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人国 『魔王』の会話

 その日の夜。


「そういう訳です。人国の聖女『ミア・アレイシス』は異世界からの転生者で、私達の世界『ヴィッヘントルク』を物語として俯瞰しその性質、未来をある程度理解しているようです」

『お前と同じで、か?』

「はい。彼女は異世界では『物語』として構築され誰でも触れることができた『ヴィッヘントルク』の創造主『神』だと申しておりましたが」


  私は魔国の『お義父様』。魔王陛下に今日の、聖女との会談の内容を報告した。

 ここは女子寮の寝室。

 その中でも貴族階級の人に宛がわれているかなりいい部屋だ。

 使用人の部屋と寝室、リビング、お風呂、トイレのついた2LD。

 普通の一般生徒は、一人一部屋が普通だから、ヴィクトール様の寄付金と圧力が相当に効いたのだと思う。

 盗聴とかの心配もここなら多分、あまりない。

 側にいるのはアリーシャ様とリサ。ウォルは男子棟の方に住んでいる。

 私には護衛と侍女を付けて貰っているけれど、ウォルにはいない。

 女性と違って男性は、よっぽどの王侯貴族でない限りは、侍女や下働きを付けないのが普通なんだって


 で、人間関係なども私達よりかなり大変らしい。同級生に陰湿な嫌味を言われたり喧嘩を吹っ掛けられたりしているそうだ。味方であるシャルル王子も今はまだ探索で不在だし。

 愚痴や他人の悪口を口にするウォルではないけれど、それでも時折、不満や辛さが食事の時などに零れてきていたのは感じていた。


「ジャハーンを連れて来られればよかったのだけれど」

「その辺はお気になさらず。アリーシャ様。

 あいつが側にいるといない時よりも大変ですから」


 獣人族の秘宝の指輪でニンゲンに化けられるのは一人だけ。

 護衛は自分より、私の方に必要だから、とウォルは私にアリーシャ様を譲ってくれたのだ。

 ジャハーン様は、今、アインツ商会の隠れ里の護衛をしてくれている。

 姉貴ばっかり、と少し拗ねていたけれど、

 我が儘を押し通そうとしないでくれたのもありがたい。

 必要な時には交換する予定。流石にアカデミアには持ち込めなかったけれど、アインツ商会の支店には転移の魔方陣があるから半日ほどで行き来ができる。 いざとなれば私も転移術が使えるし。


 まあ、その辺はさておき。私達の会話を背後から聞いていたリサが目を丸くして私の背を叩く。


「セイラ? 今、私と同じって言った?」


 一応、声を潜めているのは魔王陛下に聞こえないように気を使っているのかな?


「聖女との会話を聞きながら感じていましたがやはり、セイラ様は……」

『個人的な情報交換は後でやれ。聞こえているぞ』

「「!!! 申し訳ございません!!」」


 慌てて謝罪し頭を下げるリサとアリーシャ様。

 因みに通信石は顔が見える訳ではないので、向こうで言うなら電話の前で頭を下げている感じ。

 まあ、慄く気持ちは解る。


「それで? お前から見てどうなのだ? その『聖女』の言い分は? 真にこの世界の『創造主』『神』だと思うのか? サクシャ」

「ヴィッヘントルクの記憶や知識を持っているのは確かなようですが本当に『創造主』かどうか、と言われたら否定したいですね。聖女ミアには人国と第一王子に対する偏愛しかないので彼女と第一王子が世界を支配したら、魔国人なんて奴隷街道まっしぐらです」

『やはり……な』

「やはりって、魔王陛下は『聖女』の正体にお気付きに?」


 あんまり驚いた様子も無く、むしろ納得したかのように魔王陛下は頷く声だ。

 なんで?


