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人国 『作者』の情報収集

 ちょっと、予想外で声も出ない。


 なんで、なんで『私』がここにいるのだろうか?


 いや『私』じゃない。絶対に『私』ではない、と解っているけれど。

 異世界に来て、まさか自分のペンネームとエタリ小説のタイトルを聞く日が来るなんて思いもしなかった。さらには『作者()』を名乗る人物と出会うことになるなんて。

 頭の中、大混乱、パニック。

 そんな私を見て彼女は一体何を思っているのだろうか?

 腰に手を当て、勝ち誇ったような顔で、私の事を見つめていた。


「驚くのは無理もないわ。私も転生した時には驚いたもの。

 まさか、自分の書いた小説の世界に生まれ変わるなんて」


 私は異世界転生前、地球で小説を書いていた。本業は保育士。

 ややブラック系な職場で働き、そのストレスを小説を書く事で発散させていたのだ。

 この世界で思い通りにならない事を異世界で。理想の人物や展開を書いて心を休める疑似転生みたいなものだと今なら言えると思う。

 ただ、ストレス解消の筈がPV伸びないとか、余計なストレスを産み精神的に落ち込むことになり、最終的にエタったのだけれど。


「色々と、違う所もあるけれどこの世界はね、私が作ったようなものなのよ。だから、私はこの世界の事は何でも知っているし、思い通りにして良いの!」


 目の前の少女、ミア。

 星野夢子はそう胸を張る。

 西尾星羅は本名だ。少々キラっているのは認めるけど紛れもない本名。

 プライバシー保護重視の二十一世紀で本名で小説上げるなんてできないよ。当然ペンネームを使っていた。それが星野夢子。

 つまり、目の前の人物は紛れもなく、私と同じ時代の転生者で、本当にこの世界とよく似た設定の小説「ヴィッヘントルクの暗き夢」を知っている人物なのだ。作者である、という主張は認めないけれど。

 絶対に。


「小説? この世界が本当に小説の世界だとおっしゃるのですか?」

「とぼけたり、口先三寸で誤魔化そうって言ってもそうはいかないから。

 アンタが二十一世紀からの転生者であることは解ってるの。

 砂糖と料理と化粧品は異世界転生の成り上がり基本アイテムだもんね。

 後は紙? アインツ商会が最近手を出し始めてるのは知ってるわよ。

 あたしも聖女として早々に自由を奪われなければ確かにそのあたりから攻めただろうし」


 間違いない、彼女はやはり同時代、同世代の異世界転生者だ。


「護衛がいるから話せないっていうのなら、外に出しなさいよ。

 あんたに危害を加える事はしないから。大事な『お仲間』だしね」


 どうしよう。

 私がちらりと向ける肩越し、視線の向こうにアリーシャ様がいる。

 彼女がいる状況で、どこまで認め、どこまで否定するべきか。


「セイラ様」

「アリーシャ」


 そんな私の気持ちを察してくれたのだろうか? アリーシャ様がそっと耳に口を寄せた。


「私の事はどうぞお気になさらず。聞いてはならぬことでしたら決してしゃべりません。

 創世神の名に懸けて。父にも弟にも、……主君であったとしても」


 それから顔を上げて、キッと鋭い眼光で目の前の二人。

 聖女とその護衛を見やる。


「ですから、どうか私をここから遠ざけることはなさらないで下さい。

 この聖女を名乗る女、油断なりません。セイラ様を残して部屋を出る事はできないと『解り』ます」


 確かに、この場で一人になったら何をされるか解らない。

 アカデミアの応接室で、使用には手続きが必要だし使用時間の終了にはアカデミアの職員が立ち会い退出を確認するのが決まりだけれども、抜け道は色々とある。

 ここで、私が聖女に掴まってあれやこれやされても、もみ消されてしまう事は十分に考えられるのだ。私は『聖女』に回復能力以外は設定していなかったけれど、


『『聖女』は人に好かれる不思議な魅力がある存在で、誰からも好意を抱かれる』


 なんては書いていていたから、拡大解釈で魅了系の力が与えられているかもしれないし。


「解った。ありがとう。詳しい説明は後で必ずするから、ここであったことはしゃべらないで」

「畏まりました」


 アリーシャ様の頷きを確認した私は、ミアと向かい合う。


「確かに。私には私ではない私の記憶がございます。ただ、それは生まれる前の記憶であって、今の私はヴィッヘントルク生まれの孤児上がり、セイラに過ぎません」

「ふーん。そういうパターン。

 転生にも色々あるのかしら? 私は自分を自覚した時から『星野夢子』だったけれど。

 ……じゃあ『ヴィッヘントルク』のことはどの程度記憶にあるの?」

「数多読んだ『物語』の一つにそのような名があった、と記憶していますがあまり詳しくは覚えていません」

「じゃあ、なんでウォルがアンタの側にいるの? 彼は魔国の王子でしょ?」

「……え? あの、彼が魔国人であることは確かにその通りなのですが、彼は孤児で、主に拾われ、その才能を見出された存在です。王子と言う存在ではないので」

「偶然? それにしたって、なんで主人公の一人がこんな所に出て来るの?

 私が人国にいて迷宮に行かないから_」


 私の釈明に少し目を見開くと、彼女はぶつぶつと口の中で何かつぶやき始める。


「魔国側の物語にもズレが出てきているみたいね。なんでこんなにあちこち違ってるのよ! めんどくさい。まあ、変えていくつもりだからそれはそれでいいんだけれど。

 思い通りにならないことが在るのはムカつくわ! じゃあ、セイラ! 聞くけど!」

「は、はい!」


 あっという間に呼び捨てだ。こっちが下手に出ていると思って随分と見下してくれる。

 まあ、今はグッと我慢して情報収集。あっちが私から色々と聞き出す間に、私も『聖女』の思惑や人国の現在を探ろう。


「あんたは地上の知識で何をしたの?」

「えっと、おっしゃる通り、砂糖と甜菜の栽培と活用を養父に知らせただけです。あとは化粧品と紙。料理法なども」

「砂糖を売りに出したのはどうして? 見つけたのはどうやって?」

「偶然、です。私は北の方の辺境に孤児として育ち、その過程で打ち捨てられていた甜菜や楓の木を見つけて父に知らせ、それを活用して商売を始めたので」

「ふーん。そういうことなら、あり得る? でも、偶然ウォルを拾ったとか無い筈だけど」

「ウォルや私に限らず、父はクラスが振るわず、打ち捨てられた子どもを見捨てられずにたくさん救ってくれていたので。今、アインツ商会の殆どはそういう拾われた孤児です」

「だから、アインツ商会に買収とかが効かないんだ。となるとめんどくさいけど、やっぱりアンタを使うしかないようね」

「私を使う?」


 ぶつぶつと何かを言って居た彼女が、何かを決意したように私の顔を見る。


「そうよ。この世界に不満を持つ同じ異世界転生者として、今後、あんたには私の手足となって働いて貰うから」

「私は不満なんて……そんな……」

「ない、とは言わさないわよ。貧しい食事に、低い文明レベル、シャンプーどころか石鹸だって碌にない世界に、あんた不満があったから、菓子だの料理だの作り始めたんでしょ? だったら、それをこっちにも回しなさい!」

「こっち、とは?」

「人国王室よ。

 私と王子 エルンクルス様は一緒にヴィッヘントルク。

 世界を変えるんだから。『作者』として」


 そういうと彼女は胸を張り、満面の笑みが浮かぶ顔を、さらに輝かせていた。

 (作者)の前で。


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