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人国 『作者』と『作者』の化かし合い

 ウォルを魔王に?

 自称作者、転生聖女ミアの突然の提案に私は唖然として声が出ない。

 彼女は私達が魔国の民だという事は知らない筈。

 私が魔王の後継者だっていうのも知らないよね?

 なのに、どうしてそんな提案があっさりと出てくるのだろうか?

 横に立つアリーシャ様も、明らかに意表を突かれた顔をしている。


「別に、そんなに驚くような話でも無いでしょう?

 ウォルは元々、魔国の『王子』なのだからその立場に近づけて欲しいだけよ。

 私達が魔国に侵攻し、占領した時、魔国をより良く治めてくれる傀儡が欲しいの」

「ああ、なるほど。魔国を指揮する代理王、ということですか」

「理解が早いわね。流石私の読者」


 作者だけど。

 つまりは魔王陛下が、地上の王としてリュドミラ様やシャルル王子を据えようとしたのと同じ。自分達の意を汲み思い通りに良い政をしてくれる存在が欲しいのだ。


「別に魔国そのものを滅ぼそうとかは思ってないわよ。人国は労働力不足だし、安価で仕えて特殊技能を持つ魔国の民はぜひともその地下資源と共に欲しい所だわ」

「安価、ってもしかして魔国を属国にして民を奴隷化とかするおつもりですか?」

「戦争による従属化ってそういうものでしょ? 人国を中心にして様々な産業を生み出し、魔国が労働力と資源で支える。それが世界の理想的な容だと思わない?」


 これは自分が属する『社会』の違いによる価値観の相違だな、って思う。

 もし、私が人国で貴族や王族として育てられていたら、確かにそう考えていたかもしれない。

 魔国で育てられていたから、今は魔国中心に考えてしまうけれど。


「私は、作者の能力もあって、この先の展開が少し解かるの。

 今、人国のとある場所に魔国と人国を繋ぐゲートが開きつつあるわ。近年稀にみる大きなもの。それを使って魔国に人国は侵攻を計画しているの」

「ああ、やっぱりゲートを使って魔国に攻め入るおつもりだったんですね」

「ええ。ゲートの出現を予見したからこそ、私は王子に認められて特別な聖女。

 王の傍らに立つ者として認められたのよ」


 ドヤ顔で胸を張る聖女は胸を張っていた。


「王子には婚約者とかいらっしゃらなかったのですか?」

「彼女は側妃として補佐をすることになっているわ。私が聖女兼正妃として国の未来を視て王子と共に安定の国を作る、実務は側妃が担当する。合理的よね」


 なるほど。

 婚約破棄系小説で、おバカな王子がよくやるパターン。

 努力してきた有能なヒロインを平民や異世界転移者などに恋して婚約破棄。

 でも、その有能さが惜しくなって側妃として使い潰そうとするやつ。


「お相手の姫君はそれに納得しておいでなのですか?」

「納得なんて必要ないでしょ? 第一王子の、未来の国王の命令なのですから」


 うわっ。サイテー。

 ヒロインを虐げる当て馬役のテンプレートのようだ。


「えっと……小説では魔国と人国の戦争の最中に『魔女王』リュドミラが現れて世界を崩壊の危機に訪れる、という内容だった気がするのですけれど」

「ええ。そうよ。

 でも、この世界ではリュドミラ王女は拘束されて『神の塔』から出られなくなっている筈だから『魔女王』にはなってないわ」

「! それは、どういう……」

「リュドミラ王女は『神の塔』の一室に拘束して魔性を食い止める人柱になって頂いているの。厳重な監視を付けて逃がさないように、と提案してあるから。

『魔女王』になられるのはやっかいだしね」


 私は怒りや怒鳴り出したい気持ちをぐっとこらえる。

 今は我慢、今は我慢。リュドミラ王女は助かっている。


「彼女を救出する為にシャルル王子が今、探索に向かっているのでは?」

「灯台下暗し。自分が通り過ぎる通路の横に王女が閉じ込められているなんて思わないわ。先に進んで彼女を助けようと必死になっている筈だもの。

 本当はあの膨大な魔力を上手く魔国の為に使えれば、と思ったのだけれど王子にとって彼女は許しがたいトラウマっぽくて」


 怒りで頭が沸騰しそうだ。

 リュドミラ王女を『神の塔』に放置するだけ、ならまだマシだったのに、拘束して辱められるなんていう地獄な目に合わされたのはやはり、この女とバカ王子のせいだったのか。

 でも、自称作者はそんな苦しみをキャラに押し付けた罪悪感など欠片も無いようだ。


「それに『魔国』との侵攻を成功させる為には、少しでも武力が必要だから、彼女を生贄にして他の人員を全て回収するくらいでないと」