『いや『聖女』の言い分や真偽に興味はない。ただ、思わず知れたお前の『正体』に納得しただけだ。セイラ』

「あ……そうですね。別に必死になって隠す事でもないから、まあいいや、って思って」


 さっき二人にも驚かれたけれど、魔王様的には、出会った時から小生意気で何か隠しているような娘が異世界の記憶を持つ存在だと知れた、ということになるのだろう。


『子どもにしては知識や考え方などもまともではないと思っていたのだ。お前、その異世界とやらで教育を受け、成人もしていたな?』

「はい。まあ、一応。この世界で生きて来た年齢は紛れもなく十年ですけれど」

『得心が要った。お前についての詳しい話は今度魔国に戻ってきた時にでもゆっくりするとして『聖女』と話をした上で、今後、どう対応していくべきだと考える? サクシャよ』

「表向き、『聖女』の言う事を聞いているフリをして情報収集。

 それから王家からの要請の品を納入することをきっかけに、王族に近づく、でしょうか?」

『概ねそれでよいが、少し足りぬな』

「足りぬ? とは?」


 顔が見えないからはっきりと言い切れるわけではないけれど、お義父様はきっと、嗤ってる。私を試すような顔をして、私がどんな答えを出すのか興味津々で待っているのだ。


『それは自分で考えろ。

 話を聞く限り、ではあるがその転生聖女。なかなかにいい性格をしているようだ。本人が言う程のことができるかどうかも、それにそもそもの根本が正しいかどうかも怪しいぞ』

「根本?」

『人国の王子ともあろう者がそこまで本当に愚かなのか? ということだ。

 本気で『神の知識を持つ聖女』に傾いているというのならむしろ好都合だが』

「ああ、なるほど。確かに有り得ますね。ということは、周囲も実は彼女にうんざりしてるとか? そこを付けば逆に彼女の足元、ひいては国の中枢を崩せるかも」

「「? ??」」


 背後でリサとアリーシャ様が首を傾げている。

 後でちゃんと説明してあげないと。

 でも。

 なんだか継承の儀式の後から思考回路の作りがお義父様に近づいてきたのだろうか?

 前は何を考えているのか解らない怖い存在なだけだったのだけれど、今はそうでもない。

 というか、凄く解るようになってきた。

 意識がどこかでつながっているような。

 同じメモリを使って考え方や、知識を同期しているような感じが近いかも。

 あの儀式って形だけのものではなかったのかな?


『隠れ里で生産される品については、お前達の裁量で好きに動かして構わん。

 人国の侵攻まで予言が正確なら一月足らず。

 それまでに、人国の竜骨を崩して見せろ』

「魔王陛下の御心のままに」

『ああ、ウォルに関してはちゃんと話をし、伝えて助けてやれ。

 シャルル王子も間もなくそちらに戻る筈。一人で突っ走るな。走らせるな』

「解りました。ありがとうございます」


 微かに、何かが千切れるような音がして通信は終了する。

 電話が切れる時とか、あるいはもっと。テレビやラジオの電源が切れる時の感じとよく似ている。

 どこからどう見てもただの綺麗な水晶にしか見えない通信石で、遠距離通話ができる構造は理解できないけれど、電波的な何かで伝わっているのだろうか?


 そんなことをぼんやりと考えていると、思いっきり身体を揺さぶられた。


「セ・イ・ラ!!!」


 私の肩から手を回し、羽交い絞めのようにしがみついているのはリサだ。


「え、リサ?」

「お話が終わったのなら、ちゃんと何がどうなのか説明して!

 わけわかんなくて、頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃう!」

「私もリサと同じ思いです。あの邪悪さしか感じない『聖女』から御身を守る為にもどうか。事情をお聞かせ頂けないでしょうか?」

「アリーシャ様」


 心配そうに眉根を寄せる大事な二人に、私は小さく頷いて通信石を箱の中にしまって二人の方に向かい合う。


「これから全部説明するから。ウォルにも。休みになったら隠れ郷でヴィクトール様やジャハーン様にも話すけど。ちゃんと聞いて、できれば信じてくれると嬉しい」

「私は、どんなことでもセイラ言う事は信じるよ!」

「私も同じです。言い辛い事なのかもしれませんが、どうかお話下さい」

「別に言い辛い事、って訳では無いんだけど、ちょっと自分でもどうしてこうなったか解らない事だから」


 そうして、私は仲間の前で話し始めた。


 西尾星羅 異世界転生の物語を。


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