表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/368

魔国 主人公とサクシャの決意

 誰かに呼び止められるとは思っていなかったんだろう。

 ウォルは明らかに驚愕を浮かべ、信じられないモノを見るような眼で私を見ていた。


「な、なんだよ! お前! どうしてここに!」

「ん~と、同類だから? 魔国を出て、お父さんやお母さんを助けに行こうとしたんでしょ?」

「違う! もう……父さんと、母さんは……」

「ああ。そっか。ごめん。もう解ってるんだ。お父さんとお母さんが殺されてるってこと」

「!!!」


 濁しておこうかと思ったけど、本人が理解しているなら隠す必要は無いか。

 ヴィクトール様はおっしゃってた。状況からしてウォル達の両親は亡くなっているだろうって。


「魔国には子どもが生まれにくいんだって。だから、危険を冒しても人国に行って子どもを作りたいって魔国人は多いって言ってた。ウォルのお父さんとお母さんは、命がけでウォルと弟君を守ってくれたんだよね」

「オレが……オレが悪かったんだ。

 結界を出てはいけない、って言われてたのに、我慢できずに外に出て……。  

 後、少し我慢していれば。母さんの産後の肥立ちが落ち着いたら魔国に帰れるって言われてたのに……」


 震える言葉から察することはできる。

 子どもを産む為に隠れ暮らしていた魔族の親子。

 でも5歳の子どもに、家の中だけの生活は苦しくて。

 弟の誕生で慌ただしい状況の隙をついて外に出た。

 結果、見つかって追い詰められて。

 両親は子どもだけを命がけで逃がした。

 きっと悲劇の真相はそんな感じ。


「だから! オレは、人国に戻る!

 そして父さんと母さんを殺した奴を見つけて、必ず殺してやるんだ!」

「それは、止めた方がいいと思う」


 私はなるべく、平静を装いつつウォルを止める。

 ウォルが手に握っているのは、多分調理場からくすねた料理用の包丁一本だけ。


「武器はその包丁だけ? 路銀は? 旅の支度は?

 人国までどうやっていったら帰れるか解ってる? 王都ならともかく、周囲の荒野や森には魔宮から零れて彷徨う魔性も出るっ言ってたよ」


 あんなもので大人の一人でも止められるのなら、苦労はしなかった。

 私だって。


「止めるなよ! 放っておいてくれ!」

「そんな包丁一本で、大人を倒せるなら苦労しないし。

 今、一人で行っても多分人国まで着けないし、辿り着いたとしたって、犯人がどこにいるのか解らないんじゃない? 見つける前に見つかって今度こそ本当に殺されちゃうよ」

「そんなこと……やってみないと解らないだろ?」

「解るよ。無理。まだ子どもだもん」

「馬鹿にすんな! 子どもだって、やろうと命を賭ければなんとかできる!」

「だから! そんな根性論でなんとかなる力の差じゃないんだってば!