「ですが、それによって『魔女王』が生まれたら人国侵攻どころではなくなるのでは?」

「だから、拘束監禁によって完全に管理に置いているのよ。魔国への侵攻が終わったら『魔女王リュドミラ』を誕生させるのもいいかと思っていたし」

「何故ですか?」

「『魔女王リュドミラ』はこの物語世界の柱のようなものだから。

 喪う事でどんな修正力が働くか解らないでしょ? それに、私が望むのはこの世界と王子エルンクルスの御世の安定。

 魔国侵攻を成功させた後の解りやすい、魔国人国共通の巨悪はいた方が国が纏まりやすいと思うから」

「その巨悪に世界が滅ぼされることになってもいいのですか?」

「世界を守るのは『勇者』の役目よ。国王や『聖女()』が血眼になることではないわ」


 話にならない。

 恋に目が眩んでいるのかもしれないけれど、彼女は作品世界への責任やこの世界のハッピーエンドなんてまるで考えていないのが解る。なんなんだ。この理解不可能な生物。

 しかも『魔女王』を管理しきれていない。

 本当は完全拘束して隠しきる予定だったのだろうけれど、護衛兵や魔宮に残っていた犯罪者達が彼女を辱めたからだ。だから、シャルル王子にも悪行はバレているし、私達の介入がなければ予定より早い『魔女王』リュドミラの降臨で世界は破滅していたかもしれない。


「それに『作者()』がいるのですもの。『魔女王』リュドミラの最終ステータスは理解しているわ。魔宮に住むモンスターの能力も凡そは。

 私はこの世界の『創造神の記憶を持つ者』

 故に人が知らない多くの事を知っているのですから」


 なるほど、そう言って王子に取り入ったのか?

 でも、この護衛騎士にはその先までぶっちゃけているの、いいのかな?


「苦戦はするでしょうけれど、光と闇の勇者二人が協力し合えばなんとかなるレベルで収まる筈よ。彼女は『神の塔』から出てこれない筈だし。

 だから、ウォルには魔国に戻って王子であり勇者の立場を取り戻して欲しくもあるの。

 流石にシャルル王子一人では『魔女王』リュドミラを倒せないでしょうし……」

「一つ、お聞かせ頂けますか?」

「え? 何?」


 私は声音をなるべく潜めながら問いかける。

 彼女が作者であるというのなら知っている筈の事。


「この物語の核は迷宮探索であったと理解しております。リュドミラ王女との決戦前で話は止まっていましたが、最終的にはその上にボスがいた、という設定、ですよね?」

「え? ……ええ。そうよ。『神の塔』『魔宮』の最深部には所謂ラスボスがいて、ヴィッヘントルク創造の秘密を知ることになる、って」

「そのラスボスについては、どうなっていたのでしょうか?」

「え? ラスボス? それは……………………………」


 あ、フリーズした。

 考えていなかったのか、覚えていないのか、それとも私のように思い出せない事、に気付いたのか?

 しばらく凍り付いていた彼女は慌てたように首を横に振る。


「そ、それは気にする事ではないわ。

 元々『神の塔』は触れなくても国の運営やその他にはあまり支障がないものだもの。

 迷宮探索を主題にする物語ならともかく、世界全体を描くなら攻略は後でいい。

 むしろ攻略してしまったら、物語は終わってしまう可能性があるから、今くらいの状態が一番いいと思うのよ」


 どこか焦って捲し立てる様子からして、おそらく彼女にもラスボスの設定記憶はないのだ。ただ、向き合ったが最後、それはヴィッヘントルクの終わり。ということは理解しているっぽい?


「と、とにかく! あんたは、私の世界にやってきた余分なお邪魔ムシなんだから、作者の言う事を聞くの! さもないとアインツ商会は魔国人を抱えている。魔国の手先だ! って言いふらして国で商売できなくさせてやるわよ!」


 いや、別に。

 本当の事だし、バレた時の対策もしてある。

 でも。


「解りました」


 大きく深呼吸の後、頭を下げる。

 ここまで私を『信じて』ぶっちゃけてくれたのなら、その信頼に、応えて見せましょうか。『作者』として。


「私一人の権限ではできないこともあるので、直ぐに全てを、とはお約束できませんが、できる範囲の全力でお手伝いしますから、ウォルとアインツ商会には手出しをなさらないで下さい」

「最初っから、そう言えばいいのよ。私は『作者』

 この世界の『創造主』であり『神』のようなもの。だから、私の思う通りに全て進めるの!」

「聖女様の、お望みのままに」


 満足げに微笑する『作者』の前で『作者()』はここから先、どんな風に『物語(ヴィッヘントルク)』を動かしていくべきかを考えていた。


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