 物語の作者ではなく、魔国の一人のニンゲンとして。


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