 私達はまだ、子どもで。小さくて、力も知恵も足りなくて。

 相手が聞こうとしてくれなきゃ、話をしてもぜんぜん無駄で、ゴミみたいに投げ捨てられて殺されるしかないんだから!」

「お前……。まさか。お前も?」


 私は口を堅く引き結ぶ。

 ちょっとキレたせいで滑っちゃったけど、私が見たあの光景を今はまだ誰にも語るつもりはない。不幸比べをするつもりもない。

 ただ、私はむしろウォルが羨ましいと思う。

 少なくとも、ウォルは生存を望まれて、弟を託されて、魔国に送られたのだから。

 流石主人公。しっかりとした背景と動機付けが用意されている。


「復讐を止めるつもりは無いよ。

 むしろ、やれって思う」

「え?」

「でも、その為にみすみす大事な魔国の民が、子どもが、仲間が死ぬのはイヤだから今は、止めただけ。

 勉強して、力をつけて、私もいつか人国に復讐する。その時の仲間、手駒は多い方がいいもんね」


 私の前世。

 保育士、西尾星羅は子どもの幸せを第一に考える優しい保育士だった。

 でも、今の私。ステラはなんとなく、西尾星羅の記憶を持つ別人な気がする。

 それは、多分、あの日。魔国に落ちた時に、私が一度死んだから、だ。

 だから、今の私はクラス『サクシャ』として、保育士として技術や向こうの世界の知識を復讐に使う事に躊躇いは無い。

 本当の保育士だったら、子どもを守る事を最優先にして、ウォルのことも


「お父さんやお母さんは復讐なんて望んでないよ」

「ここで、一緒に頑張って行こう」


 と慰め、説得するのが普通だと思う。そうできる話術も多分、ある。

 でもそうはしない。できない。

 私には、私の目的には彼が、彼の能力が絶対に必要だ。

 そう感じるから。

 そして、彼にも今はそんな甘い、上辺だけの言葉じゃなくって、絶望から這い上がる為の目標が必要なのだ。


「今は、今だけは我慢しよう。勉強して、力をつけるの。

 そしていつか、一緒に人国に復讐してこの世界を少しはマシに作り直そうよ!」


 真っすぐに、彼の瞳を見て手を差し伸べる。

 これは私の長い道のり。

 人国への帰還。復讐。そして子ども達の救出の為の第一歩だ。


「お前……どうしたら、あいつらを倒せるか解るのか?」

「こうすればいいんじゃないか? って考えている作戦は実はある。

 でも一人じゃできないから、力を貸して欲しい」


 彼がもし、私の手を取ったら、その時は道連れだ。

 小娘(モブ)が一人で人国を滅ぼすなんて不可能に決まっている。

 力がいるし、お金もいるし、仲間も必要。

 だけど、彼が、物語の主人公の一人がこの手を取ってくれたらきっとできる。


「お前……変な。いや、違う。凄い奴だな」

「へ?」

「本気で言ってるんだ。人国に復讐するとか、この世界を作り直すとか……」


 小首を傾げた私に薄く嗤うとウォルは私の手を掴まず、軽く叩くように合わせてくれた。

 パチン、と乾いた音がする。


「よく、父さんは褒めてくれる時、良くやった、って時、こうしてくれたんだ」


 そっか。タッチ。

 向こうの世界でもそうだった。

 考えてみれば握手って他の人がやっているのを知らないと意味が解らないよね。

 殆ど親子でしか暮らしていなかったのなら、周囲の人もみんな、見知らぬ人で怖かったかもしれない。


「解ってるつもりだったけどな。今、向こうに戻ったって何にもできないって。

 母さんや父さんの敵を討つこともできないって。

 オレは正直、今、自分がどこにいるのかも。何ができるのかも解らない。だから……」


 ウォルは一度だけ俯いた顔を、顔を真っすぐに上げると自分の頭の後ろに手をやった。

 バンダナの結び目がするりと外され、二つの水晶のような瞳とは違う、三つ目の目が出てきた。そういえば三眼族、って言ってたっけ。文字通りの三つ目族なんだ。

 魔国の王子『ウォルムヘル』は真実を見抜く力があると設定していたけれどきっとこの三眼の力なんだね。


「オレに教えてくれ。この国での生き方とか、戦う方法とか。

 あと、人国を倒す方法とか。

 三眼族の誇り。三つ目の目に賭けて誓うから。

 オレはお前を絶対に裏切らない。

 共に行き、必ず守るから」

「うん。信じる。ありがとう」


 そう言って、今度は私から手を伸ばし、彼の手を両手で包み込むように握りしめた。

 ? 顔が赤くなってる。

 か~わいい。

 ちなみに、今の所、彼に恋愛感情とかは欠片も感じられない。

 可愛い、護るべき子どもに見える。こういう時は大人の感覚になるから不思議だ。


「じゃあ、とりあえず今日は帰ろう。

 そして明日から、仕事をして、勉強しながら色々相談していこうよ」


 それから、私達はこっそりと館に戻って、何もなかったかのように眠った。

 でも、もしかしたら、そんな私達の事を見ていた人がいたのかもしれない。


「頼もしい子ども達だな」

「ええ。正しく」

「ふむ。あれらを鍛えて、人国に潜り込ませ、内側から、などというのはどう思う?」

「……いえ、名案かと」


 そんな声が聞こえたような気がしたから。


 それから、私とウォルは魔国の王宮でたった二人。

 違った。サラと三人だけの子どもとして育つことになる。

 最上級の教育を与えられ、私も魔国の為に色々な事をして。


 そして、ここに。

 人国に戻ってきたのだ。

 私が国を追われてから、

 八年もの時間がかかってしまったけれど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